配偶者居住権とは?取得できる3つの場面と登記の手順、使う前に知りたい注意点

配偶者居住権は、亡くなった方の家に住んでいた配偶者が、家の持ち主でなくても住み続けられる権利です。2020年4月に始まった制度の要件、登記のしかた、売る・貸すときの制約を順に整理します。
結論
- 配偶者居住権とは、亡くなった方の持ち家に住んでいた配偶者が、その家に無償で住み続けられる権利です(民法第1028条)。2020年4月1日に始まりました。
- 取得できるのは、遺産分割で決めたとき、遺言(遺贈)で定めたとき、家庭裁判所が審判で定めたとき、の3つの場面です。
- 期間は原則として配偶者が亡くなるまでで、第三者に主張するには登記が必要です。家の持ち主には、登記に協力する義務があります(民法第1031条)。
- 配偶者居住権は譲渡できず、家の持ち主の承諾がなければ第三者に貸すこともできません(民法第1032条)。
「夫が亡くなった。家は子どもが相続するけれど、私はこのまま住めるのだろうか」。「家を相続すると預金がほとんど残らず、生活費が心配」。配偶者を亡くした後、住まいとお金の両方に不安を抱える方は少なくありません。
配偶者居住権は、こうした不安に応えるために作られた制度です。家の「住む権利」と「持ち主であること」を分けて相続できるようにしたものです。
ただし、使えば必ず得をする制度ではありません。家を売る・貸すときの制約もあります。この記事では、制度の要件と登記の手順、使う前に考えたい点を順に説明します。
配偶者居住権とは
制度の意味
配偶者居住権とは、亡くなった方が持っていた建物に、亡くなった時に住んでいた配偶者が、その建物の全部を無償で使い続けられる権利です。2018年に成立した法律により、2020年4月1日から始まりました。
家の所有権は子などが相続し、配偶者は住む権利だけを相続する、という分け方ができます。住む権利の分だけ、家そのものを相続するより評価が低くなるため、配偶者が預金など他の財産も受け取りやすくなります。
言葉の言い換え
- 配偶者居住権:配偶者が、亡くなるまで(または決めた期間)無償で家に住める権利
- 配偶者短期居住権:遺産分割が決まるまでなどの間、配偶者が家に住み続けられる短い期間の権利
- 居住建物:配偶者居住権の対象になる、配偶者が住んでいた建物
- 遺贈:遺言で財産を渡すこと
- 存続期間:権利が続く期間
配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い
| 比べる点 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 取得のしかた | 遺産分割・遺贈・家庭裁判所の審判で定める | 一定の条件を満たせば当然に生じる |
| 期間 | 原則として配偶者が亡くなるまで | 遺産分割で家の行き先が決まった日か、亡くなってから6か月を過ぎる日の遅い方まで、など |
| 登記 | できる(第三者に主張するには必要) | できない |
| 主な目的 | 長く住み続けること | 相続の直後に、すぐ追い出されないこと |
配偶者短期居住権は、遺贈や相続放棄の場合などは、家の持ち主から消滅の申し入れを受けた日から6か月を過ぎる日まで続きます(民法第1037条)。
配偶者居住権を取得できる条件
3つの要件
配偶者居住権を取得するには、次の条件を満たす必要があります(民法第1028条)。
- 亡くなった方の配偶者であること
- 亡くなった方が持っていた建物に、亡くなった時に住んでいたこと
- 遺産分割、遺贈、家庭裁判所の審判のどれかで、配偶者居住権を取得すると定められたこと
取得できない場合
亡くなった方が、その建物を配偶者以外の人と共有していた場合は、配偶者居住権は成り立ちません(民法第1028条ただし書き)。夫婦2人だけの共有であれば対象になります。
また、法務省の案内では、2020年4月1日より前に作られた遺言では、配偶者居住権を遺贈の対象にできないとされています。古い遺言がある場合は、内容を確かめる必要があります。
家庭裁判所が定める場合
遺産分割の話し合いがまとまらないとき、家庭裁判所が審判で配偶者居住権を定めることができます。相続人全員が合意しているとき、または配偶者が希望し、家の持ち主の不利益を考えても配偶者の生活を守るために特に必要と認められるときに限られます(民法第1029条)。
ポイント
- 配偶者居住権は、住む権利と家の所有権を分けて相続する制度
- 亡くなった時に住んでいた家で、遺産分割・遺贈・審判のどれかで定める
- 配偶者以外の人との共有だった家では成り立たない
- 2020年4月1日より前の遺言では、配偶者居住権を遺贈できない
配偶者居住権の登記の手順
なぜ登記が必要か
配偶者居住権は、登記をしておかないと、家が第三者に売られたときなどに権利を主張できません。法務省も、取得したらできるだけ早く登記するよう案内しています。家の持ち主には、配偶者に登記をさせる義務があります(民法第1031条)。
登記の流れ
- 遺産分割協議書や遺言書、審判書など、配偶者居住権を定めた書類をそろえる
- 先に、建物の所有権を相続した人への相続登記を済ませる
- 存続期間などの登記する内容を決める
- 家の持ち主と配偶者が共同で、法務局に配偶者居住権の設定の登記を申請する
- 登録免許税を納め、登記が終わったら内容を確かめる
権利に関する登記は、原則として登記権利者と登記義務者が共同で申請します(不動産登記法第60条)。配偶者居住権では、配偶者と家の持ち主がこれにあたります。
登記する内容と費用
配偶者居住権の登記では、存続期間と、第三者に建物を使わせることを許す定めがあるときはその定めを記録します(不動産登記法第81条の2)。登録免許税は、不動産の価額の1,000分の2です(登録免許税法 別表第一)。
登記の申請書の書き方や必要書類は、事情によって変わります。司法書士や法務局に確かめると確実です。
配偶者居住権の決まりと注意点
期間と終わり方
配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者が亡くなるまでです。遺産分割や遺言、審判で別の期間を定めることもできます(民法第1030条)。配偶者が亡くなると権利は終わり、相続されません(民法第1036条で準用する第597条第3項)。
売る・貸すときの制約
配偶者居住権は、他の人に譲ることができません。また、配偶者は家の持ち主の承諾がなければ、増築や改築をしたり、第三者に家を貸したりできません(民法第1032条)。
このため、配偶者が将来、施設に入って家を出る場合でも、権利を売ってお金に換えることはできません。家の持ち主にとっても、配偶者居住権の付いた家は、自由に住んだり売ったりしにくくなります。
修繕と費用の負担
配偶者は、住むために必要な修繕をすることができます(民法第1033条)。建物を使うための通常の必要費、たとえば日々の小さな修理などは、配偶者が負担します(民法第1034条)。
相続税の評価
国税庁の案内では、相続税では、配偶者居住権、居住建物、配偶者居住権に基づく敷地の利用権、敷地の4つに分けて、それぞれの価額を計算します。配偶者居住権の価額は、建物の評価額、建物の耐用年数や経過年数、存続年数などをもとに計算します。
また、配偶者居住権の目的になっている建物の敷地や、その敷地を使う権利に小規模宅地等の特例を使う場合は、面積を価額の割合で分けて計算する決まりがあります。計算は複雑なため、税理士に相談すると確実です。
配偶者居住権を使うか迷ったときの判断
使うと助かりやすい場面
- 配偶者が住み続けたい家があり、家を受け取ると預金が少なくなる
- 家は子に引き継ぎたいが、配偶者の住まいも守りたい
- 前の結婚の子など、配偶者と別の相続人の利害が分かれやすい
慎重に考えたい場面
- 配偶者が近いうちに施設に入る、または住み替える予定がある
- 家を売ったり貸したりして、お金に換える予定がある
- 家の持ち主になる相続人と配偶者の関係がうまくいっていない
ほかの方法との比較
配偶者が住み続ける方法は、配偶者居住権だけではありません。配偶者が家の所有権そのものを相続する方法や、家を持つ子と賃貸借の契約を結ぶ方法もあります。
なお、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、住むための家や敷地を遺贈や贈与した場合は、原則として相続財産の先渡しとして扱わない意思があったものと推定されます(民法第903条第4項)。生前の準備と合わせて考えると、選べる道が広がります。
場面の例で考える
例:遺産が自宅と預金で、妻と子1人が相続人
夫が亡くなり、相続人が妻と子1人の場合、法定相続分は2分の1ずつです。遺産の大半が自宅だと、妻が自宅を相続すると取り分のほとんどが家になり、生活費にあてる預金を受け取りにくくなります。
そこで、自宅の所有権は子が相続し、妻は配偶者居住権を取得する分け方が考えられます。住む権利の評価は家そのものより低くなるため、その分、妻が預金を受け取れる余地が生まれます。妻が亡くなった後は、子が権利の付いていない家として使えるようになります。
例:妻が数年後に施設に入るかもしれない
配偶者居住権は売れず、持ち主の承諾がなければ人に貸せません。施設に入って家を出た後も、権利を換金する手段がないため、住まない家の費用だけが残ることがあります。将来の住み替えの見込みがあるなら、存続期間を区切る、あるいは別の方法を選ぶことも比べます。
使う前のチェックリスト
- 亡くなった方の単独所有か、夫婦だけの共有の家かを確かめた
- 遺言がある場合、作られた日が2020年4月1日以後かを確かめた
- 配偶者が住み続ける期間の見込みを話し合った
- 家の持ち主になる人と、修繕や費用の分担を話し合った
- 登記の手順と、登録免許税の目安を確かめた
よくある質問
- 配偶者居住権はいつから使えますか?
- 2020年4月1日に始まった制度です。2020年4月1日より前に作られた遺言では、配偶者居住権を遺贈の対象にできません。
- 配偶者居住権は登記しないといけませんか?
- 登記をしないと、家が第三者に売られたときなどに権利を主張できません。家の持ち主には登記に協力する義務があり、取得したら早めに登記するのが安心です。
- 配偶者居住権の登録免許税はいくらですか?
- 不動産の価額の1,000分の2です。不動産の価額は、固定資産税の評価額などをもとにします。
- 配偶者居住権の付いた家を貸したり売ったりできますか?
- 配偶者は権利を譲れず、家の持ち主の承諾がなければ第三者に貸せません。家の持ち主は所有権を売ることはできますが、登記された配偶者居住権は買った人にも主張されます。
- 配偶者が亡くなったら配偶者居住権はどうなりますか?
- 配偶者の死亡で権利は終わり、相続されません。家の持ち主は、権利の付いていない家として使えるようになります。
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家の所有権を相続した後の登記は「相続登記の義務化」、相続税の土地の特例は「小規模宅地等の特例」で説明しています。配偶者が住み替える場合の家の扱いは「実家は売るか貸すか」、住みながらお金に換える方法の注意点は「リースバックの注意点」をご覧ください。
将来の家の活かし方まで含めて考えたいときは、まとめて相談すると、売る・貸すの両方の見方を一度に聞けます。
まとめ
- 配偶者居住権は、亡くなった方の家に住んでいた配偶者が無償で住み続けられる権利
- 遺産分割・遺贈・家庭裁判所の審判のどれかで定め、期間は原則として亡くなるまで
- 第三者に主張するには登記が必要で、登録免許税は不動産の価額の1,000分の2
- 譲渡はできず、持ち主の承諾がなければ第三者に貸せない
- 住み替えや売却の予定があるなら、ほかの方法とも比べて選ぶ




