契約不適合責任で売主が負う責任とは?買主の4つの請求と免責特約の注意点

家を売ったあとに雨漏りや設備の不具合が見つかると、売主は契約不適合責任を問われることがあります。売主が負う責任の範囲、買主ができる4つの請求、通知の期間、責任を軽くする特約の限界を、民法の条文にそって整理します。
結論
- 契約不適合責任とは、売った物が種類・品質・数量・権利の点で契約の内容に合っていなかったときに、売主が買主に対して負う責任です。
- 買主は、売主に対して、修理などの追完、代金の減額、損害の賠償、契約の解除を求めることができます(民法562条〜564条)。
- 種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内に売主へ通知しないと、原則として請求できなくなります(民法566条)。
- 責任を負わない特約を結んでも、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法572条)。
「築30年の実家を売ったら、あとから雨漏りを指摘されないか心配」。「古い家だから、何かあっても責任は負わない約束にしたい」。家を売る方から、こうした相談がよく寄せられます。
売却では、引き渡したあとのトラブルがいちばん重くのしかかります。代金を受け取ったあとで修理代を求められたり、契約を解除されたりすることもあるからです。
この記事では、売主が負う契約不適合責任の中身と、買主ができる請求、期間の決まり、特約で決められることと決められないことを順に整理します。
契約不適合責任とは
売主の契約不適合責任の意味
契約不適合責任とは、売主が引き渡した物や移した権利が、契約で決めた内容に合っていないときに、売主が負う責任です。民法では「契約の内容に適合しないもの」と書かれています。
ポイントは「契約の内容」と比べることです。古い家であっても、古さや傷みを契約の内容として買主に伝え、合意していれば、その点は不適合にあたらないと考えやすくなります。
2020年4月の民法改正で見直された
法務省によると、売買のルールを含む改正民法は、一部を除き2020年4月1日から施行されています。改正後の民法では、買主が、損害賠償や解除のほか、修理などの完全な履行や代金の減額を求められることが明記されました。
法務省の資料では、原則として、施行日より前に結んだ契約には改正前の民法が、施行日以後に結んだ契約には改正後の民法が適用されると説明されています。
どんなときに「不適合」になるか
民法が挙げるのは、次の4つの場面です。
- 種類が違う:契約と別の物が引き渡された
- 品質が違う:雨漏り、シロアリの被害、給湯器の故障などが契約の内容と食い違う
- 数量が足りない:面積を前提に代金を決めたのに、実際は足りなかった
- 権利が違う:移した権利の一部が他人のものだった、など(民法565条)
むずかしい言葉の言い換え
- 追完(ついかん):足りないところを補って、契約どおりの状態にすること。修理や交換のこと
- 帰責事由(きせきじゆう):責任を問われるべき事情。不注意や落ち度のこと
- 免責特約:売主が責任を負わないと決める約束
- 告知書:売主が知っている建物の不具合や周りの事情を書いて、買主に渡す書面
買主ができる4つの請求
追完・減額・損害賠償・解除
民法562条から564条は、買主ができる請求を定めています。まとめると次の表のとおりです。
| 請求 | 中身 | 条文 |
|---|---|---|
| 追完の請求 | 修理、代わりの物の引き渡し、足りない分の引き渡しを求める | 民法562条 |
| 代金の減額 | 期間を決めて追完を求めても応じないとき、不適合の程度に応じて減額を求める | 民法563条 |
| 損害の賠償 | 不適合で生じた損害の賠償を求める | 民法564条・415条 |
| 契約の解除 | 契約をなかったことにする | 民法564条・541条・542条 |
売主が選べること
追完の方法は、まず買主が選びます。ただし、買主に不相当な負担をかけないときは、売主は買主が求めた方法と違う方法で追完できます(民法562条1項ただし書き)。
たとえば買主が「給湯器を新品に交換してほしい」と求めても、修理で十分に直り、買主の負担も変わらないなら、修理で応じられる場合があります。
売主に落ち度がなくても請求されることがある
法務省のパンフレットでは、売主と買主のどちらにも責任のある事情がない場合でも、買主は追完・減額・解除を求められると整理されています。損害の賠償は、売主に責任のある事情があるときに限られます。
| 原因がだれにあるか | 損害賠償 | 解除 | 追完 | 減額 |
|---|---|---|---|---|
| 買主 | できない | できない | できない | できない |
| どちらにもない | できない | できる | できる | できる |
| 売主 | できる | できる | できる | できる |
「自分は知らなかったから責任はない」とは言い切れない、という点が売主にとって大切です。
通知の期間と、請求できる期間
種類・品質は「知った時から1年以内に通知」
民法566条では、種類または品質の不適合について、買主がそれを知った時から1年以内に売主へ通知しないと、追完・減額・損害賠償・解除を求められなくなるとされています。
ここでいう期間は「引き渡しから1年」ではなく、「買主が知った時から1年」です。また、1年以内に求められているのは通知であり、裁判を起こすことまでは求められていません。
売主が引き渡しの時に不適合を知っていた場合や、重大な不注意で知らなかった場合は、この1年の制限はかかりません(民法566条ただし書き)。
数量・権利の不適合と、時効
1年以内の通知の決まりは、種類と品質についてのものです。数量や権利の不適合には、この決まりはありません。
また、請求する権利そのものは、民法166条の消滅時効にかかります。権利を使えると知った時から5年、使える時から10年のどちらか早いほうで、時効によって消えます。
ポイント
- 契約不適合責任は「契約の内容」と比べて判断します
- 買主は、追完・減額・損害賠償・解除を求められます
- 売主に落ち度がなくても、追完・減額・解除は求められることがあります
- 種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内の通知が必要です
売主の責任を軽くする特約
個人の売主は特約で決められる
民法の契約不適合責任の決まりは、当事者の合意で変えられる部分があります。個人どうしの売買では、「責任を負わない」「通知の期間を引き渡しから3か月にする」といった特約を結ぶことがあります。
古い家の売却では、こうした特約で売主の負担を軽くすることが、価格の話し合いとあわせて検討されます。どこまで軽くするかは、買主の納得が前提です。
知りながら告げなかったことは免れない
民法572条では、責任を負わない特約をしたときでも、売主が知りながら告げなかった事実は、責任を免れないとされています。
国土交通省のQ&Aでも、免責の特約があっても、知りながら告げなかった事実についての責任は逃れられないと説明しています。「免責にしたから、雨漏りのことは黙っておこう」は通用しません。
宅建業者が売主のときの制限
宅地建物取引業法40条では、宅建業者がみずから売主になる売買では、通知の期間を引き渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約をしてはならないとされています。これに反する特約は無効です。
| 売主 | 特約で軽くできるか | 主な決まり |
|---|---|---|
| 個人などの売主 | 合意すれば軽くできる。ただし知りながら告げなかった事実は免れない | 民法572条 |
| 宅建業者の売主 | 通知期間を引き渡しから2年以上とする特約以外の、買主に不利な特約は無効 | 宅建業法40条 |
契約書にどう書かれるか
宅建業者が仲介する売買では、契約不適合責任や、その責任のために保証保険の契約などを結ぶかについて定めがあれば、その内容を契約の書面に書くことになっています(宅地建物取引業法37条1項11号)。
売主がしておきたい備え
知っている不具合はすべて伝える
いちばんの備えは、知っている不具合を隠さず伝え、契約書や告知書に書き残すことです。伝えたうえで合意した不具合は、「契約の内容」の一部になります。
場面の例
Aさんは、相続した築35年の実家を売ることにしました。数年前に浴室の天井から雨漏りがあり、一度修理したことを覚えていました。
仲介会社と相談し、修理した時期と場所を告知書に書き、修理の記録も渡しました。契約書には、その雨漏りの箇所を前提として価格を決めたことが書かれました。引き渡しのあとに同じ場所から水がしみても、買主が知ったうえでの売買だったため、話し合いは落ち着いて進みました。
売る前のチェックリスト
- 雨漏り、シロアリ、配管の水漏れ、傾きなど、過去の不具合と修理の記録を集めた
- 給湯器やエアコンなど、残していく設備の動き具合を確かめた
- 土地の境界や面積について、資料があるかを確かめた
- 免責や期間の特約を入れるか、仲介会社と相談した
- 告知書と付帯設備表に、知っていることを書いた
買主から不具合の連絡が来たときの手順
- 連絡の日付と、不具合の場所・内容を記録する
- 契約書の特約(免責や通知期間)と、告知書に何を書いたかを確かめる
- 仲介した会社に連絡し、一緒に現地を確かめる
- 不具合が引き渡しの前からあったものか、契約の内容と食い違うかを整理する
- 修理で応じるか、減額で応じるかなど、対応の案を話し合う
- 話がまとまらないときは、弁護士などの専門家に相談する
連絡を放っておくと、買主の不信が大きくなります。責任があるかどうかの判断と、まず話を聞くことは分けて考えましょう。
よくある失敗
一つ目は、「古い家だから言わなくても分かるはず」と、具体的な不具合を伝えないことです。古さを伝えることと、雨漏りの事実を伝えることは別です。
二つ目は、免責の特約を結べば何でも免れると思い込むことです。知りながら告げなかったことには、特約の効き目がありません。
よくある質問
- 契約不適合責任は、売主が知らなかった不具合にも及びますか?
- 及ぶことがあります。売主に落ち度がなくても、買主は追完・減額・解除を求められると法務省のパンフレットは説明しています。損害賠償は、売主に責任のある事情があるときに限られます。
- 売主は、いつまで責任を負いますか?
- 種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内に通知がなければ、原則として請求できなくなります。特約で期間を決めている場合は、その定めによります。
- 個人の売主は、責任を負わない特約を結べますか?
- 合意すれば結べます。ただし、売主が知りながら告げなかった事実については、責任を免れません(民法572条)。
- 宅建業者が売主のときも、免責にできますか?
- できません。通知期間を引き渡しから2年以上とする特約を除き、買主に不利な特約は無効とされています(宅地建物取引業法40条)。
- 2020年3月以前に結んだ契約にも、契約不適合責任は当てはまりますか?
- 法務省の資料では、施行日より前に結んだ契約には、原則として改正前の民法が適用されると説明されています。
売却の相談先
契約書の特約や告知書の書き方は、仲介する会社と一緒に決めていきます。売却を任せる会社は売買の会社一覧から比べられます。売却の全体の進め方は不動産売却の流れ、そろえる書類は不動産売却の必要書類、会社の選び方は売却の会社の選び方で紹介しています。相続した家の売却は相続した実家の売却の流れ、買い手が業者になる場合は買取の流れも参考になります。複数の会社にまとめて聞きたい方は、一括相談をご利用いただけます。
まとめ
- 契約不適合責任は、種類・品質・数量・権利が契約の内容に合わないときに売主が負う責任です
- 買主は、追完・減額・損害賠償・解除を求められます
- 種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内の通知が必要です
- 個人の売主は特約で責任を軽くできますが、知りながら告げなかった事実は免れません
- 宅建業者が売主のときは、引き渡しから2年以上とする特約以外の不利な特約は無効です
- 知っている不具合を伝え、書面に残すことが、いちばんの備えです




