相続した賃貸アパートの引き継ぎ方|入居者・管理会社・敷金と申告の手順

親の賃貸アパートを相続すると、大家としての立場や入居者から預かった敷金も一緒に引き継ぎます。入居者への知らせ方、管理会社との契約、家賃と税金の申告まで、やることを順番に整理します。
結論
- 賃貸アパートを相続すると、相続人は大家(貸主)としての立場も引き継ぎます。入居者との賃貸借契約は、相続によって終わりません。
- 入居者から預かっている敷金を返す義務も、相続人が引き継ぎます。金額と契約書を最初に確かめましょう。
- 遺産分割が決まるまでの家賃収入は、各相続人が法定相続分に応じて不動産所得として申告します(国税庁)。
- 管理会社との委託契約は、契約書の定めを確かめ、続けるか見直すかを決めます。
「父が持っていたアパートを相続することになった。入居者には何をすればいいのか」。「管理会社とは会ったこともない。家賃の振込先はどうなるのか」。賃貸アパートの相続では、家族だけで片付かない用事が一度に押し寄せます。
アパートには、入居者という相手がいます。家賃の入金、設備の故障、退去の精算は、相続の話し合いの途中でも止まりません。
この記事では、相続した賃貸アパートを引き継ぐときに、入居者・管理会社・敷金・税金のそれぞれで何をするかを、順番に整理します。
賃貸アパートの相続で引き継ぐもの
大家としての立場も引き継ぐ
民法では、相続人は、相続開始の時から、亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐと定めています(民法896条)。アパートの建物と土地だけでなく、貸主としての権利と義務も含まれます。
つまり、入居者との賃貸借契約は続きます。相続人は家賃を受け取る権利を持ち、そのかわりに建物を使える状態に保つ責任も負います。
引き継ぐものの一覧
| 引き継ぐもの | 中身 | 最初に確かめること |
|---|---|---|
| 建物と土地 | 所有権 | 登記簿の名義と、借入れの有無 |
| 賃貸借契約 | 入居者ごとの契約 | 契約書・家賃・契約期間 |
| 敷金 | 入居者から預かったお金 | 入居者ごとの金額と保管先 |
| 管理委託契約 | 管理会社との契約 | 業務の範囲・報酬・解約の定め |
| 借入れ | 建てたときのローンなど | 残高と、返済をだれが引き継ぐか |
| 保険・税金 | 火災保険・固定資産税 | 名義と支払いの方法 |
言葉の言い換え
- 貸主の地位:大家として家賃を受け取り、建物を貸す立場
- 敷金:家賃の不払いなどに備えて、入居者から預かるお金
- 管理委託契約:家賃の集金や入居者の対応を、管理会社に任せる契約
- 法定相続分:民法で決められた、相続人ごとの取り分の割合
- 準確定申告:亡くなった人の、その年の所得を相続人が申告すること
入居者への引き継ぎ
入居者に知らせること
入居者に必要なのは、「大家が変わったこと」と「家賃の振込先が変わるか」の2点です。管理会社がいる場合は、管理会社を通じて知らせてもらうのが一般的です。
遺産分割が決まる前は、だれが受け取るかが定まっていないため、振込先を変えるのは分割が決まってからにする方法もあります。どちらにするか相続人で話し合い、入居者が迷わないよう1回で伝えるのが理想です。
手順
- 入居者ごとの契約書、家賃、敷金の額を一覧にする
- 家賃が入る口座と、亡くなった人の口座の扱いを確かめる
- 相続人のうちだれが窓口になるかを決める
- 管理会社または窓口の人から、入居者に書面で知らせる
- 遺産分割が決まったら、新しい大家と振込先を改めて知らせる
亡くなった人の口座は、金融機関が死亡を知ると入出金が止まることがあります。家賃の入金先が止まらないか、早めに確かめておきましょう。
敷金の引き継ぎ
敷金は、賃貸借が終わって部屋が返されたとき、未払いの家賃などを差し引いた残りを入居者に返すお金です(民法622条の2)。返す義務も、相続人が引き継ぎます。
敷金を亡くなった人がどこに保管していたか、管理会社が預かっているかを確かめます。退去の精算は「原状回復ガイドライン」の考え方にそって進めます。
管理会社との契約の引き継ぎ
契約書を確かめる
管理会社との契約は、家賃の集金や入居者の対応を任せる委託の契約であることが多いものです。民法では、委任は委任者の死亡によって終わると定めています(民法653条)。
ただし、実際の契約書には、相続人が引き継ぐ定めがあることもあります。まず契約書を読み、管理会社に「契約がどうなるか」を書面で確かめましょう。
続けるか見直すかの判断
- 入居者の対応や修繕の記録がそろっていて、説明が分かりやすいなら、続ける
- 空室が長い、報告が少ない、と感じるなら、ほかの会社と比べる
- サブリース(一括借上げ)の契約なら、通常の委託とは扱いが違うので別に確かめる
管理会社を替える場合の手順は「管理会社の変更」、管理会社の登録制度は「賃貸住宅管理業法」で紹介しています。サブリースの契約がある場合は「サブリースの注意点」もご覧ください。
入居者から連絡が来たときの対応
相続の手続き中でも、入居者からは「お湯が出ない」「水がもれる」といった連絡が来ます。貸主には、建物を使える状態に保つ責任があるため、だれが受けて、どこに修理を頼むかを先に決めておきます。
- 管理会社がいるなら、これまでどおり管理会社に受けてもらう
- 管理会社がいないなら、相続人の窓口の連絡先を入居者に伝える
- 修理の費用をどの口座から払うか、相続人で決めておく
- 修理の記録と領収書を残し、あとで経費として申告できるようにする
更新や退去の時期が近い入居者がいる場合は、だれが手続きの書類に署名するかも決めておくと、入居者を待たせずに済みます。
家賃と税金の申告
遺産分割が決まるまでの家賃
国税庁は、遺産分割が決まっていない間、アパートから生じる所得は各相続人が相続分に応じて得たものになると説明しています。家賃を長男の口座で受け取っていても、分割が決まるまでは、相続人がそれぞれ法定相続分で申告します。
分割が決まったあとも、決まる前の期間の所得について、分割を理由に申告をやり直すことはできないとされています。
申告の期限
| 手続き | 期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 亡くなった人の準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 | 国税庁 No.2022 |
| 相続税の申告(必要な場合) | 亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内 | 国税庁 No.4205 |
| 相続登記 | 取得を知った日から3年以内 | 不動産登記法76条の2 |
| 青色申告の承認申請(1月16日以後に業務を引き継いだ場合) | 引き継いだ日から2か月以内(亡くなった人が青色申告者なら別の期限) | 国税庁 No.2070 |
青色申告の申請期限は、亡くなった人が青色申告をしていたかどうかや、亡くなった月によって変わります。国税庁のNo.2070で確かめるか、税務署に聞きましょう。不動産所得の申告の基本は「不動産所得の確定申告」で紹介しています。
相続税の特例
貸しているアパートの土地は、要件に合えば小規模宅地等の特例で評価を下げられることがあります。くわしくは「小規模宅地等の特例」をご覧ください。
ポイント
- 大家の立場と敷金を返す義務は、相続人が引き継ぐ
- 入居者には、大家が変わることと振込先を1回で分かるように知らせる
- 管理会社との契約は、契約書の定めを書面で確かめる
- 分割が決まるまでの家賃は、法定相続分で各自が申告する
遺産分割でアパートをだれが継ぐか
継ぐ人が引き受けること
アパートを継ぐ人は、家賃を受け取る一方で、修繕・入居者の対応・借入れの返済・固定資産税の支払いを引き受けます。家賃の額だけで「得をする」と見ると、ほかの相続人との話し合いがかみ合いません。
話し合いの前に、過去数年の家賃収入、管理費、修繕費、返済額を表にして、相続人全員で見ておくと判断しやすくなります。
共有にするかどうかの分かれ道
- 1人が管理に関われるなら、その人が単独で継ぎ、ほかの相続人には預金などで調整する
- だれも管理に関われないなら、管理会社に任せる前提で継ぐか、売ることも考える
- 共有にすると、大きな修繕や売却で全員の合意が要るため、決めごとが遅れやすい
借入れが残っている場合
アパートを建てたときのローンが残っていることもあります。借入れも相続の対象になるため、金融機関に連絡し、だれが返済を引き継ぐかを相談します。
遺産分割でアパートを継ぐ人と、返済を引き継ぐ人がずれると、家賃は入るのに返済は別の人が負う、という形になりかねません。継ぐ人が返済も引き受けるのか、金融機関の考えも聞きながら決めましょう。
最初の1か月でやること
- 管理会社と金融機関に、亡くなったことを伝える
- 入居者の一覧、契約書、敷金、借入れの残高をそろえる
- 家賃の入金先と、修繕の連絡を受ける窓口を決める
- 準確定申告と相続税の申告の要否を、税理士か税務署に相談する
- 相続人で、アパートを継ぐか売るかの話し合いを始める
場面の例と、よくある失敗
場面の例
たとえば、父が持っていた8室のアパートを、母と子2人で相続したDさん。管理会社がいたものの、Dさんは契約書の場所も知りませんでした。
Dさんは、まず管理会社に連絡して、入居者の一覧と敷金の預かり状況を出してもらいました。そのうえで、遺産分割が決まるまでは振込先を変えず、窓口をDさんに決めて入居者に知らせました。
分割の話し合いでは、アパートを継ぐ人がローンの返済と修繕の費用も引き継ぐことを確かめ、収支の表を見ながら決めました。
よくある失敗
- 亡くなった人の口座が止まり、家賃の入金先が分からなくなった
- 敷金の額が分からず、退去の精算でもめた
- 分割が決まるまでの家賃を、受け取った1人だけで申告した
- 管理会社との契約がどうなるかを確かめず、対応が止まった
引き継ぎのチェックリスト
- 入居者ごとの契約書・家賃・敷金の一覧がある
- 家賃が入る口座の扱いを決めた
- 相続人の窓口を1人に決めた
- 管理会社との契約書を読み、引き継ぎの扱いを書面で確かめた
- 準確定申告と相続税の申告の期限を確かめた
- 火災保険の名義と、固定資産税の支払いを確かめた
よくある質問
- 相続した賃貸アパートの入居者との契約は、結び直しが必要ですか?
- 相続人は貸主の立場をそのまま引き継ぐため、契約は続きます。大家が変わったことと振込先を、入居者に知らせましょう。
- 入居者から預かった敷金は、だれが返しますか?
- 敷金を返す義務も相続人が引き継ぎます。遺産分割でアパートを継いだ人が返すのが一般的なので、協議の中で決めておきます。
- 遺産分割の前の家賃は、だれが申告しますか?
- 国税庁は、分割が決まるまでは相続人がそれぞれ法定相続分で申告すると説明しています。受け取った口座の名義では決まりません。
- 管理会社との契約は、相続でどうなりますか?
- 民法では委任は委任者の死亡で終わりますが、契約書に引き継ぎの定めがあることもあります。契約書を確かめ、管理会社に書面で確かめましょう。
- 相続したアパートを売ることはできますか?
- 相続登記を済ませれば売れます。入居者がいるままの売却になるため、売買の会社に早めに相談しましょう。
相続した賃貸アパートの相談先
管理を続けるか、会社を替えるか、売るかは、複数の会社の話を聞いて決めるのが確かです。売る場合の会社は売買の会社一覧、全体は会社一覧から比べられます。家賃の不払いへの対応は家賃滞納の対応の流れ、空室が気になる場合は空室対策、相続登記は相続登記の義務化で紹介しています。まとめて聞きたい方は、一括相談をご利用いただけます。
まとめ
- 賃貸アパートを相続すると、大家としての立場と敷金を返す義務も引き継ぎます
- 入居者には、大家が変わることと振込先を、窓口を決めて知らせます
- 管理会社との契約は、契約書の定めを確かめてから、続けるか見直すかを決めます
- 分割が決まるまでの家賃は、相続人がそれぞれ法定相続分で申告します
- 準確定申告は4か月、相続税は10か月、相続登記は3年が期限の目安です




