借地の建物を売却するには?地主の承諾と借地非訟(借地借家法19条)の流れ

借地の上の建物を売るときは、建物と一緒に借地権も買主に移るため、地主の承諾が必要です。この記事では、承諾をもらう手順と、承諾が得られないときの借地非訟(裁判所の許可)の流れ、売る前の確認点を整理します。
結論
- 借地の上の建物を売ると、建物と一緒に土地の賃借権も買主に移ります。民法612条により、賃借権を譲り渡すには地主の承諾が必要です。
- 地主が承諾しないときは、借地借家法19条により、裁判所に「承諾に代わる許可」を求める申立て(借地非訟)ができます。
- 申立ては、売る前に借地人が行います。裁判所は、許可と引き換えにお金の支払いや条件の変更を命じることがあります。
- 地主が自分で買い取ると申し出ることもできます(19条3項)。売却は、地主との話し合いから始めるのが基本です。
「親から受け継いだ家が借地の上に建っている。売りたいが、地主に何と言えばいいのか」。「地主が売却に反対したら、もう売れないのか」。借地の上の建物を手放したい方から、こうした相談が寄せられます。
借地の建物は、土地と建物の持ち主が違います。そのため、ふつうの戸建てと同じ感覚で売りに出すと、途中で話が止まることがあります。
この記事では、借地の上の建物を売るときに、地主の承諾がなぜ要るのか、承諾をもらう手順、承諾が得られないときに裁判所を使う流れを、順番に説明します。相続のときの扱いは借地権の相続で説明しているので、ここでは「売る」場面に絞ります。
借地の建物の売却とは
何を売ることになるのか
借地の建物の売却とは、借りた土地の上にある自分の建物を、土地を借りる権利(借地権)と一緒に第三者へ売ることです。借地借家法2条では、借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定めています。
建物だけを売って、土地を借りる権利を残すことはできません。土地を使う権利が無ければ、買主はその建物を使い続けられないからです。
地主の承諾が要る理由
多くの借地は、土地の賃借権です。民法612条では、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ、賃借権を譲り渡したり、転貸したりできないと定めています。
さらに同じ条の2項では、承諾なしに第三者に使わせたとき、賃貸人は契約を解除できるとしています。承諾を飛ばして売ると、買主が土地を使えなくなるおそれがあります。
借地権が地上権の場合は、扱いが違うことがあります。まず土地の登記と契約書で、地上権か賃借権かを確かめましょう。
売却の前に確かめること
契約書で見る点
売る前に、土地の賃貸借の契約書を手元に用意します。次の点を確かめておくと、地主や買主との話が早く進みます。
- 契約の期間と、いつまで残っているか
- 地代の額と、払い込み先
- 建物の種類や構造を制限する特約があるか
- 増改築や建て替えを制限する特約があるか
- 譲渡や転貸について、特別な定めがあるか
建物の登記を確かめる
借地借家法10条では、借地権の登記が無くても、土地の上に借地人の名義で登記された建物があれば、第三者に借地権を主張できると定めています。
建物の登記名義が亡くなった親のままだと、売買の手続きが進みません。相続した建物なら、先に相続登記を済ませておきます。
チェックリスト
- 契約書の原本か写しがある
- 地代を滞りなく払っている
- 建物の登記名義が、今の持ち主になっている
- 地主の名前と連絡先が分かっている
- 建物に住宅ローンなどの担保が付いているかを確かめた
地主の承諾をもらう手順
手順
- 売りたい理由と時期を整理し、売却を任せる不動産会社に相談する
- 地主に、売却を考えていることを伝え、承諾をお願いする
- 買主の候補が決まったら、買主の名前や使い方を地主に伝える
- 承諾の条件(承諾料の有無や額、契約条件の変更など)を話し合う
- 承諾の内容を書面にしてもらう
- 買主と売買契約を結び、引き渡しと地代の名義の切り替えをする
承諾料について
承諾のお礼として、地主から承諾料を求められることがあります。承諾料の額は法律で決まっていません。土地の場所や契約の中身によって違います。
求められた額が妥当か迷うときは、根拠を聞き、売却を任せる会社や弁護士に相談しましょう。
書面に残す
口約束のまま売買を進めると、あとで「聞いていない」と言われるおそれがあります。承諾の書面には、買主の名前、承諾の範囲、条件を書いてもらいます。
ポイント
- 借地の建物の売却は、建物と借地権を一緒に売ること
- 賃借権の譲渡には、民法612条で地主の承諾が要る
- 承諾料の額は法律で決まっておらず、話し合いで決まる
- 承諾の内容は、売買契約の前に書面に残す
承諾が得られないときの借地非訟(借地借家法19条)
借地非訟とは
借地非訟(しゃくちひしょう)とは、借地の条件などで地主と借地人の話がまとまらないときに、裁判所が判断する手続きです。ふつうの裁判(訴訟)とは別の手続きです。
19条で裁判所ができること
借地借家法19条1項では、借地人が建物を第三者に譲ろうとするとき、その第三者が借地権を受け継いでも地主に不利となるおそれが無いのに、地主が承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を与えられると定めています。
申立てをするのは借地人です。売る前の段階で申し立てます。
同じ項では、裁判所は当事者の間の公平のために、借地の条件の変更を命じたり、許可と引き換えにお金の支払い(財産上の給付)を求めたりできるとされています。
裁判所が考えること
19条2項では、裁判所は、借地権の残りの期間、これまでの借地の経過、譲る必要がある事情、その他一切の事情を考えて判断すると定めています。
また6項では、特に必要が無い場合を除き、鑑定委員会の意見を聞くとされています。
申し立てる裁判所
借地借家法41条では、こうした事件は、借地のある場所を管轄する地方裁判所が扱うと定めています。当事者が合意すれば、その場所の簡易裁判所でも扱えます。
地主が自分で買い取ると言ったとき(介入権)
19条3項の仕組み
借地人が19条1項の申立てをしたとき、地主は、裁判所が決めた期間の中で、自分が建物と借地権を受け取ると申し立てられます。これを介入権と呼ぶことがあります。
この申立てがあると、裁判所は、相当の対価などを決めて、地主への譲渡を命じられます。
借地人にとっての意味
地主の申立てが認められると、予定していた買主ではなく、地主に売ることになります。借地人から見ると、売り先は変わっても、建物を手放してお金を受け取る点は同じです。
ただし、5項では、3項の裁判があったあとは、当事者の合意が無ければ申立てを取り下げられないとされています。申し立てる前に、地主に売る形になってもよいかを考えておきましょう。
場面で考える借地の建物の売却
場面1:地主が承諾し、承諾料で合意した
相続した実家を売ることにし、地主に相談したところ、承諾料を払えば認めると言われた例です。額の根拠を聞き、売却の会社とも相談して合意し、承諾の書面をもらってから買主と契約しました。
場面2:地主が理由を言わずに断った
買主の候補が決まったのに、地主が承諾しない例です。この場合は、19条の申立てを考えます。買主が地主に不利にならないことを示す材料を、売却の会社や弁護士と整理します。
場面3:建物が古く、建て替えたい買主がいる
買主が建て替えを望むとき、契約に増改築を制限する特約があれば、その点の承諾も要ります。地主の承諾が得られないときは、借地借家法17条2項で、裁判所に承諾に代わる許可を求める道があります。
判断の分かれ道
| 地主の反応 | 次の一手 | 主な決まり |
|---|---|---|
| 承諾する | 条件を書面にし、売買契約へ進む | 民法612条 |
| 条件付きで承諾する | 承諾料などの根拠を聞き、合意を目指す | 契約と話し合い |
| 承諾しない | 裁判所に承諾に代わる許可を申し立てる | 借地借家法19条1項 |
| 自分で買うと言う | 地主への売却を検討する | 借地借家法19条3項 |
| 建て替えも関わる | 増改築の承諾、または裁判所の許可を求める | 借地借家法17条2項 |
よくある失敗
- 地主に知らせる前に買主と契約し、引き渡しが止まる
- 承諾を口約束で済ませ、あとで条件の食い違いが起きる
- 建物の名義が親のままで、売買の手続きが進まない
- 地代の滞納があり、地主との話し合いがこじれる
言葉の言い換え
- 借地権設定者:地主のこと
- 借地権者:土地を借りて建物を持つ人のこと
- 譲渡:売るなどして権利を渡すこと
- 転貸:借りたものを、さらに人に貸すこと
- 財産上の給付:許可と引き換えに払うお金など
借地の建物を売る前に家族と話し合うこと
売るか持ち続けるかの分かれ道
借地の建物は、売ると地代を払う必要が無くなります。一方で、持ち続けると、住む・貸すといった使い道が残ります。
- だれも住む予定が無く、地代と固定資産税だけがかかっている:売る方向で考える
- 家族のだれかが住む予定がある:持ち続けて、地主との関係を続ける
- 建物が古く、貸すには手を入れる必要がある:直す費用と売る場合を比べる
地主との関係を大切にする理由
借地の建物の売却は、地主の協力があると、ずっと進めやすくなります。裁判所の手続きは、話し合いがまとまらないときの道です。
いきなり書面で通知するより、まず会って事情を話し、地主の考えを聞くほうが、承諾につながりやすくなります。
買主に伝えること
買主には、借地であること、地代の額、契約の残りの期間、特約の中身を伝えます。買ったあとに地代を払う相手が地主であることも、はっきり伝えます。
説明が足りないと、引き渡しのあとにもめるおそれがあります。売却の会社と一緒に、伝える中身を整理しておきましょう。
売却を任せる会社に聞くこと
- 借地の建物を売った経験があるか
- 地主との話し合いに、どこまで関わってくれるか
- 裁判所の手続きが要るとき、弁護士とどう連携するか
住宅ローンが残っているとき
建物に住宅ローンの担保が付いているときは、売る代金で返し、担保を外してから引き渡すのが一般的な流れです。担保の外し方は抵当権の抹消をご覧ください。
よくある質問
- 借地の建物は、地主の承諾なしに売れますか?
- 土地の賃借権を買主に渡すには、民法612条で地主の承諾が必要です。承諾が得られないときは、裁判所の許可を求める道があります。
- 承諾料はいくらですか?
- 承諾料の額は法律で決まっていません。土地や契約の中身で違うため、根拠を聞いて話し合います。
- 裁判所への申立ては、だれがしますか?
- 借地借家法19条の申立ては、建物を売ろうとする借地人がします。売る前に申し立てます。
- 申立てをしたら、地主に買い取られることはありますか?
- あります。19条3項で、地主は自分が譲り受けると申し立てられ、裁判所が対価を決めて命じることがあります。
- 競売で借地の建物を手に入れた人はどうなりますか?
- 借地借家法20条で、競売で建物を手に入れた人も、裁判所に承諾に代わる許可を求められます。申立ては代金を払ってから2か月以内です。
借地の建物の売却の相談先
借地の建物の売却に慣れた会社は、売却の会社一覧から探せます。会社の選び方は売却の会社の選び方、売却全体の流れは不動産売却の流れ、売ったときの税金は売却の税金をご覧ください。借地権の種類と期間は土地を貸す方法もあわせて読むと、借地の全体が分かります。複数の会社に聞きたいときは一括相談の使い方が使えます。
まとめ
- 借地の建物を売ると、建物と一緒に借地権も買主に移る
- 賃借権の譲渡には、民法612条で地主の承諾が要る
- 承諾が得られないときは、借地借家法19条で裁判所の許可を求められる
- 地主は19条3項で、自分が買い取ると申し立てられる
- 契約書・地代・建物の登記を、売る前にそろえておく




