家賃の値下げを判断する前に比べる4つのこと|空室の損失と下げ幅の考え方

家賃を下げるかどうかは、空室が続く損失と、下げた分がずっと続く損失を並べてから決めます。比べる4つの点、計算の手順、今の入居者への影響と法律の決まりを順に整理します。
結論
- 家賃の値下げは、「空室が続く損失」と「下げた分がこの先ずっと続く損失」を並べて比べてから判断します。
- 比べるのは、周りの似た部屋の家賃、空室が続く理由、値下げ以外の手、今の入居者への影響の4つです。
- 借地借家法では、近くの似た建物とくらべて家賃が不相当になったとき、貸主と借主のどちらも将来に向けて家賃の増減を請求できます。
- 値下げは「最後の手段」ではなく、根拠をそろえたうえで選ぶ手段の一つです。
空室が2か月、3か月と続くと、管理会社から「家賃を少し下げましょう」と言われることがあります。収入が止まっている焦りから、その場で受け入れてしまう方も少なくありません。
一方で、「一度下げたら戻せないのでは」「ほかの部屋の入居者にも下げてと言われないか」と、なかなか決められない方もいます。
この記事では、家賃を下げるかどうかを判断するときに比べること、損得の計算のしかた、今の入居者への影響を、オーナーの目線で順に整理します。
家賃の値下げを判断するとは
ここでいう値下げの判断とは、募集中の部屋の家賃を下げるかどうかを、根拠をそろえて決めることです。下げるか据え置くかだけでなく、「いくら下げるか」「いつまで様子を見るか」も含みます。
大切なのは、空室の理由が家賃にあるのかを先に確かめることです。理由がほかにあるなら、下げても決まらず、収入だけが減ることがあります。
値下げの判断で比べる4つのこと
1. 周りの似た部屋の家賃
同じ駅、同じくらいの広さ、同じくらいの築年数の部屋が、いくらで募集されているかを並べます。管理会社に、募集中の部屋と、最近決まった部屋の一覧を出してもらうと比べやすくなります。
部屋探しのサイトで自分でも条件を入れて探すと、自分の部屋がどの位置に見えているかが分かります。
2. 空室が続いている理由
部屋探しの人は、ネットで見る、問い合わせる、内見する、申し込む、の順に進みます。どこで止まっているかで、家賃が理由かどうかが見えてきます。
- ネットで見られていない:家賃の上限で絞り込まれて外れている可能性がある
- 見られても問い合わせがない:写真や説明、初期費用の見え方の問題も考えられる
- 内見しても決まらない:部屋の状態や設備の問題であることも多い
3. 値下げ以外の手
フリーレント(入居から一定期間の家賃を無料にする工夫)、初期費用の見直し、入居の条件の緩和、小さな修繕などがあります。毎月の家賃を変えずに入居を後押しできる手があるなら、先に比べます。
4. 今の入居者への影響
同じ建物のほかの部屋の入居者が、募集中の家賃を見ることがあります。新しい募集の家賃が大きく下がると、今の入居者から家賃の見直しを求められるきっかけになる場合もあります。
| 比べること | 確かめる方法 | 値下げに傾く目安 |
|---|---|---|
| 周りの家賃 | 管理会社の一覧、部屋探しのサイト | 似た部屋より明らかに高い |
| 空室の理由 | 問い合わせ・内見・断られた理由の数 | 検索で外れている、比べて断られている |
| 値下げ以外の手 | 初期費用や条件、修繕の案と費用 | ほかの手を試しても反応が変わらない |
| 入居者への影響 | 同じ建物の家賃と契約の時期 | 影響を受ける部屋が少ない |
ポイント
- 先に「空室の理由が家賃にあるか」を確かめる
- 周りの似た部屋の家賃を、一覧で並べて比べる
- 毎月の家賃を変えない手があるなら、先に試す
- 今の入居者への影響も、判断に入れる
空室の損失と値下げの損失を比べる計算
値下げで減る額と、空室で失う額は、同じ物差しで比べられます。次の数字は、考え方を示すための仮の例です。
計算の手順
- 今の家賃と、下げる案の額を決める
- 下げた額に12を掛け、1年で減る額を出す
- 入居者が住みそうな年数を掛け、住んでいる間に減る額を出す
- 下げることで空室が何か月縮みそうかを考え、その月数に家賃を掛ける
- 3と4を並べ、どちらが大きいかを見る
仮の例で考える
たとえば、家賃7万円の部屋を、月に5,000円下げる案があるとします。1年で減る額は6万円です。入居者が4年住めば、減る額は24万円になります。
一方で、値下げで空室が2か月早く埋まるなら、取り戻せる家賃は14万円です。この例では、長く住んでもらうほど、値下げで減る額の方が大きくなります。
反対に、値下げしなければさらに半年空きそうなら、失う家賃は42万円です。この場合は、値下げで早く決める方が損が小さくなります。
何か月早く決まるかは、だれにも確かには分かりません。管理会社に、問い合わせの数の変化などの根拠を聞き、見込みの幅をもって考えましょう。
今の入居者への影響と法律の決まり
家賃の増減を請求できる決まり
借地借家法の第32条では、建物の家賃が、税などの負担の増減、土地や建物の価格の上がり下がり、近くの似た建物の家賃とのくらべによって不相当になったとき、当事者は将来に向けて家賃の増減を請求できるとしています。
この決まりは、貸主と借主のどちらにも使えます。ただし、一定の期間は家賃を上げないという特約がある場合は、その定めに従います。
話し合いがまとまらないとき
民事調停法では、この家賃の増減の請求について裁判を起こそうとする人は、まず調停を申し立てなければならないと定めています。いきなり裁判になるのではなく、まず話し合いの場が設けられます。
定期借家とサブリースの場合
定期借家(期間が来ると更新せずに終わる契約)では、家賃の改定についての特約があれば、第32条の決まりは使われません。契約の形の違いは「定期借家と普通借家の違い」で整理しています。
サブリース(会社が一括で借りて転貸する形)では、会社からオーナーへ家賃の減額を求められる場面があります。注意点は「サブリースの注意点」をご覧ください。
募集の家賃を下げたことで、今の入居者の家賃が自動的に下がるわけではありません。ただ、見直しを求められたときに備え、比べた根拠を残しておくと話し合いが落ち着いて進みます。
値下げを判断する手順
- 管理会社に、問い合わせ・内見・申し込みの数と、断られた理由を聞く
- 周りの似た部屋の家賃を一覧にしてもらい、自分の部屋の位置を確かめる
- 写真や初期費用、条件など、家賃を変えない手を先に試す
- 反応を見る期間を決め、その間の数字の変化を確かめる
- 変わらなければ、下げ幅を決めて仮の計算で損得を並べる
- 今の入居者への影響を確かめたうえで、値下げを決める
下げ幅の決め方
下げ幅は、周りの似た部屋との差を根拠に決めます。部屋探しのサイトでは、家賃の上限で絞り込んで探す人がいます。その区切りをわずかに超えているなら、小さな下げ幅でも見られる数が変わることがあります。
場面で考える家賃の値下げ
例1:問い合わせがほとんどない部屋
Aさんの部屋は、問い合わせがほとんどありません。周りの似た部屋の一覧を並べると、同じ広さで家賃が少し安い部屋が多く出ていました。
この場合は、検索で外れている可能性が高く、値下げが効きやすい場面です。Aさんは下げ幅を小さく決め、反応を見る期間を区切って試すことにしました。
例2:内見はあるのに決まらない部屋
Bさんの部屋は、内見は入るのに申し込みがありません。断られた理由を聞くと、水回りの古さとにおいが挙がっていました。
この場合は、家賃より部屋の状態が理由です。値下げより先に、清掃や小さな修繕を比べるのが順番です。
例3:同じ建物に長く住む入居者が多い
Cさんのアパートは、長く住む入居者が多い建物です。募集の家賃を大きく下げると、今の入居者の家賃との差が目立ちます。
Cさんは、値下げの前にフリーレントで初月の負担を軽くする案を比べました。毎月の家賃は変えずに、入居を後押しできるからです。
例4:繁忙期の前に迷っている
Dさんの部屋は、空いてから1か月です。管理会社からは値下げの提案がありましたが、問い合わせは少しずつ増えています。
Dさんは、反応を見る期間をあと数週間と決め、その間に写真と説明文を直しました。期間が過ぎても数字が変わらなければ、下げ幅を決めて値下げに進むと、先に管理会社と取り決めておきました。
値下げに向く場面・向かない場面
同じ空室でも、値下げが効きやすい場面と、効きにくい場面があります。分かれ道を条件で整理します。
- 似た部屋より家賃が明らかに高く、検索で外れているなら、値下げが効きやすい
- 内見で部屋の状態を理由に断られているなら、値下げより修繕が先
- 繁忙期を前に反応が少しずつ増えているなら、もう少し様子を見る余地がある
- 同じ建物の入居者の家賃との差が大きくなるなら、フリーレントなど別の手も並べる
- 近いうちに売る予定があるなら、家賃が売るときの評価に響くことも考える
管理会社に聞きたい質問
- この部屋は、どの段階で止まっていますか
- 値下げを提案する根拠になった、比べた部屋はどれですか
- 下げた場合、問い合わせはどのくらい変わる見込みですか
- 値下げ以外に、試せる手はありますか
答えがあいまいなときは、比べた部屋の一覧を見せてもらいましょう。根拠が見えると、下げるかどうかを自分で判断しやすくなります。
言葉の言い換え
- 近傍同種の建物:近くにある、同じような種類・広さの建物
- 借賃増減請求:家賃が不相当になったとき、上げ下げを求めること
- 調停:裁判所で、第三者が間に入って話し合いをまとめる手続き
- 定期借家:期間が来ると、更新せずに終わる賃貸借の契約
- フリーレント:入居から一定期間の家賃を無料にする募集の工夫
値下げの判断でよくある失敗
- 空室の理由を確かめずに、まず家賃を下げてしまう
- 反応を見る期間を決めず、値下げを何度も重ねる
- 周りの家賃を、広さや築年数をそろえずに比べる
- 今の入居者との家賃の差を考えずに、大きく下げる
- 比べた根拠を残さず、あとで説明できない
判断の前のチェックリスト
- 問い合わせ・内見・申し込みの数を、期間を区切って聞いたか
- 断られた理由を、分かる範囲で聞いたか
- 似た部屋の家賃の一覧を、広さと築年数をそろえて見たか
- 家賃を変えない手を、先に比べたか
- 仮の計算で、減る額と取り戻せる額を並べたか
- 同じ建物の入居者の家賃と契約の時期を確かめたか
よくある質問
- 家賃の値下げはいつ判断すればいい?
- 反応を見る期間を先に決め、その期間で問い合わせや内見の数が変わらなかったときが目安です。
- 一度下げた家賃は、次の募集で戻せる?
- 次の募集で家賃を決め直すことはできます。ただし周りの家賃とくらべて高ければ、また決まりにくくなります。
- 募集の家賃を下げると、今の入居者の家賃も下がる?
- 自動的には下がりません。ただし近くの似た建物とくらべて不相当になれば、借主から減額を請求されることはあります。
- 値下げとフリーレントはどちらがいい?
- 長く住んでもらうほど、毎月の値下げで減る額は大きくなります。仮の計算で両方を並べて比べましょう。
- 家賃の減額を求められて話し合いがまとまらないときは?
- 裁判を起こす前に、まず調停を申し立てることが民事調停法で定められています。
あわせて考えたいこと
家賃を下げる前に見直したいことは「空室対策」、毎月の家賃を変えない工夫は「フリーレントのメリットと注意点」で整理しています。募集の条件を広げる案は「ペット可賃貸のメリット・デメリット」もご覧ください。
一般の賃貸で決まりにくい物件は、貸し方を変えると別の需要が見つかることもあります。相談先は会社一覧から探せます。いくつかの方法をまとめて比べたい方は、一括相談の窓口もご確認ください。
まとめ
- 値下げは、空室の損失と、下げた分が続く損失を並べて判断する
- 比べるのは、周りの家賃、空室の理由、値下げ以外の手、入居者への影響の4つ
- 空室の理由が部屋の状態なら、下げても決まらないことがある
- 借地借家法では、家賃が不相当になれば貸主・借主のどちらも増減を請求できる
- 話し合いがまとまらないときは、裁判の前にまず調停を申し立てる




