遺言書で不動産を残す書き方|自筆証書遺言の要件と法務局の保管制度

自宅や土地をだれに残すかを遺言書に書くときの決まりを整理します。自筆証書遺言の要件、不動産の特定のしかた、法務局の遺言書保管制度の手数料と様式、相続人が困らないための注意点までまとめます。
結論
- 遺言書で不動産を残すときは、だれに・どの不動産を残すかを、登記事項証明書のとおりに特定して書きます。
- 自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で書き、印を押す必要があります。財産目録はパソコンや登記事項証明書のコピーでもよく、各ページに署名と押印をします(民法第968条)。
- 法務局の遺言書保管制度を使うと、手数料は1通3,900円で、相続の後に家庭裁判所の検認がいりません。
- 遺言があっても、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があります。
「自宅は、一緒に暮らしている長男に残したい」。「貸しているアパートは、管理を手伝ってくれた娘に」。不動産をだれに引き継ぐか、考えている方は多いはずです。
ところが、遺言書の書き方を間違えると、せっかくの思いが形になりません。どの家なのかが特定できない、日付がはっきりしない。こうした理由で、相続人が困ることがあります。
この記事では、遺言書で不動産を残すときの書き方を、自筆証書遺言の決まりと法務局の保管制度を中心に整理します。公正証書遺言との違いや、相続人がもめないための注意点もまとめます。
遺言書で不動産を残すとは
遺言書の役割
遺言書とは、自分が亡くなった後に、財産をだれにどう引き継ぐかを書き残す書面です。遺言書がなければ、相続人全員の話し合い(遺産分割)で分け方を決めることになります。
不動産で遺言が役立つ場面
- 自宅を、同居している家族に確実に残したい
- 相続人が多く、話し合いがまとまりにくそう
- 相続人ではない人(孫や、子の配偶者など)に残したい
- 賃貸物件を、管理を任せたい人に引き継ぎたい
不動産は分けにくい財産です。遺言で引き継ぐ人を決めておくと、共有のまま話がこじれることを防ぎやすくなります。
自筆証書遺言の要件
民法の決まり
民法第968条では、自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自分で書き、印を押さなければならないとされています。財産目録だけは自分で書かなくてもよく、その場合は目録の各ページに署名し、印を押します。
書き直すときも決まりがあります。変えた場所を示し、変えたことを書き添えて署名し、変えた場所に印を押さなければ、変更は効力を持ちません。
要件のチェックリスト
- 本文を、すべて自分の手で書いたか
- 日付を「令和○年○月○日」と特定して書いたか(「吉日」は不可)
- 氏名を自分で書き、印を押したか
- パソコンで作った財産目録の各ページに、署名と押印をしたか
- 消えるインクではなく、ボールペンや万年筆を使ったか
法務省は、押印は認印でも問題ないが、スタンプ印は避けるよう案内しています。日付が特定できない「吉日」は認められないとしています。
不動産の書き方
不動産を特定する
法務局の登記申請では、土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積で表します。遺言書でも、登記事項証明書を取り寄せ、そのとおりに書くと特定が確かになります。住所(住居表示)と地番は違うことが多いため、注意しましょう。
財産目録にコピーを使う
法務省は、所在・地番・家屋番号などで物件が特定できれば、登記事項証明書の一部やコピーを財産目録として添付してもよいとしています。その場合も、目録の各ページに署名と押印が必要です。
「相続させる」と「遺贈する」
法務省の案内では、相続人になる予定の人には「相続させる」または「遺贈する」と書き、相続人以外の人には「遺贈する」と書くとされています。孫や子の配偶者に残す場合は、言葉の使い分けに気を付けましょう。
ポイント
- 不動産は、登記事項証明書の表示どおりに書く
- 住所(住居表示)と地番は違うことがある
- 目録にコピーを使うなら、各ページに署名と押印
- 相続人以外に残すなら「遺贈する」と書く
法務局の遺言書保管制度
制度のしくみ
自筆証書遺言は、法務局(遺言書保管所)に預けられます。法務省によると、原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。紛失や、相続人による破棄・改ざんを防げます。
保管制度を使うメリット
- 相続の後、家庭裁判所の検認がいらない
- 全国の法務局で、データによる閲覧や証明書の交付が受けられる
- 相続人の1人が閲覧などをすると、ほかの相続人にも保管が通知される
- 希望すれば、死亡が確認されたときに指定した人(3名まで)に通知が届く
自宅で保管した自筆証書遺言は、民法第1004条により、相続の後に家庭裁判所の検認を受ける必要があります。保管制度を使えば、この手間がなくなります。
様式の決まり
| 項目 | 決まり |
|---|---|
| 用紙 | A4サイズ、片面のみ |
| 余白 | 上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上 |
| ページ番号 | 各ページの余白内に書く(1枚なら不要) |
| とじ方 | ホチキスでとじず、封筒も不要 |
法務省は、余白に1文字でもはみ出していると、書き直さなければ預かれないとしています。
申請の手順
- 遺言書を様式どおりに書く
- 申請先の遺言書保管所を決める(住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する所)
- 保管申請書を作り、予約を取る
- 本人が出向き、遺言書・申請書・住民票の写し・顔写真付きの身分証明書を出す
- 手数料3,900円を収入印紙で納める
申請は遺言者本人しかできず、代理人や郵送ではできません。
遺言書保管所は、遺言の内容の相談には応じていません。保管されていても、遺言書の有効性が保証されるわけではありません。内容に迷うときは、弁護士などの専門家に相談しましょう。
相続人が使う手数料
| 手続き | 手数料 |
|---|---|
| 遺言書情報証明書の交付 | 1通1,400円 |
| 遺言書保管事実証明書の交付 | 1通800円 |
| 遺言書の閲覧(モニター) | 1回1,400円 |
| 遺言書の閲覧(原本) | 1回1,700円 |
相続人が遺言書を確かめる流れ
- 遺言書保管所に、遺言書が預けられているかを確かめる(遺言書保管事実証明書の交付を請求する)
- 預けられていれば、遺言書情報証明書の交付を請求するか、閲覧する
- 遺言書情報証明書を、遺言書の原本の代わりに各種の手続きに使う
- 自宅などで見つかった遺言書は、家庭裁判所に検認を請求する
法務省によると、保管された遺言書は相続人であっても返してもらえないため、遺言書情報証明書を原本の代わりに使います。証明書の請求は全国どこの遺言書保管所でもでき、郵送でも来庁でも行えます。
遺言書を見つけたときの注意
自宅で封のある遺言書を見つけても、その場で開けてはいけません。民法第1004条第3項では、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人などの立会いがなければ開けられないとされています。見つけた状態のまま保管し、検認の手続きを進めましょう。
公正証書遺言との違い
| 項目 | 自筆証書遺言(法務局保管) | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作る人 | 自分で書く | 公証人が作る |
| 検認 | いらない | いらない |
| 内容の確認 | 形式の確認のみ | 公証人が関わる |
民法第1004条第2項では、公正証書による遺言には検認の決まりを当てはめないとされています。費用や手間は、公証役場で確かめましょう。
相続人が困らないための注意点
遺留分に気を配る
民法第1042条では、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、親などの直系尊属だけが相続人の場合は3分の1、それ以外は2分の1とされています。1人に不動産をすべて残すと、ほかの相続人から遺留分に当たるお金を求められることがあります。
この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する遺贈などを知った時から1年、または相続開始から10年で消えます(民法第1048条)。
登記を早めに
民法第899条の2では、法定相続分を超える部分は、登記などを備えなければ第三者に対抗できないとされています。遺言で不動産を引き継いだら、早めに登記を申請しましょう。相続人への遺贈も、相続登記の義務の対象です。
よくある失敗
- 住所だけを書き、地番や家屋番号で特定していない
- 日付を「吉日」と書いてしまう
- 財産目録の一部のページに、署名や押印がない
- 遺言を書いた後に不動産を売り、内容が合わなくなる
書く前に家族と話しておく
遺言は1人で書けますが、内容を知らないまま相続が始まると、残された家族が戸惑うことがあります。不動産を引き継ぐ人には、管理や固定資産税の負担も一緒に引き継がれます。引き継ぐ人が本当に住む、貸すつもりがあるのかを、書く前に確かめておくと安心です。
書く前に集めたい書類
- 残したい不動産の登記事項証明書
- 固定資産税の課税明細書(持っている不動産の一覧として使える)
- 自分の戸籍(相続人がだれになるかを確かめる)
- 預貯金など、ほかの財産が分かる通帳などの写し
不動産だけでなく、ほかの財産も一緒に書いておくと、残った財産の分け方で相続人が迷わずに済みます。
書き直しと財産の変化
遺言を書いた後に、家を売ったり建て替えたりすることもあります。財産の中身が変わったら、遺言を見直しましょう。法務局に預けた遺言書は、保管の申請を撤回することができ、法務省によると撤回に手数料はかかりません。
むずかしい言葉の言い換え
- 検認:家庭裁判所が、遺言書の形や状態を確かめる手続き
- 遺贈:遺言で財産を人にあげること
- 遺留分:一定の相続人に最低限残される取り分
- 財産目録:残す財産を一覧にした書面
判断の分かれ道
- 自分で書けて、費用をおさえたい:自筆証書遺言を法務局に預ける
- 体調などで自分で書くのが難しい:公正証書遺言を考える
- 不動産が多く、分け方が複雑:専門家に内容を相談してから書く
場面の例
Eさんは、自宅を同居の長男に、貸家を長女に残したいと考えました。登記事項証明書を取り寄せて目録に添付し、各ページに署名と押印をしました。本文は自分で書き、法務局に預けて、長男と長女を通知を受ける人に指定しました。
よくある質問
- 遺言書で不動産はどう書けばいいですか?
- 登記事項証明書のとおりに、土地は所在・地番など、建物は所在・家屋番号などで特定して書きます。
- 遺言書の財産目録はパソコンで作れますか?
- 作れます。登記事項証明書のコピーでもよく、目録の各ページに署名と押印が必要です。
- 法務局に遺言書を預ける費用はいくらですか?
- 遺言書1通につき3,900円で、収入印紙で納めます。
- 法務局に預けた遺言書は検認が必要ですか?
- 必要ありません。自宅で保管した自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が必要です。
- 遺言書があれば、不動産を1人にすべて残せますか?
- 書くことはできますが、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、お金で求められることがあります。
- 遺言書を法務局に預けるのは代理人でもできますか?
- できません。保管の申請ができるのは遺言者本人だけで、郵送もできません。予約をして本人が出向きます。
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まとめ
- 不動産は、登記事項証明書の表示どおりに特定して書きます
- 自筆証書遺言は、全文・日付・氏名を自分で書き、印を押します
- 財産目録はパソコンやコピーでもよく、各ページに署名と押印をします
- 法務局に預けると、手数料は1通3,900円で、検認がいりません
- 兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があることに気を配ります
- 引き継いだ不動産は、早めに登記を申請します




