家賃滞納への対応の流れ|督促から契約解除・明け渡しまで7つの手順

家賃滞納が起きたとき、オーナーが取れる対応には順番があります。督促から契約解除、明け渡しの裁判と強制執行までの一般的な流れと、自力での追い出しが違法になりうる理由を説明します。
結論
- 家賃滞納への対応は「連絡と督促 → 書面での催告 → 契約解除 → 明け渡しの裁判 → 強制執行」の順に進めるのが一般的です。
- 契約を解除するには、原則として相当の期間を定めた催告が要り、貸主と借主の信頼関係が壊れたといえることも求められます。
- 鍵の交換や荷物の運び出しなど、裁判所の手続きによらない追い出しは、自力救済として違法になりえます。
家賃の入金がない。連絡もつかない。オーナーにとって、これほど落ち着かないことはありません。ローンの返済がある方なら、なおさらです。
かといって、焦って強い手段に出ると、かえってオーナー側が責任を問われることがあります。この記事では、国土交通省の資料と法律をもとに、家賃滞納への対応を順番に整理します。
家賃滞納の対応でまず知っておきたいこと
家賃滞納とは
家賃滞納とは、借主が契約で決めた日までに家賃を払わないことです。契約上の基本的な義務を守っていない状態です。
1回の滞納ですぐ解除はできない
国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」(令和4年3月)は、解除の判断の考え方を説明しています。ポイントは「信頼関係が壊れたか」です。どのくらいの期間で壊れたといえるかは、個別の事情によります。
判断では、滞納の程度、滞納に至った事情、これまでの支払いの状況、その後の借主の対応などが考えられます。
ポイント
- 解除には、原則として相当の期間を定めた催告が必要(民法541条)
- 信頼関係が壊れたといえない特別な事情があれば、解除は認められない
- 「滞納したら即退去」という特約があっても、そのまま効くとは限らない
家賃滞納への対応の流れ7ステップ
一般的な流れを順番に示します。どこで解決するかは、借主の事情と対応しだいです。
- 入金を確かめる。振込先の誤りや引き落としの不具合がないかを先に確認する
- 借主に電話や書面で連絡する。支払いの予定を聞き、記録を残す
- 連帯保証人や家賃保証会社に連絡する。契約の内容に沿って進める
- 書面で支払いを催告する。支払いの期限を決め、送った記録が残る方法(内容証明郵便など)を使う
- 期限までに払われなければ、契約を解除する意思を伝える
- 明け渡しに応じなければ、明け渡しを求める裁判を起こす
- 判決が出ても退去しないときは、強制執行を申し立てる
例:入金が2か月止まったアパートの場合
たとえば、ある部屋の家賃が2か月続けて入らなかったとします。まず振込の記録を確かめ、本人に電話と手紙で連絡します。保証会社が付いていれば、契約に沿って連絡します。
それでも連絡がなければ、支払いの期限を書いた催告の書面を送ります。この時点で、弁護士に相談しておくと次の手続きが早く進みます。部屋に入って様子を見たくなっても、無断で立ち入らないことが大切です。
話し合いで分割払いを決める場合
支払いの意思があるなら、分割払いで解決することもあります。決めた内容は書面に残しましょう。支払いの約束が守られなかったときの扱いも決めておくと安心です。
滞納の理由で対応を分ける
- 一時的な収入の減少なら、分割払いや支払日の相談で解決を探る
- 連絡がつかず、支払いの意思も見えないなら、書面での催告と弁護士への相談を早める
- 病気や失業など暮らしの困りごとがありそうなら、市区町村の相談窓口を本人に案内することも考える
- 保証会社が付いているなら、契約で決まった連絡の方法と時期を先に確かめる
同じ「滞納」でも、背景によって向く対応は違います。最初の連絡で、払えない理由と今後の見通しを落ち着いて聞くことが大切です。
例:勤め先の都合で収入が減った入居者の場合
たとえば、長く住んでいる入居者から「勤め先の都合で収入が減り、今月は払えない」と連絡があったとします。これまで遅れたことがなく、本人から先に知らせてくれた場合です。
このときは、すぐに解除を考えるより、毎月の家賃に上乗せして少しずつ返す案を一緒に考える方法があります。決めた金額と期限は合意書にし、双方が署名して控えを持ちます。約束が守られなかったときに次の手順へ進むことも、書面に入れておきましょう。
督促は、借主の私生活や仕事の平穏を乱さない方法で行いましょう。強い取り立ては、かえってオーナー側が責任を問われる原因になります。
督促と契約解除の注意点
催告は期限を決めて書面で
民法541条では、相当の期間を定めて催告し、その期間内に支払いがないときに解除できると定めています。いつ、いくらを、いつまでに払うかを書面で示すのが基本です。
無催告解除の特約があっても
契約書に「滞納したら催告なしで解除できる」と書いてある場合があります。国土交通省の事例集では、こうした特約があっても、信頼関係が壊れていない限り催告が必要だとしています。
家賃保証会社の条項にも限界がある
最高裁判所は令和4年12月12日、ある家賃保証会社の契約条項を消費者契約法10条に当たると判断しました。対象は2つの条項です。一つは保証会社が催告なしで契約を解除できる条項です。もう一つは、一定の条件で「明け渡しがあったとみなす」条項です(消費者庁の判決紹介ページ)。
保証会社が付いていても、法の手続きによらない明け渡しは認められないという考え方が示されています。
自力での追い出しが違法になりうる理由
自力救済の禁止とは
自力救済の禁止とは、権利があっても、裁判所の手続きによらず自分の力で実現してはいけないという考え方です。国土交通省の事例集は、貸主による私的な明け渡しの強行を違法行為としています。
契約を解除したあとでも同じです。借主が自分から退去しないときは、裁判所の強制執行などの手続きで明け渡しを実現する必要があります。
違法になりうる行為の例
| 行為 | 国土交通省の事例集での考え方 |
|---|---|
| 無断で鍵を付け替えて閉め出す | 占有使用の権利を侵害し、自力救済として違法となる |
| 留守中に荷物を運び出す・処分する | 民事上の損害賠償、刑事上の責任(窃盗罪・器物損壊罪等)が生じうる |
| 契約書の「開錠できる」「荷物を処分できる」条項に基づく実力行使 | 条項があっても不法行為や住居侵入罪等に当たる可能性がある |
「契約書に書いてあるから大丈夫」とは限りません。鍵の交換や荷物の処分は、弁護士に相談してから判断してください。
連絡が取れず、安否が心配なとき
借主と連絡が取れないと、部屋の中が気になります。ただし、無断で立ち入ると、後で責任を問われるおそれがあります。
安否が心配なときは、まず契約時の緊急連絡先や連帯保証人に連絡します。命に関わるおそれがあると感じたら、警察に相談してください。
裁判所の手続きの種類
滞納家賃の回収に使う手続き
| 手続き | 概要 | 根拠 |
|---|---|---|
| 支払督促 | 簡易裁判所の裁判所書記官が、申し立てにより支払いを命じる | 民事訴訟法382条・383条 |
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭の支払いを求める訴えで使える簡易裁判所の手続き | 民事訴訟法368条 |
| 通常の訴訟 | 金額の制限なし。明け渡しの請求と一緒に進めることが多い | 民事訴訟法 |
明け渡しの強制執行
判決などに基づく明け渡しの強制執行は、執行官が借主の占有を解いて、貸主に占有を移す方法で行います(民事執行法168条)。執行官は必要なとき、閉まった戸を開ける処分もできます。
つまり、扉を開ける、荷物を出すといった行為は、執行官が法の手続きの中で行うものです。オーナーが自分で行うものではありません。
滞納を長引かせないための備え
- 入居時に、連帯保証人または家賃保証会社の契約内容を確かめる
- 入金の確認日を決め、遅れたらすぐ連絡する流れを作る
- 連絡や約束はすべて記録に残す
- 管理会社に任せる範囲(督促・保証会社への連絡など)を契約で決める
管理会社が督促をどこまで代わりに行えるかは、契約と会社によって違います。法的な手続きの代理は弁護士などの仕事です。
滞納は、一人で抱えるほど判断が遅れがちです。入金の確認から督促、保証会社への連絡までを管理会社に任せ、裁判が必要になったら弁護士につなぐ。この役割分担を前もって決めておくと、いざというときに迷いません。
家賃滞納の対応でよくある失敗
口約束だけで待ち続けた
「来月まとめて払います」という言葉を信じ、記録も期限も残さないまま時間がたつ例です。滞納額がふくらむほど、回収は難しくなります。約束は日付と金額を書面にし、守られなければ次の手順に進みましょう。
強い言葉や時間を選ばない督促をした
焦りから、夜遅くに何度も電話する、周りに分かる形で知らせるといった督促をしてしまう例です。私生活の平穏を乱す督促は、オーナー側が責任を問われる原因になります。連絡の日時と内容は、落ち着いた文面で記録に残します。
保証会社への連絡が遅れた
保証の契約では、滞納を知らせる方法や時期が決まっていることがあります。連絡が遅れると、手続きが進みにくくなるおそれがあります。入居時に保証契約の写しを受け取り、連絡先と条件を確かめておきましょう。
弁護士に相談する前にそろえる記録
- 賃貸借契約書と、保証契約書の写し
- 入金の記録(通帳や管理会社の明細)
- 連絡した日時・方法・やり取りの内容のメモ
- 送った催告の書面の控えと、届いたことが分かる記録
- 部屋の外から分かる様子(郵便物がたまっているなど)の記録
記録がそろっていると、弁護士は早く見通しを立てられます。相談の前に、時系列の一覧を作っておくとよいでしょう。
よくある質問
- 家賃滞納は何か月で契約を解除できますか?
- 一律の月数は法律で決まっていません。滞納の程度や事情などから、信頼関係が壊れたかで判断されます。
- 滞納している入居者の部屋の鍵を交換してもよいですか?
- 避けてください。国土交通省の事例集では、鍵を付け替えて閉め出す行為は自力救済として違法となるとしています。
- 滞納家賃の回収に少額訴訟は使えますか?
- 60万円以下の金銭の支払いを求める場合に、簡易裁判所で少額訴訟を使えます(民事訴訟法368条)。
- 家賃保証会社に入っていれば、追い出しも任せられますか?
- 任せられません。最高裁は、保証会社に「明け渡しがあったとみなす」権限を与える条項を消費者契約法10条に当たると判断しています。
- 滞納家賃はいつまで請求できますか?
- 民法166条では、権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年で、債権は時効で消えると定めています。早めに対応しましょう。
- 家賃の督促を管理会社に任せられますか?
- 入金の確認や督促の連絡は、管理の契約で任せられる場合があります。裁判の手続きの代理は弁護士などの仕事なので、任せる範囲を契約で確かめましょう。
滞納の相談先と関係する記事
滞納への初動や督促は、管理会社が担うことが多い仕事です。対応に不安がある場合は、管理会社の一覧から地元の会社を探してみてください。今の会社の対応に不満があれば、管理会社の変更も参考になります。
一括借り上げで家賃の保証を受ける方法もありますが、契約の注意点があります。サブリースの注意点をあわせて読んでください。複数の会社にまとめて聞きたい方は、一括相談の説明をご覧ください。
まとめ
- 対応は「連絡・督促 → 書面で催告 → 解除 → 裁判 → 強制執行」の順が一般的
- 解除には原則として催告が要り、信頼関係が壊れたかで判断される
- 鍵の交換や荷物の運び出しなど、自力での追い出しは違法になりうる
- 明け渡しは、判決などに基づく執行官の強制執行で実現する
- 連絡と約束を記録に残し、早めに管理会社や弁護士に相談する




