不動産の査定書の見方|金額より先に読む根拠の欄と、宅建業法34条の2の決まり

不動産の査定書は、いちばん下の金額よりも、その金額をどう出したかという根拠の欄を読むのが大切です。この記事では、査定書の主な項目の読み方と、不動産会社に根拠の説明を義務づけた宅建業法34条の2の決まりを整理します。
結論
- 不動産の査定書は、金額そのものよりも「どの取引事例と比べたか」「どこを足し引きしたか」という根拠の欄を先に読みます。
- 宅地建物取引業法34条の2第2項により、不動産会社は売る価格について意見を述べるとき、その根拠を明らかにしなければなりません。
- 国土交通省の考え方では、根拠の説明は法律上の義務なので、そのための査定の費用は依頼者に請求できないとされています。
- 査定書は鑑定評価書ではありません。複数社の査定書を並べ、根拠の違いを質問して確かめるのが基本の読み方です。
査定を頼んだら、数社から分厚い査定書が届いた。金額はばらばらで、どれを信じればよいか分からない。そんな声をよく聞きます。
多くの方は、最後のページの金額だけを見比べます。けれども、金額の高さは、売れる価格の高さと同じではありません。大切なのは、その金額がどんな材料から出てきたかです。
この記事では、査定書に何が書いてあり、どこをどう読むかを順番に説明します。査定の種類(机上査定・訪問査定)の違いは不動産査定の種類で説明しているので、ここでは届いた査定書の読み方に絞ります。
不動産の査定書とは
査定書の意味
不動産の査定書とは、不動産会社が「この物件はいくらで売れそうか」という意見と、その理由をまとめた書類です。売却を任せる会社を選ぶ材料として、多くの会社が無料で出しています。
査定書は、国家資格を持つ不動産鑑定士が作る「鑑定評価書」とは別のものです。裁判や相続人どうしの話し合いで公的な根拠が要るときは、鑑定評価を使う場面があります。
法律で決まっていること
宅地建物取引業法34条の2第1項第2号により、不動産会社が売却の仲介(媒介)の契約を結ぶと、契約書には「売買すべき価額又はその評価額」を書きます。そして同じ条の第2項は、この価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。
つまり、査定の金額だけを示して理由を説明しないことは、法律の考え方に合いません。売主は、根拠を聞いてよい立場にあります。
国土交通省の考え方
国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」は、根拠の示し方について次の点を挙げています。
- 根拠としては、価格査定マニュアルや、同じ種類の取引事例など、合理的な説明がつくものを使う
- 根拠は依頼者の納得までは要らないが、合理的なものでなければならない
- 説明は口頭でも書面でもよい。書面のときは、鑑定評価書ではないことを明記する
- 根拠の説明は法律上の義務なので、そのための査定の費用は依頼者に請求できない
価格査定マニュアルとは、公益財団法人不動産流通推進センターが作っている、価格の根拠を示すための道具です。必ず使う決まりはなく、取引事例など他の合理的な根拠でもよいとされています。
査定書に書いてある主な項目
査定書の形は会社ごとに違います。それでも、多くの査定書には次のような項目があります。
| 項目 | 書いてあること | 読むときの着眼点 |
|---|---|---|
| 物件の概要 | 所在地・面積・築年数・間取りなど | 登記や図面と食い違いがないか |
| 取引事例 | 近くで成約した似た物件の価格 | 時期・距離・広さ・築年数が近いか |
| 比べたときの補正 | 駅からの距離や向きなどの足し引き | なぜその幅で足し引きしたか |
| 査定価格 | 3か月程度で売れそうな価格など | 「何か月で売れる想定か」が書いてあるか |
| 売り出し価格の提案 | 最初に広告に出す価格 | 査定価格との差の理由 |
| 売却の進め方 | 広告の方法・期間・見込み | 自分の物件に合う具体策か |
言葉の言い換え
- 取引事例:近くで実際に売買がまとまった例のこと
- 補正:比べる物件との違いを、価格の足し引きで調整すること
- 成約価格:実際に売買が決まった価格。広告に出ていた価格とは違う
- 流通性:買う人が見つかりやすいかどうかのこと
査定書の見方5つの手順
届いた査定書は、次の順番で読むと迷いにくくなります。
- 物件の概要の欄で、面積や築年数が正しいかを登記事項証明書や図面と照らす
- 取引事例の欄で、比べた物件の場所・時期・広さを確かめる
- 補正の欄で、どこをいくら足し引きしたか、その理由を読む
- 査定価格の前提(何か月で売る想定か、現状のままか)を確かめる
- 他社の査定書と並べ、金額の差がどの項目から生まれたかを書き出す
手順1:物件の概要は意外に間違う
机上査定では、会社が持っている資料で面積や築年数を入れます。そのため、実際と少し違うことがあります。面積の数字が違えば、金額も違ってきます。まずここを確かめます。
手順2:取引事例は「近さ」を見る
比べた物件が、場所も時期も広さも近いほど、金額の説得力は増します。逆に、何年も前の事例や、離れた地域の事例ばかりなら、その金額は割り引いて考えます。
国土交通省の考え方では、売り急ぎや買い急ぎなど特殊な事情のある取引事例は、集める対象にしないとされています。極端に高い・安い事例が混じっていないかも見ておきましょう。
手順3:補正の理由を言葉で聞く
駅からの距離、日当たり、道路との接し方などで、価格を足し引きします。補正の幅に正解は一つではありません。だからこそ「なぜこの幅なのか」を言葉で説明できる会社かどうかが大切です。
ポイント
- 査定書は金額より先に、取引事例と補正の欄を読む
- 根拠の説明は宅建業法34条の2第2項で決まった義務
- 根拠の説明のための査定費用は、依頼者に請求できない
- 査定書は鑑定評価書ではないことを前提に読む
建物の評価で見落としやすい点
築年数だけで建物をゼロにしていないか
国土交通省の資料では、中古の戸建ての取引で、建物を一律に古くなったとみて、築20〜25年ほどで市場価値をゼロとする慣行があると指摘しています。そのうえで、基礎・躯体と、内装・設備を分けて評価する考え方を示した指針をつくっています。
手入れしてきた家や、リフォームした家なら、その点が査定書にどう反映されたかを確かめます。リフォームの時期や内容、点検の記録があれば、訪問査定のときに見せましょう。
インスペクションの結果を使う
建物の状態を専門家が調べるインスペクション(建物状況調査)の結果は、評価の材料になります。くわしくはインスペクションと売却をご覧ください。
査定書を比べるときの判断の分かれ道
1社だけ金額が高いとき
1社だけ金額が高いときは、その会社の取引事例と補正を、ほかの会社と比べます。根拠がはっきりしていれば、その会社の見方に理由があるのかもしれません。根拠があいまいなら、売り出してから値下げが続くおそれがあります。
高い査定価格は、売れる価格の約束ではありません。売り出し後に価格を下げる提案が続くと、売れるまでの期間が延びることがあります。
金額が近いのに進め方が違うとき
金額が近いなら、売却の進め方で選びます。広告の出し方、内見の段取り、報告の頻度など、自分の物件に合った具体策があるかを見ます。会社の選び方は売却の会社の選び方でくわしく説明しています。
場面の例:相続した実家の査定書が3通届いたAさん
Aさんは、相続した実家の査定書を3社からもらいました。金額は、2社が近く、1社だけ高めでした。
並べて読むと、高い1社は、駅に近い別の地域の事例を使っていました。Aさんがそのことを質問すると、担当者は事例を入れ替えた説明をしてくれました。Aさんは、金額ではなく説明のていねいさで会社を選びました。
場面の例:マンションを住み替えで売りたいGさん
Gさんは、住み替えのため、今のマンションを決まった時期までに売る必要がありました。2社の査定書は金額がほぼ同じでしたが、1社は「6か月で売る想定」、もう1社は「3か月で売る想定」と書いてありました。
Gさんは、期限に合う「3か月で売る想定」の査定書を軸に、売り出し価格を決めました。同じ金額でも、前提の期間が違えば意味が変わります。前提の欄まで読むことが、自分の事情に合った判断につながります。
査定書でよくある失敗
- 最後の金額だけを見比べ、根拠の欄を読まない
- 査定価格と、手元に残るお金を同じだと考える
- 机上査定の査定書を、訪問査定と同じ重さで扱う
- 質問せずに「この会社は信用できない」と決めてしまう
- 査定書を、相続人どうしの分け方の公的な根拠として使う
売れたあとに手元に残るお金は、仲介手数料や税金などを引いたあとの額です。費用は売却にかかる費用、税金は売却の税金で確かめてください。
査定書について担当者に聞く質問
査定書を読んで分からないところは、そのままにせず質問します。質問への答え方は、その会社の説明の力を知る材料にもなります。
根拠について聞くこと
- この取引事例を選んだ理由は何ですか
- 外した事例があれば、外した理由は何ですか
- いちばん大きく足し引きした項目はどこですか
- 価格査定マニュアルを使いましたか、ほかの方法ですか
前提について聞くこと
- この価格は、何か月くらいで売れる想定ですか
- 今のままで売る前提ですか、手を入れる前提ですか
- 売り出し価格を査定価格より高くした理由は何ですか
答えの受け止め方
答えがはっきりしていて、自分の物件の事情に合わせた説明なら、根拠を大切にしている会社と考えられます。決まり文句ばかりで、事例の中身に触れない答えなら、ほかの会社の説明とも比べてみましょう。
机上査定の査定書を読むとき
机上査定の査定書は、建物の中を見ずに作られています。室内の傷みやリフォームの有無は、まだ反映されていません。机上査定の金額は「おおよその幅」と受け止め、売ると決めたら訪問査定で確かめ直すのが安全です。
査定書を受け取ったあとのチェックリスト
- 物件の面積・築年数・間取りは正しいか
- 取引事例は、場所・時期・広さが近いか
- 補正の理由が言葉で書いてあるか
- 査定価格は何か月で売る想定か
- 鑑定評価書ではない旨が書いてあるか
- 他社との差の理由を質問したか
よくある質問
- 不動産の査定書は無料でもらえますか?
- 多くの会社が無料で出しています。国土交通省の考え方では、価格の根拠を説明するための査定の費用は、依頼者に請求できないとされています。
- 査定書と鑑定評価書の違いは何ですか?
- 査定書は不動産会社の意見、鑑定評価書は不動産鑑定士による評価です。公的な根拠が要る場面では鑑定評価を検討します。
- 査定書を書面でもらえないと言われたら?
- 根拠の説明は口頭でもよいとされていますが、根拠そのものは明らかにする義務があります。口頭のときはメモを取り、要点を確認しましょう。
- 査定価格で必ず売れますか?
- 売れるとは限りません。査定価格は意見であり、実際の成約価格は買う人との話し合いで決まります。
- 査定書は何社分あればよいですか?
- 決まりはありません。根拠を比べられるよう、複数社からもらうのが一般的です。
査定書の比べ方を相談できる先
査定を頼む会社を探すときは会社一覧や、売却を扱う業種別の一覧が使えます。売却全体の流れは不動産売却の流れ、売れにくい理由は不動産が売れない理由でまとめています。複数の会社にまとめて相談したいときは一括相談の使い方をご覧ください。
まとめ
- 査定書は、金額より先に取引事例と補正の欄を読む
- 宅建業法34条の2第2項で、価格の意見には根拠の説明が義務
- 根拠の説明のための査定費用は、依頼者に請求できない
- 査定書は鑑定評価書ではなく、売れる価格の約束でもない
- 複数社の査定書を並べ、差の理由を質問して確かめる




