相続人が行方不明のとき不動産はどうする?不在者財産管理人と失踪宣告の使い分け

相続人の1人と連絡がつかないと、遺産分割も不動産の売却も進みません。行方の探し方から、不在者財産管理人、失踪宣告、10年を過ぎたときの方法までを、裁判所の案内をもとに整理します。
結論
- 遺産分割は相続人全員で行うため、行方不明の相続人がいると、そのままでは不動産を分けることも売ることもできません。
- よく使われるのは、家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい、その管理人が家庭裁判所の許可を得て遺産分割に加わる方法です(民法第25条・第28条)。
- 生死が7年間分からないときは、失踪宣告を申し立てられます。宣告を受けると、法律上は亡くなったものとみなされます(民法第30条・第31条)。
- 相続から10年を過ぎていれば、行方の分からない相続人の持分を、地方裁判所の裁判で取得する方法も使えます(民法第262条の2)。
「弟とは20年以上連絡がなく、どこにいるのか分からない」。「父の家を売りたいのに、相続人の1人の住所がつかめない」。相続の相談では、こうした悩みもよく聞かれます。
相続人が1人でも欠けると、話し合いはまとまりません。だからといって、何もしないでいると、空き家の管理や相続登記の義務だけが残ります。
この記事では、相続人が行方不明のときに不動産をどう扱うかを、行方の探し方から裁判所の手続きまで順に説明します。
相続人が行方不明だと何が困るか
遺産分割ができない
遺産分割の協議は、相続人全員で行わないと成立しません。行方不明の人を外して決めた分け方は、後で問題になるおそれがあります。分け方の基本は「遺産分割協議で不動産を分ける方法」で説明しています。
売ることも貸すことも難しい
分け方が決まらないうちは、不動産は相続人の共有の状態です。売るには全員の同意が要るため、1人と連絡がつかないだけで止まります。
言葉の言い換え
- 不在者:前の住所や居所を離れ、簡単には戻る見込みのない人
- 不在者財産管理人:家庭裁判所に選ばれ、不在者の財産を管理する人
- 権限外行為許可:管理人が、管理の範囲を超える行為をするための家庭裁判所の許可
- 失踪宣告(しっそうせんこく):生死の分からない人を、法律上亡くなったものとみなす裁判
まず行方を探す
探す順番
- 亡くなった人の戸籍から、相続人全員を確かめる
- 行方の分からない相続人の戸籍の附票を取り、住所の移り変わりをたどる
- 最後の住所に手紙を送る
- 親族や知人に、最近の様子を聞く
- それでも分からないときに、裁判所の手続きを考える
戸籍の附票とは、その戸籍にいる間の住所の移り変わりが記録された書類です。裁判所に申し立てるときにも、不在の事実を示す資料として使います。
住所が分かっても、本人が話し合いに応じない場合は「行方不明」ではありません。その場合は、遺産分割調停などを考えます。
不在者財産管理人を選んでもらう
制度のしくみ
民法第25条第1項により、不在者が財産の管理人を置いていないときは、家庭裁判所が、利害関係人または検察官の請求で、財産の管理に必要な処分をします。その代表が、不在者財産管理人の選任です。
選ばれた管理人は、管理する財産の目録を作ります(民法第27条第1項)。管理人ができるのは、もともとは財産を守る行為や、性質を変えない範囲の利用・改良までです(民法第103条)。
遺産分割や不動産の売却は、この範囲を超えます。そのため、管理人は家庭裁判所の許可(権限外行為許可)を得て、不在者に代わって遺産分割に加わります(民法第28条)。
申立ての中身
裁判所の案内にある主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てられる人 | 利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる人、債権者など)、検察官 |
| 申し立てる先 | 不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手 |
| 予納金 | 財産の状況によって、管理の費用にあてるお金の納付を求められることがある |
| 主な書類 | 不在者の戸籍謄本と戸籍附票、管理人の候補者の住民票、不在の事実を示す資料、財産の資料 |
家庭裁判所は、不在者の財産の中から、管理人に相当な報酬を与えることができます(民法第29条第2項)。予納金の額は事案によって違うので、申し立てる家庭裁判所に確かめましょう。
遺産分割に加わるときの流れ
- 利害関係人が、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる
- 家庭裁判所が管理人を選ぶ
- 管理人が財産の目録を作る
- ほかの相続人と管理人で、遺産分割の案を作る
- 管理人が家庭裁判所に権限外行為許可を申し立てる
- 許可を得て、遺産分割協議書に管理人が加わる
ポイント
- 行方不明の相続人の代わりに、不在者財産管理人が遺産分割に加わる
- 申立先は不在者の従来の住所地か居所地の家庭裁判所。費用は収入印紙800円分と切手
- 遺産分割には、家庭裁判所の権限外行為許可が要る
- 財産の状況によっては予納金を求められる
失踪宣告を使う
7年と1年
民法第30条第1項により、不在者の生死が7年間分からないときは、家庭裁判所は利害関係人の請求で失踪宣告をできます。戦争や船の沈没などの危難にあった人は、危難が去ってから1年間です(同条第2項)。
失踪宣告を受けた人は、7年の期間が満ちた時に亡くなったものとみなされます。危難の場合は、危難が去った時です(民法第31条)。
申立ての費用
裁判所の案内では、費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手、官報公告料5,298円です。申し立てる先は、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所です。
不在者財産管理人との使い分け
| 比べる点 | 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|---|
| 使える場面 | 行方が分からない | 生死が7年間(危難は1年間)分からない |
| 法律上の扱い | 生きている人として、管理人が代わりに行動 | 亡くなったものとみなされる |
| 不在者の相続分 | 管理人が管理する | 亡くなったとみなされる時期によって、相続人の範囲が変わる |
| 本人の事情が変わったとき | 本人が管理人を置くと命令が取り消される(民法第25条第2項) | 生きていると分かれば宣告が取り消される |
民法第32条第1項により、生きていることが分かれば宣告は取り消されます。ただし、宣告のあとに事情を知らずに行った行為の効力には影響しません。
どの方法を選ぶかの分かれ道
状況ごとの考え方
- 行方が分からず、早く分けたい:不在者財産管理人を選んでもらう
- 生死が7年間分からない:失踪宣告を考える
- 相続から10年を過ぎ、共有のまま不動産を整理したい:持分を取得する裁判を考える
- 住所は分かるが、話し合いに応じない:遺産分割調停を考える
どれを選ぶかで、かかる時間や、行方不明の人の取り分の扱いが変わります。家族の考えと、不動産をいつまでにどうしたいかを先に整理しておきましょう。
待つ間の空き家の管理
手続きが終わるまで、家はだれも住まないまま残ることがあります。その間も、雨漏りや草木の手入れなど、近所に迷惑をかけない管理は必要です。点検の項目は「空き家の管理方法」にまとめています。
申し立ての前に集めるもの
- 亡くなった人と相続人全員の戸籍
- 行方の分からない相続人の戸籍謄本と戸籍の附票
- 最後の住所に送った手紙と、戻ってきた封筒
- 親族に聞いた話の記録(いつ、だれに、何を聞いたか)
- 不動産の登記事項証明書と、預貯金などの資料
相続から10年を過ぎたとき
持分を取得する裁判
民法第262条の2第1項により、共有者の1人の居場所が分からないとき、ほかの共有者は裁判で、その持分を取得できます。相続の場合は、相続から10年を過ぎていないと使えません(同条第3項)。
申し立てる先は、不動産の所在地の地方裁判所です(非訟事件手続法第87条第1項)。取得した人は、時価に見合うお金を払う必要があります(民法第262条の2第4項)。手続きの全体は「共有名義の不動産の解消」で説明しています。
場面の例
Dさんは、亡くなった父の家を売ろうとしましたが、弟と20年以上連絡がとれていませんでした。戸籍の附票をたどって最後の住所に手紙を送っても、返事はありませんでした。
Dさんは弟の最後の住所地の家庭裁判所に、不在者財産管理人の選任を申し立てました。選ばれた管理人が許可を得て遺産分割に加わり、売ったお金のうち弟の分は管理人が管理することになりました。
管理人の候補者を考える
申立てでは、管理人の候補者の住民票などを出します。だれが選ばれるかは家庭裁判所が決めるので、候補者がそのまま選ばれるとは限りません。
相続人のうち1人を候補者にすると、ほかの相続人との利害がぶつかることがあります。候補者をだれにするかは、申し立てる家庭裁判所や専門家に相談して決めましょう。
相続登記の義務はどうなるか
不動産登記法第76条の2第1項により、相続で不動産を取得した人は、取得を知った日から3年以内に登記を申請します。分け方が決まらないうちは、相続人であることを登記官に申し出る相続人申告登記を使えます(同法第76条の3)。
この申出をすると、3年以内の登記の義務を果たしたものとみなされます(同条第2項)。くわしくは「相続登記の義務化」をご覧ください。
よくある失敗
- 行方不明の相続人を外して協議書を作り、登記や売却で止まった
- 戸籍の附票を取らず、最後の住所を調べないまま申し立てた
- 空き家の管理を後回しにし、建物の傷みが進んだ
- 相続登記の期限を忘れ、相続人申告登記もしなかった
戻ってきたときのことも考えておく
行方不明だった人が、あとで見つかることもあります。不在者財産管理人の手続きでは、本人の取り分は管理人が管理しています。失踪宣告は、生きていることが分かれば取り消されます。どちらを選ぶ場合も、本人の取り分の扱いを家族で共有しておきましょう。
よくある質問
- 相続人が行方不明のまま遺産分割はできますか?
- できません。不在者財産管理人を選んでもらい、家庭裁判所の許可を得た管理人が代わりに加わる方法があります。
- 不在者財産管理人の申立てにはいくらかかりますか?
- 裁判所の案内では、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です。財産の状況によっては予納金を求められます。
- 失踪宣告は何年たったら申し立てられますか?
- 生死が7年間分からないときです。危難にあった人は、危難が去ってから1年間です。
- 行方不明の相続人がいても、家を売ることはできますか?
- 不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得て遺産分割に加われば、分けたあとに売る道があります。相続から10年を過ぎていれば、持分を取得する裁判も使えます。
- 行方不明の相続人がいると、相続登記の義務はどうなりますか?
- 義務は残ります。分け方が決まらないうちは相続人申告登記をすると、3年以内の義務を果たしたものとみなされます。
相続した不動産を相談したいときに
相続した空き家で最初にすることは「空き家を相続したら最初にやること」、売る流れは「相続した実家の売却の流れ」で説明しています。売却を手がける会社は売買の会社の一覧から探せます。
手続きが長くなりそうなときは、一括相談の使い方をご覧のうえ、管理や売却の進め方をまとめて相談してみてください。
まとめ
- 行方不明の相続人がいると、そのままでは遺産分割も売却もできない
- まず戸籍の附票などで行方を探し、分からなければ裁判所の手続きを考える
- 不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、遺産分割に加わる方法が基本
- 生死が7年間分からなければ失踪宣告を申し立てられる
- 相続から10年を過ぎれば、地方裁判所で持分を取得する裁判も使える




