賃貸の設備投資はどう判断する?入れる順番と費用の回収、税金の扱いまで

賃貸物件の設備は、入れれば決まるとは限らず、物件と入居者に合うかで効果が変わります。設備投資を判断する順番、回収の考え方、修繕費と資本的支出の分け方や耐用年数を、国税庁の決まりをもとに整理します。
結論
- 賃貸の設備投資は、「入居者が困っていること」「周りの物件にあって自分にないもの」から順に考え、何年で回収できるかを見て判断します。
- 判断の材料は、空室の期間、家賃の見直しの余地、工事の費用、設備の寿命の4つです。
- 税金では、20万円未満の修理などは修繕費、性能を高める工事は資本的支出として耐用年数で分けて経費にするのが基本です(国税庁)。
「空室が続くので、何か設備を入れたほうがいいのか」「宅配ボックスやネット無料が人気と聞くが、本当に効くのか」。設備投資は、空室に悩むオーナーが最初に考える手の一つです。
ただ、設備は入れて終わりではありません。費用を回収できなければ、空室が埋まっても手元のお金は減ります。また、同じ設備でも、単身者向けの部屋と家族向けの部屋では効き方が違います。
この記事では、設備投資を判断する順番、回収の考え方、税金での扱い、よくある失敗を順に説明します。
賃貸の設備投資とは
意味を一言で
賃貸の設備投資とは、入居者を集めやすくしたり、長く住んでもらったりするために、部屋や建物に設備を足したり入れ替えたりすることです。エアコン、給湯器、インターネット設備、宅配ボックス、防犯カメラなどが当てはまります。
「直す」と「良くする」は分けて考える
設備にかけるお金には、2種類あります。壊れたものを元に戻す「直す」お金と、今より良くする「良くする」お金です。
直すお金は、入居者に貸す以上、避けにくい支出です。良くするお金は、効果を見込んで選ぶ投資です。判断のしかたも、税金での扱いも違います。
設備投資を判断する順番
まず「困りごと」を取り除く
最初に見るのは、入居者や内見に来た人が困っていることです。給湯の不具合、古いエアコンの音、暗い共用部などは、選ばれない理由になりやすい点です。
管理会社に、内見で断られた理由や、入居者からの問い合わせを聞いてみましょう。困りごとの解消は、新しい設備を足すより先に手を打つべきところです。
次に「周りとの差」を埋める
次に、同じ地域で家賃が近い物件と比べます。周りの物件の多くにある設備が自分の物件にないと、検索の条件で外されてしまうことがあります。
募集を任せている会社に、問い合わせの多い条件を聞くと、足りない設備が見えてきます。
最後に「選ばれる理由」を足す
困りごとと周りとの差を埋めたうえで、物件の特色になる設備を考えます。ペットと住める設備、在宅で働ける部屋などです。入居者の層をしぼる分、合う人には強く響きます。
ペット可の考え方は「ペット可賃貸のメリットとデメリット」で説明しています。
- 入居者と内見者の困りごとを聞き出す
- 周りの似た物件と設備を比べる
- 足りない設備と、特色になる設備を書き出す
- 工事の見積もりを取り、回収の年数を見る
- 入れる順番を決め、効果を確かめる
費用を回収できるかの考え方
見るべき4つの材料
- 空室の期間:今どれくらい空いているか、設備で短くなりそうか
- 家賃:設備を入れた後に、家賃を見直す余地があるか
- 費用:工事と、その後の手入れにいくらかかるか
- 寿命:設備が何年使えるか
空室が1か月短くなれば、その月の家賃が入ります。家賃を上げられれば、その差が毎月入ります。これらの合計で、工事の費用を何年で取り戻せるかを見積もります。
回収の年数を出してみる
工事の費用が30万円で、家賃を月5,000円上げられると見込む例です(数字は説明のための仮のものです)。年に6万円の差なので、5年で取り戻す計算になります。
ここで、設備の寿命が5年より短ければ、取り戻す前に入れ替えが来ます。回収の年数が寿命より十分に短いかが、判断の目安になります。
家賃を上げられるか、空室がどれだけ短くなるかは、物件や地域によって違います。見込みは、募集を任せる会社の意見も聞いて、控えめに置きましょう。
ポイント
- 困りごと→周りとの差→特色の順に考える
- 回収の年数と、設備の寿命を比べる
- 家賃の見込みは控えめに置く
- 入れた後に、問い合わせや入居の変化を確かめる
物件のタイプ別の考え方
単身者向けの部屋
単身者向けの部屋では、日々の暮らしの手間を減らす設備が見られやすい点です。荷物の受け取り、インターネットの使いやすさ、防犯などが候補になります。
家族向けの部屋
家族向けの部屋では、収納の広さ、水回りの使いやすさ、子どもの安全にかかわる設備が見られます。長く住んでもらえれば、入れ替えの手間と空室の期間が減ります。
古い戸建て
古い戸建てを貸す場合は、設備を足す前に、給排水や電気の状態を確かめるのが先です。見えない部分の不具合は、入居の後に大きな修理になりがちです。戸建てを貸す形の一つとして「戸建てをシェアハウスに」もあります。
入居中の部屋に設備を入れるとき
入居者への連絡
入居中の部屋で工事をするときは、入居者の都合を聞いて日程を決めます。工事の内容、時間、立ち会いが要るかを、前もって伝えましょう。
家賃との関係
入居中に設備を良くしても、今の契約の家賃をすぐに上げられるとは限りません。家賃の見直しは、次の募集のときや、契約の更新のときに考えるのが現実的です。
入れた後の効果の確かめ方
見るべきこと
- 問い合わせや内見の数が、入れる前より増えたか
- 内見の後に申し込みにつながったか
- 空いてから次の入居までの期間が短くなったか
- 入居者からの不具合の連絡が減ったか
判断の分かれ道
効果が見えないときは、設備そのものより、写真や募集の文で伝わっていない場合があります。募集を任せる会社に、設備が広告に載っているかを確かめましょう。それでも変わらなければ、家賃や条件など、別の理由を探します。
設備にかけたお金の税金での扱い
修繕費と資本的支出
国税庁の説明では、修理や改良にかけたお金は、中身によって「修繕費」と「資本的支出」に分かれます。修繕費はその年の経費になります。資本的支出は、資産として毎年少しずつ経費にします。
名目ではなく、実際の中身で判断します。たとえば、建物に物理的に付け加えた部分や、用途を変えるための模様替えは、原則として資本的支出です。
修繕費にできる目安(個人の場合)
- 一つの修理などの金額が20万円未満
- おおむね3年以内の周期で行う修理など
- 区分がはっきりしない金額が60万円未満、または前年末の取得価額のおおむね10%以下
これらに当てはまれば、修繕費としてその年の経費にできます。
設備の耐用年数の例
資産として経費にするときは、耐用年数に分けて少しずつ経費にします。国税庁の耐用年数表には、次のような例があります。
| 区分 | 耐用年数 |
|---|---|
| 電気設備(照明設備を含む。蓄電池電源設備を除く) | 15年 |
| 給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
| 木造の住宅用の建物 | 22年 |
| 鉄筋コンクリート造の住宅用の建物 | 47年 |
少額の資産の扱い
個人の場合、取得価額が10万円未満などの資産は、その年に全額を経費にできます。青色申告の人には、一定の金額未満の資産をその年の経費にできる特例もあります。
国税庁の説明では、令和4年4月1日以後に取得して貸付けの用に使ったもの(主要な業務としての貸付けを除く)は、これらの少額の特例の対象外です。賃貸の設備に当てはまるかは、税務署や税理士に確かめてください。
言葉の言い換え
| 言葉 | ふだんの言い方 |
|---|---|
| 修繕費 | 元に戻すための支出。その年の経費になる |
| 資本的支出 | 価値を高めたり長持ちさせたりする支出。資産として扱う |
| 減価償却 | 資産の値段を、使える年数に分けて少しずつ経費にすること |
| 耐用年数 | 税金の計算で決められた、資産を使える年数 |
よくある失敗と防ぎ方
流行りの設備を先に入れる
人気の設備でも、入居者の層に合わなければ効きません。単身者が多い地域と家族が多い地域では、求められる設備が違います。
直すべきところを後回しにする
新しい設備を足しても、給湯器の不調や水回りの汚れが残っていれば、選ばれにくいままです。困りごとの解消を先にしましょう。
管理会社に相談せずに決める
募集を任せている会社は、問い合わせの多い条件や、内見で断られた理由を知っています。工事を決める前に意見を聞けば、効きにくい設備を選ぶ失敗を減らせます。管理の任せ方そのものを見直すなら「管理会社の変更」も参考になります。
一度に全部の部屋に入れる
効果が分からないうちに全部の部屋へ入れると、外れたときの負担が大きくなります。空いた部屋から順に入れて、問い合わせや入居の変化を見てから広げる方法もあります。
手入れの費用を入れずに考える
設備によっては、点検や交換の費用が続きます。工事の費用だけで判断すると、回収の年数を甘く見てしまいます。
税金の扱いを後で考える
同じ工事でも、修繕費になるか資本的支出になるかで、その年の経費の額が大きく変わります。工事の前に見積もりの内訳を分けてもらい、元に戻す部分と良くする部分を区別しておくと、申告のときに迷いません。
場面の例:古い給湯器を入れ替える
築年数のたった部屋で、給湯器の調子が悪くなったケースです。同じ能力の機種に替えるだけなら、元に戻す支出として考えやすくなります。追いだき機能の付いた機種にするなど、性能を上げる部分は、資本的支出になることがあります。
どちらにするかは、入居者の層と回収の年数で決めます。単身者向けで追いだきが求められにくい部屋なら、同じ能力の機種で十分な場合もあります。家族向けで周りの物件にその機能が多いなら、良くする投資を考える価値があります。
工事の前のチェックリスト
- 入居者や内見者の困りごとを聞いたか
- 周りの似た物件と比べたか
- 回収の年数と、設備の寿命を比べたか
- 手入れの費用も見込んだか
- 修繕費か資本的支出かを確かめたか
よくある質問
- 賃貸の設備投資はどれくらいで回収すればいい?
- 決まった年数はありません。少なくとも設備の寿命より短く回収できるかを目安にします。
- 設備を入れれば家賃は上げられる?
- 物件や地域によって違います。周りの物件の家賃と設備を比べ、募集を任せる会社の意見も聞いて見込みます。
- エアコンの交換は修繕費になる?
- 中身で判断します。20万円未満の修理や、元の状態に戻すための支出は修繕費になり得ます。性能を高める部分は資本的支出になることがあります。
- 10万円未満の設備はその年の経費にできる?
- 個人の場合、取得価額が10万円未満などの資産は、原則としてその年に全額を経費にできます。ただし、貸付けに使う資産は対象外になる場合があるので、税務署や税理士に確かめてください。
- 設備投資と空室対策はどちらが先?
- 設備は空室対策の手の一つです。まず空室の理由を確かめ、設備が原因かを見てから選びましょう。
関係する記事と相談先
空室の理由の探し方は「空室対策」、退去のときの費用の分け方は「原状回復のガイドライン」で説明しています。家賃の収入の申告は「不動産所得の確定申告」も参考になります。
設備や募集の見直しを相談したいときは、会社一覧から相談先を探せます。まとめて聞く方法は一括相談の説明をご覧ください。
まとめ
- 設備投資は、困りごと→周りとの差→特色の順に考える
- 回収の年数を出し、設備の寿命より短いかを確かめる
- 家賃や空室の見込みは、物件と地域で違うので控えめに置く
- 20万円未満の修理などは修繕費、性能を高める工事は資本的支出が基本
- 給排水・衛生設備や電気設備の耐用年数は15年
- 少額の特例は、貸付けに使う資産では対象外になる場合がある




