民泊の近隣苦情への対応|住宅宿泊事業法10条の義務と苦情を減らす準備

民泊の事業者には、近隣の住民からの苦情に適切かつ迅速に対応する義務があります。住宅宿泊事業法10条とガイドラインが求める対応、苦情を減らす宿泊者への説明、対応の手順と記録の残し方を整理します。
結論
- 民泊(住宅宿泊事業)の事業者は、住宅宿泊事業法10条により、届出住宅の周辺の住民からの苦情や問い合わせに、適切かつ迅速に対応しなければなりません。
- 観光庁のガイドラインでは、深夜や早朝を問わず常に電話などで応じること、注意しても改善しないときは現場に急行して退室を求めることなどが求められています。
- 管理業者に任せている場合、現地に向かうまでの時間は30分以内が目安です(交通の事情で時間がかかる場合は60分以内)。
「夜中に話し声がうるさい」「ごみの出し方が違う」「知らない人がオートロックの前でうろうろしている」。民泊を始めると、こうした声が近所から届くことがあります。
苦情が続くと、近所との関係が悪くなるだけではありません。対応を怠れば、行政からの命令の対象にもなり得ます。
一方で、苦情の多くは、宿泊者への事前の説明や、連絡体制の整え方で減らせます。この記事では、法律が求める苦情対応の義務と、苦情を減らす準備、実際に苦情が来たときの手順を説明します。
民泊の苦情対応は法律上の義務
住宅宿泊事業法10条は、住宅宿泊事業者に、届出住宅の周辺地域の住民からの苦情と問い合わせに、適切かつ迅速に対応することを求めています。苦情対応は、心がけではなく法律上の義務です。
管理を住宅宿泊管理業者に任せている場合は、管理業者がこの対応を担います。住宅宿泊事業法では、10条などの決まりを、管理を任された管理業者にも当てはめています。
ガイドラインが求める対応の水準
観光庁の住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)では、苦情への対応について、次のような水準を示しています。
- 深夜や早朝を問わず、常に、その場での応対か電話で、すみやかに対応する
- 宿泊者が泊まっていない間も、苦情や問い合わせに対応する
- 回答をいったん保留するときは、相手に回答の期日を示し、後日回答する
- 注意しても改善しないときは、現場に急行して退室を求めるなど必要な対応をとる
- 緊急のときは、警察、消防、医療機関などに連絡したうえで、自らも現場に急行する
管理業者が担う場合の目安
ガイドラインでは、管理業者の苦情対応について、必要に応じてすみやかに現地へ向かうことを基本としています。最初の対応は通信機器などを使った遠隔でもかまいませんが、それで解決しないときは現地へ向かう必要があります。
現地へ向かうまでの時間は30分以内が目安で、交通の事情で時間がかかる場合は60分以内が目安とされています。
管理業者への委託が必要な場合
次のどちらかにあたる場合は、管理業務を住宅宿泊管理業者に任せなければなりません。
| 場面 | 委託の要否 |
|---|---|
| 届出住宅の居室の数が5を超える | 委託が必要 |
| 宿泊者を泊める間、事業者が不在になる(日常生活の中での短い外出などは除く) | 原則として委託が必要 |
| 事業者が同じ建物などに住み、居室の数も5以下 | 自分で対応できる |
自分で苦情に対応する場合も、深夜や早朝を含めて常に応じる体制が必要です。本業や家庭の事情で難しければ、委託を考えましょう。委託の仕組みは「住宅宿泊管理業者への委託」で説明しています。
苦情を減らすための事前の準備
苦情への対応と同じくらい大切なのが、苦情を起こさない準備です。住宅宿泊事業法9条は、宿泊者に対し、周辺の生活環境への悪影響を防ぐために必要な事項を説明することを求めています。
宿泊者に説明する4つの事項
住宅宿泊事業法の施行規則とガイドラインでは、説明する事項として次の4つを挙げています。
| 事項 | 説明する内容の例(ガイドラインより) |
|---|---|
| 騒音の防止 | 大声での会話を控える、深夜は窓を閉める、バルコニーなど屋外で宴会をしない、楽器を使わない |
| ごみの処理 | 市町村の分別方法に沿って、事業者が指定した方法で捨てる |
| 火災の防止 | ガスコンロの元栓の開け閉め、消火器の使い方、避難経路、通報の方法 |
| その他 | 過去の苦情を踏まえ、その住宅でとくに注意すべきこと |
説明は、書面を部屋に備え付ける方法や、タブレットでの表示などでもかまいません。宿泊者の目につきやすい場所に掲示するなど、効果的な方法で行う必要があります。外国人の宿泊者には、外国語で説明しなければなりません。
ごみは事業者が責任を持って処理する
ガイドラインでは、民泊から出るごみは、廃棄物処理法に従い、事業活動に伴って生じた廃棄物として、事業者が責任を持って処理しなければならないとしています。宿泊者に地域のごみ置き場へ出させる運用は、苦情のもとになりやすい点です。処理の方法は、自治体の窓口に確かめましょう。
標識と事前のあいさつ
住宅宿泊事業法13条では、届出住宅ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲げることを求めています。標識には連絡先が書かれるため、近所の方が困ったときの窓口にもなります。
ガイドラインでは、届出にあたって、周辺の住民に民泊を営むことを事前に説明することが望ましいとしています。始める前に連絡先を伝えておくと、苦情が来ても話がこじれにくくなります。
ポイント
- 苦情対応は住宅宿泊事業法10条の義務。深夜・早朝も含めて常に応じる
- 宿泊者には、騒音・ごみ・火災・その他の注意を事前に説明する
- ごみは事業者が責任を持って処理する
- 標識と事前のあいさつで、困ったときの窓口を近所に知らせる
苦情が来たときの対応の手順
実際に苦情を受けたときは、次の順番で対応します。
- 相手の話を最後まで聞き、日時、場所、内容を書き留める
- 宿泊中の宿泊者が原因なら、すぐに電話やメッセージで注意する
- 改善しないときは、現場に急行し、必要なら退室を求める
- 事件や事故、急病のおそれがあるときは、警察・消防・医療機関に連絡し、自らも現場に向かう
- 苦情を寄せた方に、対応の結果を伝える。すぐに答えられないときは回答の期日を示す
- 同じ苦情が続かないよう、宿泊者への説明の文面やルールを見直す
退室を求める権限を先に整えておく
ガイドラインでは、管理業者が宿泊者に退室を求める場合に備え、宿泊契約を解除する権限を、あらかじめ事業者から得ておくことが望ましいとしています。委託の契約を結ぶときに、この点を決めておきましょう。
記録を残す
ガイドラインでは、管理業者は、苦情が起きた日時、申し出た人の属性、苦情の内容などを、分かる範囲で記録し、事業者に報告する必要があるとしています。苦情を伴う問い合わせは、対処の状況も含めて報告します。
自分で対応する場合も、同じように記録を残しておくと、宿泊者への説明の見直しや、行政からの問い合わせへの説明に役立ちます。
連絡体制のチェックリスト
苦情にすぐ応じられるかは、始める前の体制で決まります。次の点を確かめておきましょう。
- 深夜や早朝も含めて、電話がつながる番号を決めているか
- 自分が出られないときに代わりに応じる人や会社を決めているか
- 現地まで何分で行けるかを把握しているか
- 宿泊者に連絡する手段(電話・メッセージ)を、チェックインの前に確かめているか
- 苦情の記録をつける表や台帳を用意しているか
- 警察・消防・医療機関に連絡すべき場面を、対応する人どうしで共有しているか
管理業者に任せるときに聞くこと
管理業者に任せる場合は、苦情を受ける窓口の時間、現地に向かう拠点と物件までの時間、記録と報告の方法を確かめます。報告の頻度や形も、委託の契約で決めておきましょう。
苦情を放置したときに起こること
苦情への対応を怠ると、都道府県知事などから業務改善命令を受けることがあります。ガイドラインでは、苦情が多発しているのに、宿泊者への説明で何の手も打たない場合は、業務改善命令などの対象になるとしています。
命令に従わない場合
住宅宿泊事業法では、法令や業務改善命令に違反したときは、1年以内の期間を定めて業務の全部または一部の停止を命じられることがあります。ほかの方法で監督の目的を達成できないときは、事業の廃止を命じられることもあります。
罰則もあります。業務改善命令に違反した場合は30万円以下の罰金、業務停止や廃止の命令に違反した場合は6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が定められています。
条例で、民泊を営める区域や期間を制限している自治体もあります。苦情の多い地域では、こうした制限が設けられていることがあるため、始める前に窓口で確かめましょう。
マンションと一戸建てで違う点
マンションの場合
同じ建物の住民との距離が近く、共用の廊下やエレベーター、ごみ置き場の使い方が苦情になりやすい傾向があります。管理規約や使用細則のルールを、宿泊者への説明に必ず入れましょう。規約で民泊が認められているかは、始める前に確かめておく必要があります。
一戸建ての場合
庭やバルコニーでの話し声、車の出入り、ごみの出し方が苦情になりやすい点です。近所の方に連絡先を伝え、困ったときにすぐ連絡してもらえる関係をつくっておくと安心です。
よくある失敗
「宿泊者がいないから」と問い合わせを後回しにする
宿泊者が泊まっていない間も、苦情や問い合わせへの対応は必要です。連絡がつかない時間をつくらないようにしましょう。
注意書きを貼るだけで終わる
説明の書面を備えても、宿泊者の目に入らなければ意味がありません。チェックインの案内と一緒に送る、目につく場所に掲示するなど、伝わる方法を選びましょう。
苦情を寄せた方に結果を伝えない
対応したつもりでも、相手に結果が伝わっていなければ、不満は残ります。対応の結果を一言伝えるだけで、関係は大きく変わります。
よくある質問
- 民泊の苦情対応は義務ですか?
- 義務です。住宅宿泊事業法10条により、周辺の住民からの苦情と問い合わせに、適切かつ迅速に対応しなければなりません。
- 深夜の苦情にも対応が必要ですか?
- 必要です。観光庁のガイドラインでは、深夜や早朝を問わず、常に電話などですみやかに対応することを求めています。
- 苦情があったら何分で駆けつける必要がありますか?
- 管理業者が対応する場合、現地に向かうまでの時間は30分以内が目安です。交通の事情で時間がかかる場合は60分以内が目安とされています。
- 宿泊者を退室させることはできますか?
- 注意しても改善しない場合は、現場に急行して退室を求めるなどの対応が求められています。管理業者に任せるなら、宿泊契約を解除する権限を事前に渡しておくのが望ましいとされています。
- 苦情を放置するとどうなりますか?
- 業務改善命令を受けることがあり、命令に違反すると業務停止や事業の廃止を命じられることもあります。罰則も定められています。
民泊の運営を任せられる会社を探すには
当メディアの民泊の会社一覧では、公式ホームページの情報をもとに民泊の運営を手がける会社をまとめています。代行会社の比べ方は「民泊運営代行の選び方」、始め方の全体像は「空き家を民泊に」もご覧ください。
まとめ
- 民泊の事業者には、住宅宿泊事業法10条により、近隣からの苦情に適切かつ迅速に対応する義務がある
- 深夜や早朝も含めて常に応じ、改善しないときは現場に急行して退室を求める
- 管理業者が現地に向かうまでの時間は30分以内が目安(交通の事情によっては60分以内)
- 宿泊者には、騒音・ごみ・火災などの注意を事前に説明し、苦情を減らす
- 苦情を放置すると、業務改善命令や業務停止の命令の対象になり得る




