賃貸の孤独死対策|残置物処理のモデル契約条項と見守り・告知の基本

ひとり暮らしの入居者が亡くなったとき、契約の終わらせ方や部屋に残された物の扱いに困るオーナーは少なくありません。法務省と国土交通省のモデル契約条項、見守りの備え、次の入居者への告知の考え方を整理します。
結論
- 賃貸の孤独死対策の中心は、入居者が亡くなったあとの「契約の終わらせ方」と「残された物の扱い」を、入居のときに決めておくことです。
- そのための書式として、法務省と国土交通省は2021年6月に「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を作りました。
- モデル契約条項では、残された物を廃棄するのは、原則として亡くなってから3か月がたち、かつ賃貸借の契約が終わったあととされています。
- 自然死や日常生活の中での不慮の死は、原則として次の入居者に告げなくてもよいとされていますが、特殊清掃などが行われた場合は別に考えます。
「ひとり暮らしの高齢の方から申し込みがあったが、もしものときが心配で迷っている」。「入居者が亡くなったが、身寄りが分からず、部屋の荷物を片付けられない」。賃貸住宅のオーナーから、こうした相談が寄せられています。
入居者が亡くなっても、賃貸借の契約は自動では終わりません。民法896条では、相続人は亡くなった人の権利と義務を引き継ぐとされており、借りる立場も相続人に引き継がれます。相続人が分からないと、契約を終わらせることも、荷物を片付けることも難しくなります。
この記事では、亡くなったあとの手続きを前もって決めておく「モデル契約条項」を中心に、オーナーができる備えを整理します。
賃貸の孤独死対策とは
オーナーが困る3つのこと
賃貸の孤独死対策とは、ひとり暮らしの入居者が亡くなったときに起きる困りごとを、前もって減らしておく取り組みです。オーナーが困ることは、主に次の3つです。
- 契約を終わらせる相手がいない:相続人が分からない、連絡がつかない
- 部屋の物を片付けられない:残された物は相続人のものなので、勝手に捨てられない
- 発見が遅れる:時間がたつほど部屋の傷みが大きくなる
言葉の言い換え
- 残置物(ざんちぶつ):入居者が亡くなったあと、部屋に残された家具や衣類などの物
- 受任者(じゅにんしゃ):入居者から、亡くなったあとの手続きを任された人
- 居住支援法人:住まい探しに困る人の入居や生活を支える法人として、都道府県から指定された法人
- 特殊清掃:亡くなってから時間がたった部屋などで行う、専門の清掃
残置物の処理等に関するモデル契約条項とは
モデル契約条項のしくみ
法務省と国土交通省の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」は、入居者が亡くなったときに、契約の終了と残された物の処理を円滑にするための契約の書式です。国土交通省の資料では、2021年6月に作られたとされています。
モデル契約条項は、次の3つのまとまりでできています。
| まとまり | 誰と誰の契約か | 中身 |
|---|---|---|
| 解除関係事務委任契約 | 入居者と受任者 | 入居者が亡くなったとき、受任者が賃貸借の契約を終わらせる手続きをする |
| 残置物関係事務委託契約 | 入居者と受任者 | 契約が終わったあと、受任者が残された物を廃棄したり、指定の送り先に送ったりする |
| 賃貸借契約の特約 | オーナーと入居者 | 上の2つの契約に関係する決まりを、賃貸借の契約書に入れる |
国土交通省のページでは、契約書の書式と、賃貸借の契約書に入れる特約の記載例が公開されています。モデル契約条項の使用は、法令で義務づけられたものではないとされています。
誰を受任者にするか
モデル契約条項の解説では、受任者は、まず入居者の推定相続人(相続人になる見込みの人)のいずれかが望ましいとされています。それが難しいときは、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者が考えられるとされています。
解説では、オーナー自身を受任者にすることは避けるべきとされています。入居者の利益を一方的に害するおそれがあり、民法90条や消費者契約法10条に反して無効となる可能性があるためです。管理会社が受任者になる場合も、オーナーではなく入居者(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要があるとされています。
誰に使うか
国土交通省のQ&Aでは、モデル契約条項は、原則として60歳以上の単身の高齢者が賃貸住宅を借りる場合に使うことを想定しているとされています。60歳未満の単身者でも、推定相続人がいない、所在が分からないなどの場合に使うことは否定されないとされています。
一方で、個人の保証人がいるなど、オーナーの不安が生じにくい場面で使うと、無効となる可能性があるとも説明されています。入居者が内容を十分に理解した上で、自分の意思で同意していることが必要です。
使うかどうかの分かれ道
| 入居者の状況 | 考え方 |
|---|---|
| 個人の保証人や、連絡のつく家族がいる | 保証人や家族に対応を期待できるため、モデル契約条項は使わないのが基本 |
| 単身の高齢者で、相続人が分からない・連絡がつかない | モデル契約条項を使うことを検討する |
| 60歳未満の単身者で、緊急連絡先を確保できない | 入居を支えるために使うことは否定されない |
残された物の処理の流れ
指定残置物と非指定残置物
モデル契約条項では、残された物を2つに分けます。
- 指定残置物:入居者が「捨てないでほしい」と指定した物。指定した送り先に送る
- 非指定残置物:指定されていない物。廃棄するか、売ってお金に換える
部屋にあったお金は、どちらにも入らず、別に扱います。売って得たお金や部屋にあったお金は、費用にあてた上で、相続人に返すこととされています。
処理の流れ
- 入居のとき、入居者と受任者が契約を結び、オーナーは受任者の名前と連絡先を確かめる
- 入居者が亡くなったら、受任者が賃貸借の契約を終わらせる手続きをする
- 受任者は、指定残置物を指定の送り先に送る
- 亡くなってから3か月がたち、契約が終わったあとに、非指定残置物を廃棄または換価する
- 物を部屋から運び出すときは、オーナーや管理会社など第三者の立ち会いのもとで状態を記録する
モデル契約条項の解説では、3か月は仮の期間で、実情に応じて当事者が決めるものの、3か月より短い期間にすることは避けるべきとされています。保管に適さない物は、亡くなったあとすぐに廃棄できるとされています。
場面の例:身寄りの分からない入居者が亡くなったとき
たとえば、ひとり暮らしの高齢の入居者が亡くなり、契約書の緊急連絡先にも連絡がつかない場面を考えてみましょう。モデル契約条項を使っていなければ、オーナーは相続人を探し、相続人と話し合わなければ契約を終わらせられません。
入居のときに、居住支援法人を受任者とする契約を結んでいれば、受任者が契約の終了と荷物の処理を進められます。オーナーは、鍵を開けるなどの協力と、運び出しのときの立ち会いをすることになります。
見守りと早く気づくための備え
入居のときに決めておくこと
- 緊急のときの連絡先(家族、知人、支援をしている団体など)
- 長く連絡がつかないときに、部屋を確かめる手順
- 受任者がいる場合は、その名前と連絡先
居住支援法人の役割
国土交通省の資料では、居住支援法人の業務として、見守りなどの生活支援や、モデル契約条項を使った残置物の処理などが挙げられています。国土交通省のページによると、居住支援法人による残置物処理に関する改正住宅セーフティネット法は、2025年10月1日に施行されました。
地域の居住支援法人は、国土交通省のホームページの一覧で探せます。地域によっては該当する法人がないこともあるため、自治体の住宅の窓口や管理会社にも相談しましょう。
管理会社と分担を決める
見守りや、異変に気づいたときの連絡の流れを、管理会社とあらかじめ決めておくと安心です。管理会社の選び方や任せ方は、管理会社の変更や賃貸管理の自主管理と委託の違いで紹介しています。
入居のときのチェックリスト
- 緊急連絡先を、できれば2か所以上聞いている
- 個人の保証人がいるか、家賃債務保証の会社を使うかを確かめている
- モデル契約条項を使う場合、受任者の名前・連絡先を書面で受け取っている
- 長く連絡がつかないときの確かめ方を、管理会社と決めている
- 入居者に、困ったときの相談先を伝えている
次の入居者への告知の考え方
人の死の告知に関するガイドライン
国土交通省は、2021年10月8日に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しました。
| 場面 | ガイドラインの考え方 |
|---|---|
| 自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒、誤嚥など) | 原則として告げなくてもよい |
| 上の死でも、長く気づかれず特殊清掃などが行われた場合 | 告げる対象として扱う |
| 賃貸で、自然死など以外の死、または特殊清掃などが行われた場合 | 発生(発覚)から概ね3年がたったあとは、原則として告げなくてもよい |
| 期間や死因に関わらず | 借りる人から聞かれたとき、社会的な影響が大きく把握すべき特段の事情があるときなどは告げる |
ガイドラインでは、会社が貸主に告知書などへの記入を求めることで、通常の調査の義務を果たしたものとされています。知っていることは、管理会社や仲介の会社に正確に伝えましょう。
ポイント
- 入居者が亡くなっても、賃貸借の契約は自動では終わらない
- モデル契約条項で、契約の終了と残された物の処理を前もって任せられる
- 受任者はオーナー以外の人にし、入居者が理解して同意していることが前提
- 告知は国土交通省のガイドラインにそって、知っていることを正確に伝える
よくある失敗
- 相続人の確認をしないまま、部屋の物を処分してしまう
- 緊急連絡先を入居のときに聞いておらず、連絡先が分からない
- オーナー自身を受任者にした契約を結んでしまう
- 告知の対象を自分だけで判断し、会社に伝えない
よくある質問
- 入居者が亡くなったら、賃貸借の契約は終わりますか?
- 自動では終わりません。借りる立場は相続人に引き継がれるので、相続人との合意や、モデル契約条項の受任者による手続きが必要です。
- 残された荷物をオーナーが処分してもいいですか?
- 残された物は相続人の財産なので、勝手に処分するのは避けましょう。モデル契約条項を使えば、受任者が決まった手順で処理できます。
- モデル契約条項を入居の条件にしてもいいですか?
- 国土交通省のQ&Aでは、条件にすることは差し支えないと考えられるとされています。ただし、入居者が内容を十分に理解した上で同意していることが必要です。
- すでに入居している人にも使えますか?
- Q&Aでは、単身の高齢者で保証人もおらず相続人も分からないなど、リスクが高い場面で、入居者と合意の上で使うことは否定されないとされています。
- 孤独死があった部屋は、次の入居者に必ず告げる必要がありますか?
- 自然死などで特殊清掃などがなければ、原則として告げなくてもよいとされています。特殊清掃などがあった場合、賃貸では概ね3年は告げる対象として考えます。
孤独死対策と管理の相談先
見守りや入居者の対応まで任せられる管理の会社は、会社一覧から比べられます。入居のときの確かめ方は入居審査のポイント、退去のときの費用の分け方は原状回復のガイドライン、管理会社に求められる決まりは賃貸住宅管理業法で紹介しています。複数の会社にまとめて相談したい方は、一括相談をご利用いただけます。
まとめ
- 入居者が亡くなっても、賃貸借の契約は自動では終わらず、相続人に引き継がれます
- モデル契約条項で、契約の終了と残された物の処理を、入居のときに受任者へ任せられます
- 受任者は推定相続人や居住支援法人などとし、オーナー自身は避けます
- 残された物の廃棄は、原則として亡くなってから3か月がたち、契約が終わったあとです
- 緊急連絡先と見守りの手順を、入居のときに決めておきます
- 次の入居者への告知は、国土交通省のガイドラインにそって考えます




