礼金なしの賃貸にするか迷ったら|オーナーが比べる収支・向く部屋・決め方

礼金なしで募集するかどうかを、オーナーの側から判断するための記事です。礼金の役目、空室の期間との比べ方、家賃を下げる場合やフリーレントとの違い、よくある失敗を順に説明します。
結論
- 礼金なしの賃貸にするかどうかは、「なくした礼金の額」と「空室が縮む月数」を比べて決めるのが基本です。
- 礼金は返さない前提で受け取るお金で、法律で決まった意味や金額はありません。なくしても、家賃の未払いへの備えは敷金や保証の方法で別に考えられます。
- 礼金をなくすと毎月の家賃は変わらないため、家賃を下げるより収支への影響が一度きりで済みます。一方で、短い期間で退去されたときの決めごとは先に用意しておきます。
募集を出しているのに、問い合わせが少ない。仲介会社から「礼金をなくせば決まりやすいですよ」と言われた。そんなとき、礼金を手放してよいのか迷うオーナーは多いと思います。
礼金は、入居のたびに入る一時金です。なくせば収入が減るのは確かです。ただ、空室が1か月続けば、その月の家賃はまるごと入りません。
この記事では、礼金なしにするかどうかを決めるための考え方を説明します。募集条件の見直し全体の順番は「賃貸の募集条件を見直す順番」で整理しているので、ここでは礼金の判断に絞ります。
礼金なしの賃貸とは
意味を一言で
礼金なしの賃貸とは、入居のときに借主から礼金を受け取らない条件で募集する部屋のことです。礼金は返さない前提で受け取るお金で、民法などで意味や金額が決められているものではありません。
これに対して敷金は、民法第622条の2で、家賃などの支払いを担保するために預かるお金と定められています。礼金をなくしても、敷金や保証の方法はそのまま残せます。
礼金は契約の前に説明される
宅地建物取引業法第35条では、仲介する会社が契約の前に説明する事項の一つとして、「借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的」を挙げています。礼金も、この説明の中で金額と目的が示されます。
つまり、礼金は借主から見ると「何のためのお金か」が問われやすい項目です。目的をうまく説明できない礼金は、比べられたときに外されやすくなります。
礼金なしにするか決める考え方
礼金の額と、空室の月数を比べる
礼金をなくすかどうかは、なくす礼金の額と、それによって縮むかもしれない空室の期間を比べて考えます。空室の期間が縮めば、その分の家賃が入るからです。
次の表は、考え方を示すための仮の数字です。実際の家賃や空室の期間は、物件や地域によって違います。
| 比べる点 | 礼金1か月で募集 | 礼金なしで募集 |
|---|---|---|
| 家賃(仮) | 8万円 | 8万円 |
| 入居時の礼金 | 8万円 | 0円 |
| 空室の期間(仮) | 3か月 | 2か月 |
| 空室で入らない家賃 | 24万円 | 16万円 |
| 差し引き(礼金−入らない家賃) | −16万円 | −16万円 |
この仮の例では、空室が1か月縮めば、礼金をなくした分と同じになります。2か月縮めば、礼金なしの方が手元に残るお金は多くなります。
家賃を下げる場合と比べる
礼金をなくす代わりに家賃を下げる方法もあります。ただ、家賃を下げると、入居している間ずっと収入が減ります。
| 方法 | 収支への影響 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 礼金をなくす | 入居のときに一度だけ減る | 短い期間で退去されると、次の募集でまた礼金が入らない |
| 家賃を下げる | 毎月減り続ける | 一度下げると戻しにくい。物件の評価にも響きやすい |
| フリーレントを付ける | 最初の数か月だけ減る | 短期解約の違約金の決めごとが要る |
家賃を下げるかどうかの判断は「家賃の値下げを判断する」で、フリーレントの決め方は「フリーレントのメリットと注意点」で説明しています。
ポイント
- 礼金は返さない前提の一時金で、法律で決まった金額はない
- なくした礼金と、縮む空室の月数を比べて決める
- 家賃を下げるより、収支への影響が一度きりで済む
- 短い期間での退去に備えた決めごとを先に用意する
礼金なしが向く部屋・向かない部屋
向きやすい部屋
- 周りの似た部屋が礼金なしで募集されていて、比べられたときに外れている部屋
- 入居までの費用を抑えたい人が多い、単身向けや学生向けの部屋
- 繁忙期を過ぎて、次の動きが出る時期まで空いてしまいそうな部屋
- 内見はあるのに、初期費用の合計を見て申し込みにならない部屋
慎重に考えたい部屋
- 周りより条件がよく、礼金ありでも問い合わせが十分にある部屋
- 入居期間が短くなりやすく、礼金が入れ替わりの費用を支えている部屋
- 礼金をなくしても、ほかの費用が重くて合計があまり下がらない部屋
最後の例は見落とされがちです。礼金だけをなくしても、前家賃や鍵の交換費用などで合計が重いままなら、効き目は小さくなります。仲介手数料の決まりは「賃貸の仲介手数料の上限」で整理しています。
礼金なしにするときの進め方
- 管理会社に、問い合わせと内見の件数、断られた理由を聞く
- 周りの似た部屋の礼金と、初期費用の合計を並べる
- 礼金をなくした場合に、空室が何か月縮めば元が取れるかを計算する
- 短い期間で退去されたときの決めごと(違約金の特約など)を管理会社と相談する
- 募集の情報を書き換え、一定の期間がたったら問い合わせの変化を確かめる
期間を決めて試す
礼金なしは、ずっと続ける前提で決めなくてもかまいません。「次の繁忙期まで」など期間を決めて試し、問い合わせが増えたかを確かめます。効き目がなければ、部屋の見せ方や設備など、ほかの原因を探します。
入居中の方と契約し直す場合や、すでに申し込みを受けた部屋の条件を変える場合は、管理会社や仲介会社と手順を確かめてから進めてください。
よくある失敗
失敗1:礼金をなくして、別の名目で上乗せする
礼金をなくした代わりに、名目のはっきりしない費用を足すと、契約前の説明で借主の不信につながります。費用を求めるなら、何のためのお金かを説明できるものに限ります。
失敗2:短い期間での退去を考えていなかった
礼金なしで入った方が数か月で退去すると、次の募集の費用だけが残ります。短期解約の違約金を決めるなら、契約書にはっきり書き、契約の前に説明しておきます。
失敗3:礼金だけ見て、空室の原因を探さなかった
問い合わせが少ない原因が、写真や間取りの見せ方にあることもあります。礼金をなくしても決まらないときは、「賃貸の写真の撮り方」や「空室対策」も見直します。
失敗4:期間を決めずに続けてしまった
礼金なしで決まったあとも、そのままの条件で募集を続けると、繁忙期のように礼金ありでも決まる時期まで収入を減らすことになります。時期ごとに条件を見直す日を決めておきます。
場面で考える
例:駅から少し遠い単身向けの部屋
Hさんの部屋は、駅から少し遠い単身向けの部屋です。周りの似た部屋の多くは礼金なしで募集されていました。管理会社によると、内見は入るのに、初期費用の見積もりを見て申し込みに至らないことが続いていました。
Hさんは、家賃は変えずに礼金をなくし、次の繁忙期までと期間を決めて試すことにしました。同時に、短期解約の違約金の特約を契約書に入れ、契約の前に説明してもらうよう管理会社に頼みました。
例2:問い合わせの多いファミリー向けの部屋
Nさんの部屋は、学校に近いファミリー向けの部屋です。問い合わせは多く、内見のあとに他の部屋と迷われて決まらないことが続いていました。管理会社と話すと、迷われていたのは礼金ではなく、収納の少なさでした。
Nさんは礼金を残し、収納の棚を付けることを選びました。礼金をなくす前に、どこで迷われているかを確かめたことで、収入を減らさずに済んだ例です。
判断の分かれ道
- 問い合わせ自体が少ない:礼金を含めた初期費用の合計を、まず周りと比べる
- 内見後に決まらない:礼金より、部屋の状態や見せ方を先に見直す
- 審査で止まる:礼金より、保証の方法や審査の基準を見直す
礼金の税金の扱い
国税庁の案内では、家屋を貸して一時に受け取る礼金は、貸す部屋の引き渡しが必要なものは引き渡しのあった日の収入に計上します。礼金をなくせば、その年の不動産所得の収入もその分だけ減ることになります。
申告の全体は「不動産所得の確定申告」で説明しています。
礼金を残したまま入口を軽くする方法
礼金をすべてなくすか、そのまま残すかの二択で考える必要はありません。入口の重さを和らげる方法はほかにもあります。
- 礼金を減らす:ゼロにせず、周りと並ぶ程度まで下げる
- 入居日の幅を広げる:前の住まいの退去日と合わせやすくする
- 前家賃の扱いを相談する:入居の月の日割りなど、払う時期の決め方を管理会社と話す
- 設備で差をつける:礼金は残し、その分、ほかの部屋にない設備で選ばれる理由をつくる
どれが効くかは、部屋を探す人がどこで迷っているかによります。管理会社や仲介会社に、断られた理由をできるだけ具体的に聞くことが出発点です。
礼金なしを決める前のチェックリスト
- 周りの似た部屋の礼金と、初期費用の合計を一覧にしたか
- 問い合わせ・内見・申し込みのどこで止まっているかを確かめたか
- 空室が何か月縮めば元が取れるかを計算したか
- 短期解約の違約金を入れるか、入れるなら金額と期間を決めたか
- 礼金をなくした代わりに、名目のはっきりしない費用を足していないか
- いつまで試すか、期間を決めたか
- 効き目がなかったときに、次に何を見直すかを決めたか
管理会社に伝えるときのひとこと
「礼金なしにしてください」とだけ伝えると、ほかの条件まで含めて任せきりになりがちです。「次の繁忙期まで、礼金なし・家賃は据え置きで試したい。問い合わせの件数を月ごとに教えてほしい」のように、期間と確かめたいことを一緒に伝えます。
言葉の言い換え
募集の情報では、「礼金なし」「礼金ゼロ」「礼金0か月」など、いろいろな書き方が使われます。どれも、入居のときに礼金を受け取らないという意味です。「初期費用」は、敷金・礼金・前家賃・仲介手数料など、入居までに払うお金の合計を指して使われることが多い言葉です。
よくある質問
- 礼金なしにすると、入居者の質が下がりますか?
- 礼金の有無だけで入居者の質が決まるわけではありません。入居審査の基準と保証の方法をきちんと決めておくことが大切です。
- 礼金なしと敷金なしは同じですか?
- 違います。礼金は返さない前提のお金で、敷金は家賃などの支払いを担保するために預かり、退去後に精算して返すお金です。
- 礼金は法律で上限が決まっていますか?
- 礼金について、民法などで金額を定めた決まりはありません。契約の前に、仲介する会社から金額と目的が説明されます。
- 礼金なしにしたら、すぐ元に戻せますか?
- 次の募集から条件を変えることはできます。期間を決めて試し、問い合わせの変化を見て決めるのが進めやすい方法です。
- 礼金をなくす代わりに、何かで補えますか?
- 短期解約の違約金の特約を入れる、入居期間が長くなるよう住みやすさを整えるなどの方法があります。長く住んでもらう工夫は「長期入居の対策」で紹介しています。
相談先を探すとき
募集の条件は、管理会社の提案力で差が出やすいところです。いまの管理会社の動きに不安があれば、「管理会社の選び方」を参考に、掲載している会社の一覧から比べてみてください。売る・貸すも含めてまとめて聞きたい場合は、一括相談の案内をご覧ください。
まとめ
- 礼金は返さない前提の一時金で、法律で決まった金額はない
- 礼金なしにするかは、なくす礼金の額と縮む空室の月数を比べて決める
- 家賃を下げるより、収支への影響は一度きりで済む
- 短い期間での退去に備え、違約金の特約などを先に決めておく
- 礼金だけでなく、初期費用の合計と空室の原因をあわせて見直す




