売買契約書のチェックポイント|売主が署名前に確かめる10の条項と特約

不動産の売買契約書は、署名の前に売主が自分で読み、負担の大きい条項を確かめることが大切です。この記事では、宅地建物取引業法37条の記載事項をもとに、売主が確かめる10の条項と、署名までの手順を整理します。
結論
- 売買契約書のチェックは、署名の前に「代金と支払い」「引渡しと登記」「解除と違約金」「契約不適合責任」「費用の分担」のまとまりで確かめると漏れにくくなります。
- 宅地建物取引業法37条は、不動産会社が交付する契約の書面に書く事項を定めています。この一覧が、そのまま売主のチェック項目になります。
- 特に、手付解除の期日、ローン特約、契約不適合責任の範囲と期間、違約金の額は、売主の負担を大きく左右します。
「契約書は不動産会社が作ってくれるから、読まなくても大丈夫」。そう考えて、当日に初めて契約書を見るオーナーは少なくありません。
ところが、売買契約書には、売主がいつ何をするか、何があったら責任を負うかが細かく書かれています。署名した後に「そんな約束だとは思わなかった」と言っても、取り消すのは簡単ではありません。
この記事では、売主の立場で売買契約書をチェックする順番を説明します。法律が書くよう求めている事項を手がかりに、確かめる10の条項と、よくある失敗をまとめます。
売買契約書とは
売買契約書の意味
売買契約書とは、売主と買主が、何をいくらで、いつ、どんな条件で売り買いするかを書いた書面です。契約を結んだ後の約束ごとは、基本的にこの書面の内容で決まります。
宅建業法37条の書面との関係
不動産会社が仲介するときは、契約が成り立ったあと、遅滞なく、決められた事項を書いた書面を売主と買主に交付しなければなりません(宅地建物取引業法37条1項)。この書面は宅地建物取引士が記名します(同条3項)。
実務では、売買契約書がこの書面を兼ねることが多いです。つまり、37条が求める事項は、売買契約書に書かれているはずの事項でもあります。
重要事項説明書との違い
重要事項説明書は、契約が成り立つまでの間に、宅地建物取引士が書面を交付して買主に説明する書類です(宅地建物取引業法35条)。物件の権利や法令の制限など、買うかどうかを決めるための情報が中心です。
売買契約書は、売主と買主の約束そのものです。売主にとっては、自分が負う義務が書かれた書類なので、重要事項説明書とあわせて目を通しましょう。
37条が求める記載事項と売主の確かめ方
宅地建物取引業法37条1項が定める主な事項と、売主が確かめる点を表にまとめます。
| 37条の記載事項 | 売主が確かめる点 |
|---|---|
| 当事者の氏名・住所 | 名義人全員が書かれているか |
| 物件を特定する表示 | 登記と同じ所在・地番・家屋番号か |
| 既存の建物の状況で双方が確認した事項 | 建物の状況の調査の結果と合っているか |
| 代金の額・支払いの時期と方法 | 手付金・残代金の額と日付 |
| 引渡しの時期 | 自分の引っ越しに間に合うか |
| 移転登記の申請の時期 | 残代金の受け取りと同じ日か |
| 代金以外のお金の定め | 手付金などの額・時期・目的 |
| 契約の解除の定め | 手付解除の期日、解除の理由 |
| 損害賠償の予定・違約金の定め | 違約金の額 |
| ローンが成立しないときの措置 | ローン特約の期日と扱い |
| 天災などによる損害の負担の定め | 引渡し前に壊れたときの扱い |
| 契約不適合の責任の定め | 責任の範囲と通知の期間 |
| 租税その他の公課の負担の定め | 固定資産税などの分け方 |
「定めがあるときは」と書かれた事項もあります。定めがなければ書かれないこともあるので、書かれていない項目こそ、理由を会社に聞いてみましょう。
売主が確かめる10の条項
1. 当事者と物件の表示
共有名義の物件では、共有者全員が売主として書かれているかを確かめます。物件の表示は、登記事項証明書と見比べます。相続した物件なら、相続登記が済んでいるかも大切です。
2. 代金と手付金
代金の総額、手付金の額、残代金の額と支払日を確かめます。手付金を残代金に充てる定めがあるかも見ましょう。手付金の扱いは「不動産売却の流れ」の契約の項目も参考になります。
3. 引渡しと所有権移転の時期
引渡しの日と、所有権が移る時期、移転登記を申請する日を確かめます。残代金を受け取る日と同じ日にそろえるのが一般的です。住みながら売るときは、引っ越しの日程と合うかが大切です。
4. 抵当権などの抹消
住宅ローンが残っているときは、引渡しまでに抵当権を消す約束が書かれます。残代金で完済する段取りを、金融機関と事前に打ち合わせておきましょう。
5. 面積と境界
登記の面積で売るのか、測った面積で売り、差があれば代金を精算するのかを確かめます。境界をはっきり示す約束があれば、いつまでに何をするかを確かめます。
6. 固定資産税などの分担
固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)時点の所有者に課されます(地方税法343条・359条)。そのため、引渡しの日を境に日割りで分け、買主が売主に払う形で精算する約束を置くのが一般的です。何日を起算日にするかは、地域や会社の慣行で違います。
7. 引渡し前に壊れたときの扱い(危険負担)
民法536条1項は、双方に責任のない理由で引き渡せなくなったとき、買主は代金の支払いを拒めると定めています。一方、民法567条は、引き渡した後に双方に責任のない理由で壊れたときは、買主は修理などを求められないとしています。契約書の「引渡し前の滅失・損傷」の条項で、地震や火事のときの扱いを確かめます。
8. 契約不適合責任
売主が引き渡した物件が契約の内容と合わないとき、売主は責任を負います。民法566条により、種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内に通知しないと原則として責任を問えなくなります。契約書で責任の期間を短くしたり、責任を負わない特約を置いたりすることもあります。ただし民法572条により、知りながら告げなかった事実は、責任を免れません。
9. 解除と違約金
手付解除の期日、契約違反のときの解除の手順、違約金の額を確かめます。民法420条は、違約金は損害賠償の額の予定と推定するとしています。売主が約束を守れなかったときに、いくら払うことになるかを知っておきましょう。
10. ローン特約と特約事項
買主が住宅ローンを使うときは、ローンが通らなければ契約を白紙に戻す特約を置くことが多いです。期日がいつで、手付金をどう返すかを確かめます。設備の引渡しの有無、残す家具、反社会的勢力の排除なども、特約や別紙で確かめます。
付帯設備の一覧では、エアコンや照明、給湯器などを「引き渡す」「撤去する」「故障あり」に分けて書きます。引き渡さない設備や、壊れている設備をはっきり書いておくと、引渡し後の行き違いを防げます。
契約不適合責任の免責や期間の特約は、売主の負担を大きく左右します。分からない条文は、署名の前に会社へ説明を求め、必要なら専門家に確かめてください。
契約書によく出る言葉の言い換え
- 公租公課(こうそこうか):固定資産税や都市計画税など、物件にかかる税金
- 危険負担:双方に責任のない理由で物件が壊れたとき、その損をだれが負うか
- 契約不適合:引き渡した物件が、契約で約束した種類や品質と合わないこと
- 実測清算:測った面積と登記の面積の差を、代金で調整すること
- 抹消(まっしょう):抵当権などの登記を消すこと
- 白紙解除:お金を返し合い、契約がなかった状態に戻すこと
判断の分かれ道:特約を受け入れるか
買主から特約の追加を求められたときは、その特約で売主の負担がどれだけ増えるかを考えます。たとえば「引渡しの後に見つかった雨漏りは売主が直す」という特約なら、期間と範囲が決まっているかを確かめます。
負担が大きすぎると感じたら、期間を区切る、範囲を絞るなどの代わりの案を会社に出してもらいましょう。受け入れるか断るかは、価格や引渡しの時期とあわせて判断します。
署名までの手順
売買契約書は、当日に初めて読むのでは遅すぎます。次の順で準備しましょう。
- 契約の数日前までに、契約書と重要事項説明書の案をもらう
- 物件の表示を、登記事項証明書と見比べる
- 代金・手付金・残代金・引渡しの日付を、自分の予定と照らす
- 解除・違約金・ローン特約・契約不適合責任の条項に印をつける
- 分からない点を書き出し、会社に説明を求める
- 付帯設備の一覧と、物件の状態を伝える書面を見直す
- 当日は、修正した点が反映されているかを確かめてから署名する
物件の状態を伝える書面も大切
多くの取引では、設備の有無や不具合を書いた一覧と、雨漏りなどの履歴を書いた書面を売主が作ります。ここに書いたことが、契約不適合責任の判断のもとになります。知っている不具合は、すべて書きましょう。
場面の例とよくある失敗
場面の例
Bさんは、相続した実家を売ることにしました。契約の3日前に契約書の案をもらい、表と見比べながら読みました。
すると、引渡しの日が、遺品の片付けが終わる予定より前になっていました。また、給湯器を「引き渡す設備」としていましたが、実際には壊れていました。Bさんは会社に伝え、引渡しの日をずらし、給湯器は「故障あり」と書き直してもらいました。
よくある失敗
- 当日に初めて契約書を読み、日付の食い違いに気づかない
- 共有者の一人が署名できず、契約の日が延びる
- 壊れた設備を「あり」とだけ書き、引渡し後に修理を求められる
- 固定資産税の精算を知らず、受け取れるお金を見落とす
- ローン特約の期日を過ぎても、買主の審査の結果を確かめない
署名前の最終チェックリスト
- 売主として、名義人全員が書かれているか
- 代金・手付金・残代金・引渡しの日付は正しいか
- 手付解除の期日と、違約金の額を理解したか
- 契約不適合責任の範囲と期間を理解したか
- ローン特約の期日と、白紙になったときの扱いを確かめたか
- 設備の一覧と物件の状態の書面は、事実どおりか
よくある質問
- 売買契約書は誰が作りますか?
- 仲介があるときは、不動産会社が作るのが一般的です。宅地建物取引業法37条により、会社は決められた事項を書いた書面を交付し、宅地建物取引士が記名します。
- 契約書の案は、いつもらえますか?
- 法律でいつまでと決まってはいません。読む時間をとるため、数日前までに案をもらえるよう、早めに会社へ頼みましょう。
- 署名した後に、内容を変えられますか?
- 売主と買主の双方が合意すれば、覚書などで変えられます。一方だけの都合では変えられないので、署名の前に確かめることが大切です。
- 個人どうしで売買するときも、37条の書面は必要ですか?
- 37条は不動産会社に書面の交付を求める決まりです。会社が関わらない取引には直接かかりませんが、同じ事項を契約書に書いておくと、もめごとを防げます。
- 売買契約書に印紙は必要ですか?
- 必要です。金額ごとの税額は「不動産売買契約書の印紙税」で説明しています。
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手付金や引渡しまでの全体は「不動産売却の流れ」、責任の中身は「契約不適合責任で売主が負う責任」にまとめています。ローンが残る家は「住宅ローンが残った家の売却」と「抵当権の抹消」、境界は「境界確定と測量」、建物の調査は「インスペクションと売却」が参考になります。売買を扱う会社は業種別の一覧から探せます。複数の会社にまとめて相談することもできます。
まとめ
- 売買契約書は、署名の前に案をもらい、売主が自分で読む
- 宅建業法37条の記載事項が、そのまま売主のチェック項目になる
- 手付解除の期日、違約金、ローン特約、契約不適合責任は特に念入りに確かめる
- 固定資産税は1月1日の所有者に課されるので、日割りの精算の約束を確かめる
- 知っている不具合は、物件の状態を伝える書面にすべて書く




