相続放棄で不動産はどうなる?3か月の期限と手続き、放棄した後の管理義務

いらない実家や土地を受け継ぎたくないとき、相続放棄が選択肢になります。期限と家庭裁判所での手続き、放棄の前にしてはいけないこと、2023年の民法改正で変わった放棄した後の管理の義務を整理します。
結論
- 相続放棄とは、家庭裁判所に申し出て、亡くなった人の財産も借金も一切受け継がないことです。不動産だけを選んで放棄することはできません。
- 期限は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内です。申し出る先は、亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所で、収入印紙800円分などが要ります。
- 2023年4月1日に施行された改正民法では、放棄の時に家を現に占有している人は、次の相続人などに引き渡すまで、その家を保存する義務を負います。
- 放棄の前に家を売ったり壊したりすると、相続を認めたとみなされ、放棄できなくなることがあります。
「遠くの実家を受け継いでも、住む人も使い道もない」。「親に借金があるかもしれない」。こうした理由で、相続放棄を考える方がいます。
ただ、相続放棄にはきびしい期限があり、放棄の前の行動しだいでは放棄できなくなります。放棄した後も、家の管理から完全に離れられるとは限りません。
この記事では、相続放棄の期限と手続き、放棄の前の注意点、放棄した後の不動産の管理の義務を、裁判所と法務省の案内、民法の条文をもとに説明します。
相続放棄とは
相続放棄の意味
相続放棄とは、家庭裁判所に申し出て、亡くなった人の財産と借金のすべてを受け継がないことです。民法では、相続を放棄した人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。
不動産だけは放棄できない
相続放棄は、財産の全部を対象にします。実家だけをいらない、預金は受け取りたい、という選び方はできません。
いらない土地だけを手放したいなら、相続した後に国に引き取ってもらう制度があります。くわしくは相続土地国庫帰属制度をご覧ください。
相続放棄と国庫帰属制度の比較
| 比べる点 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 手放すもの | 預金や借金も含めた財産すべて | 要件を満たす土地だけ |
| 期限 | 相続を知った時から3か月以内 | 相続の後いつでも申請できる |
| 申し出る先 | 家庭裁判所 | 法務局 |
| 建物 | 建物があっても放棄できる | 建物がある土地は引き取ってもらえない |
放棄すると次の順位の人が相続人になる
放棄した人は、初めから相続人でなかったことになります。そのため、子が全員放棄すると、親や兄弟姉妹など次の順位の人が相続人になります。家族の間で、だれが放棄するかを前もって伝えておくと、混乱を防げます。
相続放棄が合う場面・合わない場面
| 場面 | 相続放棄との相性 | ほかに考える道 |
|---|---|---|
| 借金が財産より明らかに多い | 合いやすい | 期限内に放棄の申し出 |
| 財産と借金のどちらが多いか分からない | 期限内に調べて判断 | 期間の延長の申し立て |
| 実家だけがいらない | 合わないことが多い | 相続した後に売る・国庫帰属 |
| ほかの相続人に財産を集めたい | 放棄でなくてもよいことがある | 遺産分割協議で分け方を決める |
相続放棄の期限と手続き
期限は3か月
民法では、相続人は、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内に、相続を受け継ぐか放棄するかを決めます。この期間を過ぎると、原則として相続を受け継いだものとみなされます。
裁判所の案内では、3か月以内に財産を調べても決められない場合は、家庭裁判所に申し立てて、期間を延ばしてもらえることがあります。
手続きの流れ
- 亡くなった人の財産と借金を調べる
- 必要な戸籍などの書類を集める
- 相続放棄の申述書を書く
- 亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所に出す
- 家庭裁判所からの照会に答える
- 認められると、家庭裁判所から通知が届く
申し出る人と費用
裁判所の案内では、申し出るのは相続人本人です。未成年者や成年被後見人の場合は、法定代理人が代わりに申し出ます。
費用は、申し出る人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手です。郵便切手の額は家庭裁判所ごとに違うため、申し出る先で確かめます。
必要な書類
- 相続放棄の申述書
- 亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
- 申し出る人の戸籍謄本
- 亡くなった人との関係に応じた戸籍謄本(死亡の記載があるものなど)
必要な戸籍は、申し出る人と亡くなった人の関係で変わります。法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合もあるため、申し出る先の家庭裁判所に確かめてください。
放棄の前にしてはいけないこと
財産を処分すると放棄できなくなる
民法では、相続人が財産の全部または一部を処分したとき、相続を受け継いだものとみなされます。そうなると、原則として放棄はできません。
不動産では、次のような行動に注意します。
- 実家や土地を売る、売る約束をする
- 家を取り壊す
- 家財を売って、そのお金を使う
保存のための行動はできる
民法では、財産の価値を保つための「保存行為」は、処分に当たりません。たとえば、雨漏りの応急の手当てや、壊れた窓をふさぐことです。ただし、どこまでが保存行為かは、事情によって判断が分かれます。迷ったら、行動する前に専門家に相談します。
ポイント
- 相続放棄は、財産も借金も全部受け継がないこと。不動産だけは選べない
- 期限は相続を知った時から3か月。間に合わなければ延長を申し立てる
- 放棄の前に売る・壊す・名義を変えると、放棄できなくなることがある
- 雨漏りの手当てなどの保存のための行動はできる
3か月の数え方
3か月の期限は、亡くなった日からではなく、自分のために相続が始まったことを知った時から数えます。たとえば、先の順位の相続人が全員放棄したことを後から知った人は、そのことを知った時から数えるのが基本です。
ただし、いつ知ったかの扱いは事情によって変わります。期限が近い、すでに過ぎたかもしれない、というときは、早めに家庭裁判所や専門家に相談します。
財産の調べ方
放棄するかを決めるには、財産と借金を調べる必要があります。民法でも、相続人は放棄の前に財産を調べられるとされています。
- 不動産は、固定資産税の通知や登記事項証明書で確かめる
- 預金は、通帳やキャッシュカードから金融機関を探す
- 借金は、届いている請求書や郵便物、契約書から探す
- 連帯保証人になっていないかも確かめる
放棄した後の不動産の管理の義務
2023年の民法改正で変わったこと
改正前は、放棄した人がいつまで、何をすべきかがはっきりしないという問題がありました。
2023年4月1日に施行された改正民法の第940条では、次のように変わりました。放棄の時に相続財産を現に占有している人は、相続人または相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意でその財産を保存しなければなりません。
「現に占有している」とは
国土交通省と総務省が2023年3月31日に自治体へ出した連絡では、占有者に当たるかは事案ごとの判断とされています。そのうえで、家に自分の家財や荷物を置いている場合や、家の鍵を持っている場合は、占有者に当たる可能性があるとしています。
占有者は、空家法の上で空き家の「管理者」に当たると考えられる、とも示されています。放棄しても、鍵を持ったままなら、家が周りに迷惑をかけないよう保存する責任が残ることがあります。
保存の義務はいつまで続くか
保存の義務は、次の相続人か、相続財産清算人に家を引き渡すまで続きます。相続人が全員放棄して、だれも受け継ぐ人がいないときは、家庭裁判所に相続財産清算人を選んでもらい、その人に引き渡します。
民法では、相続財産清算人は、利害関係人などの請求で家庭裁判所が選びます。申し立ての費用などは、家庭裁判所で確かめます。
場面の例
Fさんは、父の借金が分かり、兄弟全員で相続放棄をしました。実家には父の家財が残り、鍵はFさんが持っていました。Fさんは、次の相続人に連絡を取り、鍵と家の状態の記録を渡す段取りを付けました。
Gさんは、亡くなったおじの家に一度も住んだことがなく、鍵も持っていませんでした。家庭裁判所に放棄を申し出る前に、自分が家を占有していないことを書き留めておきました。
放棄した後の家への対応チェックリスト
- 自分が家に家財を置いているか、鍵を持っているかを確かめる
- 次の順位の相続人に、放棄したことと家の状態を伝える
- 鍵や家の状態の記録を、引き渡す段取りを決める
- だれも受け継ぐ人がいないなら、相続財産清算人の申し立てを考える
- 引き渡すまでの間、雨漏りや戸締まりなど、保存のための手当てをする
相続放棄を考える前に確かめること
本当に放棄が合っているか
不動産がいらないだけなら、相続した後に売る、貸す、国に引き取ってもらうという道もあります。売れる見込みがあれば、放棄より手元に残るものが多いこともあります。
売るか貸すかの考え方は実家は売るか貸すかを、売る流れは相続した実家の売却をご覧ください。
判断の分かれ道
- 借金が財産より多い、または分からない → 3か月以内に放棄か延長を考える
- 不動産はいらないが、ほかの財産は受け取りたい → 相続した後に売る・国庫帰属を考える
- 相続人の間で分け方を決めたい → 遺産分割協議と相続登記に進む
- 空き家の管理が負担 → 空き家の管理方法や管理の委託を考える
よくある失敗
- 3か月の期限を知らず、財産を調べているうちに過ぎた
- 放棄する前に実家の家財を売り、放棄できなくなった
- 放棄すれば管理と無関係と思い、鍵を持ったまま放っておいた
- 次の順位の親族に伝えず、突然の連絡で混乱させた
よくある質問
- 相続放棄で不動産だけを放棄できますか?
- できません。相続放棄は、預金や借金も含めた財産すべてを受け継がない手続きです。
- 相続放棄の期限はいつまでですか?
- 自分のために相続が始まったことを知った時から3か月以内です。決められないときは、家庭裁判所に期間の延長を申し立てられることがあります。
- 相続放棄の費用はいくらですか?
- 申し出る人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手が要ります。郵便切手の額は家庭裁判所ごとに違います。
- 相続放棄をした後も実家の管理は必要ですか?
- 放棄の時に家を現に占有していれば、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務があります。家財を置いている、鍵を持っている場合は占有者に当たる可能性があります。
- 相続放棄の前に実家を片付けてもいいですか?
- 保存のための行動はできますが、価値のある家財を売る・捨てる、家を壊すといった行動は、相続を認めたとみなされることがあります。迷ったら、行動の前に専門家に相談します。
相続した不動産の相談先
放棄するか、受け継いで売るかで迷うときは、まず不動産の値段の目安を知ることが助けになります。売買の会社や会社一覧から地域の会社を探せます。売る・貸す・手放すをまとめて比べたい方は、一括相談をご利用ください。放棄の手続きや管理の義務の範囲は、家庭裁判所や弁護士・司法書士などの専門家に確かめるのが確実です。
まとめ
- 相続放棄は、財産と借金のすべてを受け継がない手続きで、不動産だけは選べません
- 期限は相続を知った時から3か月以内で、最後の住所地の家庭裁判所に申し出ます
- 費用は1人につき収入印紙800円分と郵便切手です
- 放棄の前に売る・壊す・名義を変えると、放棄できなくなることがあります
- 2023年4月1日からは、放棄の時に家を現に占有している人に、引き渡すまでの保存の義務があります
- 鍵や家財を持っている場合は、次の相続人や相続財産清算人への引き渡しまで考えておきます




