遺留分侵害額請求とは?不動産を遺された側・請求する側の仕組みと1年の期限

遺言で実家などの不動産が特定の人に渡ったとき、ほかの相続人が使える遺留分侵害額請求の仕組みを民法に沿って整理します。請求の期限、計算の考え方、不動産を受け取った側の備えまでまとめます。
結論
- 遺留分侵害額請求とは、遺言や生前の贈与で最低限の取り分(遺留分)を受け取れなかった相続人が、多く受け取った人にお金の支払いを求めることです(民法第1046条)。
- 不動産そのものを取り戻すのではなく、お金で精算するのが今の仕組みです。裁判所の案内では、令和元年7月1日より前に亡くなった方の相続には、改正前のルールが使われます。
- 請求できるのは、相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈を知った時から1年、または相続開始から10年までです(民法第1048条)。
「父の遺言で、実家は全部兄が相続することになっていた」。「私には何も残っていない。これは仕方がないのだろうか」。遺言を開いたあとに、こうした戸惑いを感じる方は少なくありません。
反対に、「遺言で家を継いだら、弟からお金を払ってほしいと言われた」と困る方もいます。不動産は分けにくく、すぐにお金に換えられないため、遺留分の問題が大きくなりやすい財産です。
この記事では、遺留分侵害額請求の仕組みを民法に沿って整理し、不動産が絡むときの考え方を、請求する側と受ける側の両方から説明します。法定相続分そのものは法定相続分と不動産で説明しています。
遺留分侵害額請求とは
遺留分の意味
遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分です。裁判所の案内では、被相続人の生前の贈与や遺贈によっても奪われることのないもの、と説明しています。
遺留分侵害額請求の意味
遺留分侵害額請求とは、遺留分にあたる財産を受け取れなかった相続人が、遺贈や贈与を受けた人に、足りない額に相当するお金の支払いを求めることです。民法第1046条に定められています。
不動産を取り戻す仕組みではない
改正前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、請求によって不動産などの物そのものが共有に戻る形でした。法務省の資料では、共有状態が事業承継の妨げになるという指摘を受けて、お金の請求に改めたと説明しています。
裁判所の案内によると、令和元年7月1日より前に亡くなった方の相続では、この新しい調停は申し立てられず、改正前の民法による手続きになります。
遺留分がある人と割合
遺留分がある人
民法第1042条では、遺留分があるのは「兄弟姉妹以外の相続人」です。配偶者、子(亡くなっていればその子など)、親などの直系尊属が当たります。兄弟姉妹には遺留分がありません。
全体の割合
| 相続人の組み合わせ | 遺留分全体の割合 |
|---|---|
| 直系尊属(親など)だけが相続人 | 遺留分を算定する財産の3分の1 |
| それ以外(配偶者や子がいる場合) | 遺留分を算定する財産の2分の1 |
相続人が何人かいる場合は、この割合に、それぞれの法定相続分を掛けます(民法第1042条第2項)。例えば子が2人だけなら、全体の2分の1に、各自の法定相続分2分の1を掛けて、1人あたり4分の1になります。
遺留分を算定する財産
民法第1043条では、亡くなった時の財産に、一定の生前の贈与を足し、借金などの債務を全部引いた額を基にします。足す贈与は、原則として相続開始前の1年間のものです。相続人への贈与は10年間で、結婚や養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限られます(第1044条)。
ポイント
- 遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人
- 全体の割合は、親だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1
- 何人かいれば、法定相続分を掛けて各自の割合を出す
- 相続人への生前の贈与は、10年分の一定のものを足して計算する
不動産が絡むときの計算の例
例:遺言で実家を長男にすべて
母はすでに亡く、父が亡くなり、子は長男と次男の2人。父の財産は実家だけで、遺言で長男がすべて相続した例です。借金や生前の贈与はなく、実家の評価を仮に4,000万円とします。
- 遺留分を算定する財産は4,000万円
- 次男の遺留分の割合は、2分の1に法定相続分2分の1を掛けて4分の1
- 次男の遺留分は1,000万円
- 次男が受け取った財産はないので、長男に1,000万円の支払いを求められる
不動産の評価でもめやすい
不動産の評価は、固定資産税評価額、路線価、売れる見込みの価格など、何を基準にするかで変わります。評価の基準が違うと、請求する額も大きく変わります。査定の種類や相続税の土地の評価と路線価も参考にしてください。
この例は説明のための仮の数字です。実際の額は、財産の全体、生前の贈与、債務などで変わります。
請求の流れと期限
請求の手順
- 遺言の内容と、財産の全体(不動産・預貯金・借金・生前の贈与)を確かめる
- 自分の遺留分と、足りない額を計算する
- 相手に、遺留分侵害額を請求する意思を伝える(内容証明郵便などで記録を残す)
- 話し合いで、支払う額と時期を決める
- まとまらなければ、家庭裁判所の調停を申し立てる
期限は1年と10年
民法第1048条では、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年使わないと、時効で消えます。相続開始の時から10年がたったときも同じです。
裁判所の案内では、調停を申し立てただけでは相手への意思表示にならないとしています。調停とは別に、内容証明郵便などで請求の意思を伝える必要があります。
家庭裁判所の調停
裁判所の案内では、申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。費用は収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手です。郵便料は裁判所ごとに違います。必要な書類には、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、遺言書の写し、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書などがあります。
不動産を受け取った側の考え方
支払いはお金で
遺言で不動産を受け取った側は、請求を受けると、お金で支払う義務を負います。不動産を渡せば済むわけではありません。手元にお金がなければ、売却や借り入れを考えることになります。
支払いの期限を延ばしてもらう
民法第1047条第5項では、裁判所は、請求を受けた人の求めにより、支払いの全部または一部について相当の期限を与えることができるとしています。すぐに払えない事情があるときの手段の一つです。
誰が先に負担するか
遺贈と贈与の両方があるときは、遺贈を受けた人が先に負担します(民法第1047条第1項)。贈与が何回かあるときは、後の贈与を受けた人から順に負担します。
生前にできる備え
- 遺言を書く人は、遺留分を考えた分け方にしておく
- 不動産を継ぐ人が支払いに困らないよう、お金の準備も考える
- 相続人が相続の前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要(民法第1049条)
遺言の書き方は遺言書と不動産、生前に家を渡す方法は生前贈与と不動産で説明しています。
遺留分侵害額請求と遺産分割の違い
遺産分割は、相続人全員で遺産の分け方を決める話し合いです。遺留分侵害額請求は、遺言や贈与で取り分が足りなくなった人が、多く受け取った人にお金を求めるものです。遺言で分け方が決まっていても、遺留分の請求はできます。
| 項目 | 遺産分割 | 遺留分侵害額請求 |
|---|---|---|
| 目的 | 遺産の分け方を決める | 足りない取り分をお金で求める |
| 相手 | 相続人全員 | 遺贈や贈与を受けた人 |
| 期限 | 分割の期限は定められていない | 知った時から1年、相続開始から10年 |
| 受け取るもの | 不動産・預金など | お金 |
遺産分割の進め方は遺産分割協議と不動産で説明しています。
場面の例で考える
例:兄が実家を継ぎ、妹が請求する
遺言で実家を兄が継ぎ、妹には何も残らなかった例です。妹は四十九日のあとに遺言の内容を知り、まず兄に内容証明郵便で遺留分侵害額を請求する意思を伝えました。そのうえで、実家の評価をどうするかを兄と話し合っています。
例:請求を受けた弟が家を売る
遺言で家を継いだ弟が、姉から請求を受けた例です。手元のお金では払えず、住む予定もなかったため、家を売って支払うことにしました。売るまでの間の支払い時期は、姉と話し合って決めています。
請求する前の分かれ道
話し合いで済ませるか、調停にするか
最初は、相続人どうしの話し合いで額と支払い方を決めるのが基本です。話がまとまらない場合や、相手が話し合いに応じない場合に、家庭裁判所の調停を考えます。どちらを選んでも、1年の期限の前に請求の意思を伝えておくことは変わりません。
不動産で受け取るか、お金で受け取るか
法律の上で請求できるのはお金です。ただ、相手にお金がない場合、話し合いで不動産の持ち分を受け取る形にまとめることもあります。その場合、共有になった家をあとでどうするかも一緒に考えておく必要があります。共有の解き方は共有名義の解消で説明しています。
よくある失敗
期限を知らずに1年がたつ
遺言の内容を知ってから、親族の手前もあって話を切り出せず、気づいたら1年がたっていたという行き違いがあります。まずは請求の意思だけでも、記録が残る形で伝えておくことが大切です。
生前の贈与を見落とす
亡くなった時の財産だけで計算すると、相続人への生前の贈与が漏れることがあります。登記の記録や通帳で、過去の不動産の名義変更や大きなお金の動きを確かめておきます。
評価の基準がそろっていない
請求する側は高く、受ける側は低く不動産を見積もりがちです。双方が同じ基準の資料を持ち寄ると、話し合いが進みやすくなります。
請求の前のチェックリスト
- 遺言書の写し、または検認の記録を手元に用意した
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍をそろえた
- 不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書を取った
- 預貯金や借金、生前の贈与を一覧にした
- 1年と10年の期限の日付を確かめた
言葉の言い換え
- 遺贈:遺言で財産を人に渡すこと
- 受遺者:遺贈を受ける人
- 被相続人:亡くなって財産を遺した人
よくある質問
- 遺留分侵害額請求で、不動産そのものを返してもらえますか?
- 今の民法では、請求できるのはお金の支払いです。不動産で精算するかどうかは、当事者の話し合いで決めることになります。
- 兄弟姉妹は遺留分侵害額請求ができますか?
- できません。民法第1042条で、遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人とされています。
- 請求の期限はいつまでですか?
- 相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈を知った時から1年です。知らなくても、相続開始から10年がたつと請求できなくなります。
- 調停を申し立てれば期限は守れますか?
- 裁判所は、調停の申立てだけでは相手への意思表示にならないとしています。内容証明郵便などで別に意思を伝えておく必要があります。
- 請求されたけれど、すぐに払えません。
- 支払う時期を話し合うほか、裁判所に相当の期限を与えてもらう仕組みがあります(民法第1047条第5項)。早めに弁護士などの専門家に相談してください。
相続した不動産の相談先
遺留分の話し合いでは、不動産をいくらと見るか、売るか持ち続けるかが大きな分かれ道になります。分け方の全体は遺産分割協議と不動産、売却の流れは相続した実家の売却の流れをご覧ください。不動産の価格を知りたいときは会社一覧の売買の会社に相談できます。まとめて相談したい方は一括相談の使い方をご覧ください。
まとめ
- 遺留分侵害額請求は、足りない取り分をお金で求める仕組み
- 遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人で、全体の割合は3分の1か2分の1
- 期限は、知った時から1年、相続開始から10年
- 調停の申立てとは別に、内容証明郵便などで意思を伝える
- 不動産を受け取った側は、お金での支払いと期限の許与の仕組みを知っておく




