簡易宿所の許可の流れ|保健所への事前相談から施設検査・営業開始まで

空き家や建物を宿にするときに必要な、旅館業法の簡易宿所営業の許可の流れを整理します。保健所への事前相談、建築・消防の確認、申請、施設検査、営業後の義務まで順に説明します。
結論
- 簡易宿所の許可の流れは「事前相談」「許可申請」「施設検査」「許可・営業開始」の4段階です。窓口は施設のある都道府県や、保健所を置く市・特別区の保健所です。
- 申請の前に、用途地域と建築基準法、消防法、賃貸借契約や管理規約を確かめておく必要があります。
- 厚生労働省の手引きでは、申請から許可までの標準的な期間は数週間程度とされています。
「民泊の180日の上限を気にせず、宿として通年で営業したい」。そう考えたときの選択肢が、旅館業法の簡易宿所です。
ただ、簡易宿所は届出ではなく許可です。保健所だけでなく、建築の窓口や消防署とも話を進める必要があります。順番を間違えると、工事のやり直しや開業の遅れにつながります。
この記事では、簡易宿所の許可を取るまでの流れを、準備から営業開始後まで順に整理します。
簡易宿所とは
簡易宿所営業とは、宿泊する場所を多くの人で共用する構造や設備を主とする施設で、宿泊料を受けて人を泊める営業です。旅館業法第2条で定められています。ゲストハウスやカプセルホテルが例です。
厚生労働省の手引きでは、住宅を使って宿泊サービスをする場合、フロントの設置義務がない簡易宿所で許可を取るのが一般的だとしています。一方で、1人しか泊まれない客室だけの施設は、簡易宿所に当たらないとも説明しています。
民泊新法の届出との違いは「民泊・旅館業・特区民泊の違い」で比べています。
許可を出すのは誰か
旅館業法第3条では、旅館業を営むには都道府県知事の許可が必要としています。保健所を置く市や特別区では、市長や区長の許可です。実際の窓口は保健所になります。
簡易宿所の許可の流れ
全体の流れは次のとおりです。手引きの4段階に、申請前の準備を加えています。
- 用途地域、建物、消防、契約の条件を確かめる
- 保健所に事前相談をする
- 必要な工事をし、建築と消防の手続きを進める
- 保健所に許可申請をする
- 保健所の施設検査を受ける
- 許可を受けて、営業を始める
ステップ1:申請前に確かめること
手引きでは、事前相談の際に、所在地、図面、建築基準法への適合、消防法への適合、マンションの管理規約などの確認を求められることがあるとしています。
- 用途地域:地域によっては旅館業の立地が認められない
- 建築:宿泊施設に用途を変える部分の床面積が200㎡を超えると、確認申請が必要
- 消防:消防用設備などの設置が必要
- 契約:借りた建物なら、転貸や旅館業への使用が契約で認められているか
- 管理規約:分譲マンションなら、規約で用途が制限されていないか
建築基準法では、ホテルや旅館は特殊建築物です。用途を変えてその部分が200㎡を超える場合は、確認申請の決まりが準用されます。200㎡以下で確認申請が要らなくても、建築基準法には適合させる必要があります。
ステップ2:保健所への事前相談
手引きでは、許可申請の前に事前相談を求めている自治体が多いとしています。図面を持参し、構造設備の基準や、条例の上乗せを確かめます。
工事に入る前に相談するのが大切です。基準に合わない工事をしてしまうと、やり直しになります。
ステップ3:工事と建築・消防の手続き
必要な工事をしながら、建築と消防の手続きを進めます。確認申請をした用途変更では、工事が終わったら建築主事などへの届出が必要です。
消防については、消防署で必要な設備と手続きを確かめます。自治体によっては、許可申請に消防法令適合通知書の添付を求めたり、保健所から消防署へ確認したりします。
消防署への相談の進め方は「民泊の届出の流れ」でも触れています。宿の規模や構造で必要な設備が変わるため、必ず管轄の消防署に相談してください。
民泊新法の届出と比べた手間
| 項目 | 簡易宿所 | 民泊新法 |
|---|---|---|
| 手続き | 許可 | 届出 |
| 窓口 | 保健所 | 都道府県知事等 |
| 年間の営業日数 | 上限なし | 1年に180日まで |
| 施設の検査 | 保健所の立入検査がある | 届出のあと必要に応じて確認 |
| 建物の扱い | 宿泊施設としての基準を満たす | 住宅のまま |
許可は手間がかかる分、通年で営業できます。どちらにするかは、営業したい日数と、改修にかけられる費用で考えます。
簡易宿所の構造設備の基準
旅館業法施行令第1条第2項では、簡易宿所の構造設備の基準を次のように定めています。
| 項目 | 国の基準 |
|---|---|
| 客室の延床面積 | 33㎡以上。宿泊者を10人未満とする場合は、3.3㎡に宿泊者の数をかけた面積以上 |
| 二段ベッド | 上段と下段の間隔はおおむね1m以上 |
| 換気・採光など | 適当な換気、採光、照明、防湿、排水の設備 |
| 入浴設備 | 近くに公衆浴場があるなどの場合を除き、需要を満たす規模 |
| 洗面設備・便所 | 適当な規模の洗面設備と、適当な数の便所 |
| その他 | 都道府県などが条例で定める基準 |
国の法令では、簡易宿所にフロント(玄関帳場)の設置義務はありません。ただし、条例で求める自治体があります。たとえば千代田区は、玄関帳場の設置と従業員の常駐を求めています。
ポイント
- 簡易宿所の延床面積は33㎡以上。10人未満なら1人3.3㎡で計算
- フロントは国の基準では不要。条例で求める自治体がある
- 宿泊に使う部分が200㎡を超える用途変更は確認申請が必要
- 基準と条例は、工事の前に保健所で確かめる
ステップ4〜6:申請・検査・許可
許可申請
旅館業法施行規則第1条では、申請書に、申請者の住所・氏名、施設の名称と所在地、営業の種別、構造設備の概要などを書くとしています。構造設備を明らかにする図面も添付します。
申請書の様式や添付書類、手数料は自治体ごとに違います。たとえば千代田区では、簡易宿所の手数料を11,000円としています。
許可されないことがある場合
旅館業法第3条では、次のような場合に許可を与えないことができるとしています。
- 施設が構造設備の基準に合わない
- 設置場所が公衆衛生上ふさわしくない
- 申請者が欠格事由に当たる(許可の取り消しから3年を経ていないなど)
- 学校や児童福祉施設などの敷地の周囲おおむね100mの区域内にあり、その環境を著しく害するおそれがある
100mの区域内の場合、許可の前にその施設の側へ意見を求める手続きがあります。物件探しの段階で、近くに学校や保育所がないか確かめておきましょう。
施設検査と許可
申請のあと、保健所の職員などによる立入検査があります。基準を満たしていると確認されるまで、許可は出ません。許可を受ければ、営業を始められます。
営業を始めてから必要なこと
- 寝具の交換や浴室の清掃など、条例で定める衛生管理を行う
- 宿泊者名簿を備え、氏名、住所、連絡先を記載する
- 宿泊者が日本に住所のない外国人なら、国籍と旅券番号も記載する
- 宿泊者名簿は、作成の日から3年間保存する
許可を受けずに旅館業を営むと、旅館業法第10条により、6か月以下の拘禁刑か100万円以下の罰金、またはその両方の対象になります。
場面で考える
たとえば、商店街の空き家を宿にしたいEさん
Eさんは、駅に近い商店街の空き家を、ゲストハウスにしたいと考えました。最初に建築の窓口で用途地域を確かめ、宿にできる地域だと分かりました。
次に保健所へ図面を持って相談し、条例の上乗せの基準を聞きました。消防署にも相談してから、工事の見積もりを取りました。相談を先にしたことで、見積もりのやり直しを防げました。
たとえば、借りた建物で宿を開きたいHさん
Hさんは、借りている一棟の建物で宿を開きたいと考えました。厚生労働省の手引きでは、借りた建物でも許可は受けられるとしています。ただし、転貸が禁じられていないことと、旅館業に使えることを、貸主や管理会社に確かめる必要があります。
Hさんは、貸主から旅館業への使用の承諾を書面でもらってから、保健所に相談しました。承諾の書面があったことで、事前相談がスムーズに進みました。
言葉の言い換え
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 簡易宿所 | 多くの人で共用する形の宿。ゲストハウスなど |
| 玄関帳場 | フロントのこと |
| 用途変更 | 建物の法律上の使い道を変えること |
| 施設検査 | 保健所の職員が施設を見て、基準に合うか確かめること |
| 宿泊者名簿 | 泊まった人の氏名や住所などの記録 |
よくある失敗
- 工事を終えてから保健所に相談し、基準に合わずやり直しになる
- 条例のフロントの基準を見落とす
- 借りた建物で、貸主に旅館業への使用を確かめていない
- 消防の手続きを後回しにして、開業が遅れる
古い建物を宿にする場合は「古民家の活用」も参考になります。
費用と期間の見通しの立て方
簡易宿所の準備には、改修の工事、建築と消防の手続き、保健所の申請が重なります。費用と期間は、建物の状態と自治体の基準で大きく変わります。見通しを立てるには、次の順で情報を集めます。
- 保健所と消防署で、必要な設備と条例の基準を聞く
- 建築士に、用途変更の要否と必要な工事を見てもらう
- 工事の見積もりを、必要な工事が決まってから取る
- 工事、検査、許可までの日程を逆算して、開業日を決める
相談の前に見積もりを取ると、後から工事が増えて費用が膨らみやすくなります。開業日を先に決めてしまうのも、よくある失敗です。
許可を取ったあとに気をつけること
許可は、申請した施設と構造設備に対して出ています。客室を増やす、間取りを変えるなどの工事をするときは、前もって保健所に相談しましょう。営業をやめるときや、営業者が変わるときも、手続きが必要になる場合があります。
近所への配慮も早めに
宿を開くと、人の出入りや話し声、ごみの出し方などで、近所の方が不安を感じることがあります。近隣への説明が必要かどうかは自治体によって扱いが違うため、事前相談の際にあわせて聞いておきましょう。
申請前のチェックリスト
- 用途地域で旅館業ができるか確かめたか
- 宿泊に使う部分の床面積と、確認申請の要否を確かめたか
- 消防署で必要な設備と手続きを確かめたか
- 条例の構造設備の基準とフロントの扱いを確かめたか
- 近くおおむね100mに学校や児童福祉施設がないか確かめたか
- 借りた建物なら、貸主の承諾を書面でもらったか
よくある質問
- 簡易宿所の許可はどこに申請しますか?
- 施設のある都道府県、または保健所を置く市や特別区の保健所です。
- 許可が出るまでどのくらいかかりますか?
- 厚生労働省の手引きでは、申請から許可までの標準的な期間は数週間程度です。地域や時期で差があります。
- 簡易宿所に必要な広さは?
- 客室の延床面積が33㎡以上です。宿泊者を10人未満とする場合は、3.3㎡に人数をかけた面積以上です。
- 簡易宿所にフロントは必要ですか?
- 国の基準では不要ですが、条例で設置を求める自治体があります。
- 簡易宿所は1年中営業できますか?
- 旅館業法には、民泊新法のような年間の日数の上限はありません。
- 借りている建物でも許可は取れますか?
- 取れます。ただし、転貸が禁じられていないことと、旅館業に使えることを、貸主や管理会社に確かめる必要があります。
宿にする相談先を探すには
宿泊での活用を扱う会社は民泊の不動産会社一覧で探せます。住宅のまま始める方法は「民泊の始め方」をご覧ください。
まとめ
- 簡易宿所の許可は、事前相談・申請・施設検査・許可の4段階
- 窓口は都道府県や、保健所を置く市・特別区の保健所
- 延床面積は33㎡以上、10人未満なら1人3.3㎡。フロントは条例で求められることがある
- 用途地域・建築・消防・契約を、工事の前に確かめる
- 営業後は衛生管理と、宿泊者名簿の3年保存が必要




