インスペクションは売却前にすべき?建物状況調査の説明義務と流れ・費用の目安

中古の家を売るときは、仲介会社から建物状況調査(インスペクション)について説明を受けます。調査は義務なのか、だれが調べ、何が分かり、重要事項説明でどう扱われるのかを、宅地建物取引業法と国土交通省の資料にそって整理します。
結論
- 売却前のインスペクション(建物状況調査)は義務ではありません。売主・買主のどちらが行ってもよく、買主が行うときは売主の同意が必要です。
- 仲介会社には、媒介契約の書面に調査者のあっせんについて書くこと、重要事項説明で調査の有無と結果の概要を説明することが、宅地建物取引業法で求められています。
- 調査するのは、国の登録を受けた講習を修了した建築士です。建物の骨組みと雨水の入りやすい部分を、目で見たり測ったりして調べます。
- 国土交通省の資料では、費用は6万円程度からが目安、時間は1〜3時間程度とされています。瑕疵がないことを保証するものではありません。
「仲介会社から、インスペクションをするかどうか聞かれた」。「調べて悪いところが見つかったら、売れなくなるのでは」。中古の家を売る方にとって、建物の調査は気になるけれど判断しにくいテーマです。
調べるかどうかは売主が決めることですが、調べないことにもリスクがあります。引き渡したあとに不具合が見つかると、契約不適合責任をめぐるトラブルになりやすいからです。
この記事では、建物状況調査の意味、仲介会社の説明義務、調査の流れと費用、売主にとっての判断の分かれ道を順に整理します。
インスペクション(建物状況調査)とは
建物状況調査の意味
建物状況調査とは、中古住宅の基礎や外壁などに生じているひび割れや雨漏りなどの劣化・不具合の有無を、目視や計測で調べるものです。国土交通省のQ&Aでは、瑕疵がないことを保証するものではなく、住宅の状況を明らかにして安心して取引できるようにするものと説明しています。
宅地建物取引業法では「建物状況調査」と呼び、国土交通省の資料では「建物状況調査(インスペクション)」と書かれています。
だれが調べるのか
調べるのは、国の登録を受けた講習を修了した建築士(既存住宅状況調査技術者)です(宅地建物取引業法施行規則15条の8)。講習を修了していない建築士などが行う調査は、宅地建物取引業法の建物状況調査にはあたらないとされています。
調査の当日は、資格を示すカード型の修了証などを持っているので、見せてもらうことで確かめられると国土交通省は案内しています。
調べる部分
調べるのは、施行規則15条の7で決められた次の部分です。
- 構造の主な部分:基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、筋かいなどの斜材、床版、屋根版、はり・けたなどの横架材
- 雨水の入るのを防ぐ部分:屋根、外壁、その開口部の戸やわくなどの建具、屋根や外壁の内部・屋内にある雨水の排水管
点検口がない、動かせない家具があるなどで見られない場所は、調べられないことがあります。調べる部分は上のとおり決まっているため、給湯器などの設備の具合は、別に確かめておきましょう。
むずかしい言葉の言い換え
- 既存住宅:すでに建っている住宅。中古住宅のこと
- あっせん:調査を行う人を紹介し、手配すること
- 重要事項説明:契約の前に、宅地建物取引士が物件の大切な事柄を書面で説明すること
- 瑕疵(かし):本来あるべき品質や性能が欠けていること。欠陥のこと
- 非破壊検査:建物を壊さずに、器具を当てて内部の状態を調べること
売却で仲介会社が説明すること
宅建業法で決まっている3つの場面
平成30年4月1日に施行された改正宅地建物取引業法で、中古住宅の取引では、次の3つの場面で建物状況調査を扱うことになりました。
| 場面 | 仲介会社がすること | 条文 |
|---|---|---|
| 媒介契約を結ぶとき | 調査を行う者のあっせんに関する事項を書面に書く | 宅建業法34条の2第1項4号 |
| 重要事項説明 | 調査の有無と結果の概要、設計図書などの書類の保存状況を説明する | 宅建業法35条1項6号の2 |
| 売買契約を結ぶとき | 建物の構造の主な部分などの状況について、売主と買主の双方が確認した事項を書面に書く | 宅建業法37条1項2号の2 |
あっせんは「するかしないか」も書く
国土交通省のQ&Aでは、媒介契約書に「あっせんの有無」を書き、「無」とするときは理由を書くこととされています。そのため仲介会社は、売主に制度の概要を紹介することが求められます。
令和6年4月1日からは、標準媒介契約約款に、あっせんを「無」とする場合の理由を書く欄と、調査の限界(瑕疵の有無を判定するものではないことなど)が加わりました。
買主が調べたいと言ったとき
国土交通省のQ&Aでは、購入希望者が調べるには、あらかじめ売主の承諾を得る必要があるとしています。承諾するときは、日時と立ち入る範囲、結果を売主にも共有してもらうかを、仲介会社を通じて決めておくと安心です。
説明の対象になる調査の期限
重要事項説明の対象になるのは、調査から一定の期間がたっていないものに限られます。施行規則16条の2の2では、その期間を1年、鉄筋コンクリート造などの共同住宅等は2年としています。共同住宅等の2年は、令和6年4月1日から適用されています。
説明される書類
重要事項説明では、調査の結果に加えて、建物の建築と維持保全の状況に関する書類の保存状況も説明されます(施行規則16条の2の3)。
- 建築確認の申請書と確認済証
- 検査済証
- 建物状況調査の報告書
- 既存住宅の建設住宅性能評価書
- 昭和56年5月31日以前に新築工事に着手した住宅では、耐震診断の結果の報告書など
調査の流れと費用の目安
売主が調べるときの手順
- 仲介会社に、建物状況調査をしたいと伝え、調査者のあっせんを頼む(自分で探すこともできる)
- 調査者と日程、費用、調べる範囲を決める
- 設計図書や新築時の確認済証など、手元の書類を用意する
- 当日の調査に立ち会い、見られなかった場所を確かめる
- 「調査の結果の概要」と報告書を受け取り、仲介会社に渡す
- 不具合が見つかったら、直すか、そのまま伝えて価格に反映するかを決める
国土交通省は、調査者を探す方法として「既存住宅状況調査技術者検索サイト」を案内しています。居住中の家でも調査はできます。
結果の受け取りと保管
調査が終わると、調査者から「調査の結果の概要」と報告書を受け取ります。国土交通省のQ&Aでは、依頼者にこれらを保管する義務はないとしていますが、売却のあとに買主から問い合わせを受けることもあるため、写しを手元に残しておくと安心です。
費用と時間
国土交通省のQ&Aでは、費用に決まった基準はないものの、標準的な内容で6万円程度からが目安とされています。戸建てとマンションで調べる部位や数が違うため、費用も変わることがあります。
時間は、住宅の規模にもよりますが、1〜3時間程度が見込まれるとされています。費用は、調査を頼んだ人(売主や購入希望者など)が負担するのが一般的と考えられると説明されています。
仲介会社から調査者のあっせんを受けても、仲介手数料とは別のあっせん料を払う必要はありません。あっせんは仲介の業務の一環とされています。
ポイント
- 建物状況調査は義務ではなく、売主・買主どちらが行ってもかまいません
- 仲介会社は、あっせんの有無を媒介契約書に書き、調査の結果を重要事項説明で説明します
- 説明の対象になる調査は1年以内(鉄筋コンクリート造などの共同住宅等は2年以内)のものです
- 費用の目安は6万円程度から、時間は1〜3時間程度と国土交通省は案内しています
売却前に調べるかどうかの分かれ道
調べるメリット
国土交通省の資料では、調査をすると、取引のあとのトラブルを抑えられること、住宅の状態に見合った価格で取引できること、リフォームや手入れの計画に役立つことがメリットとして挙げられています。
調べないリスク
同じ資料では、引き渡したあとに不具合が見つかった場合、売主は訴訟などのトラブルになるおそれがあるとしています。責任を負わない特約があっても、知りながら告げなかった事実は免れないことにも触れています(民法572条)。
判断の目安
| こんなとき | 考え方 |
|---|---|
| 築年数がたち、雨漏りや傾きの心配がある | 先に調べて、状態を価格と契約書に反映させやすくする |
| 空き家で、しばらく中を見ていない | 売主も状態が分からないので、調べる意味が大きい |
| 買主から調査を申し出られた | 断るとトラブルの種になりやすい。同意して日程を合わせる |
| 売る前にリフォームするか迷っている | 調査の結果を見てから、直す範囲を決める |
場面の例
Bさんは、10年ほど空き家にしていた木造の家を売ることにしました。売主自身も中の傷み具合が分からず、仲介会社に調査者をあっせんしてもらいました。
調査では、小屋裏の雨じみと外壁のひび割れが見つかりました。Bさんは、直さずに結果を伝え、その分を踏まえた価格で売り出すことにしました。重要事項説明で結果の概要が説明され、買主も納得したうえで契約に進みました。
よくある失敗
- 調査の結果を受け取ったが、仲介会社に渡さず、重要事項説明で使われなかった
- 調査ですべての不具合が分かると思い込み、設備の点検をしなかった
- 調べられなかった場所があったのに、そのことを買主に伝えなかった
- 調査から時間がたち、重要事項説明の対象になる期間を過ぎてしまった
調査と保険の関係
国土交通省の資料では、既存住宅売買瑕疵保険という、検査と保証がセットになった保険が紹介されています。保険に入るための検査は、建物状況調査とあわせて行えます。
ただし、保険に入るには、保険法人の登録を受けた検査事業者に頼む必要があります。検査の有効期限は、木造戸建て住宅で1年、鉄筋コンクリート造などのマンションで2年などとされています。詳しい条件は、各保険法人に確かめましょう。
よくある質問
- 家を売るとき、インスペクションは義務ですか?
- 義務ではありません。中古住宅を売買するときに必ず行わなければならないものではないと、国土交通省のQ&Aは説明しています。
- 買主からインスペクションをしたいと言われたら、断れますか?
- 買主が調べるには売主の承諾が必要なので、断ることはできます。ただし、断ったことが後のトラブルにつながった例を、国土交通省の手引きが紹介しています。
- インスペクションの費用はいくらですか?
- 決まった基準はありませんが、国土交通省のQ&Aでは標準的な内容で6万円程度からが目安とされています。家の規模や調査者によって違います。
- 調査で不具合が見つかったら、売れなくなりますか?
- 売れなくなるとは限りません。直してから売るか、結果を伝えて価格に反映させるかを選べます。伝えた不具合は、契約の内容として扱いやすくなります。
- 何年前の調査結果でも使えますか?
- 重要事項説明の対象になるのは、調査から1年以内、鉄筋コンクリート造などの共同住宅等は2年以内のものです。
売却と建物の調査の相談先
調査者のあっせんは、売却を任せる仲介会社に相談するのが近道です。会社は売買の会社一覧から比べられます。媒介契約の種類は一般媒介と専任媒介の違い、売却の段取りは不動産売却の流れ、用意する書類は不動産売却の必要書類、価格の調べ方は不動産査定の種類で紹介しています。空き家の傷みが心配な方は空き家の管理方法も参考になります。複数の会社にまとめて聞きたい方は、一括相談をご利用いただけます。
まとめ
- 建物状況調査(インスペクション)は義務ではなく、売主・買主のどちらが行ってもかまいません
- 調べるのは、国の登録を受けた講習を修了した建築士です
- 仲介会社は、媒介契約書・重要事項説明・契約の書面の3つの場面で調査を扱います
- 説明の対象は調査から1年以内(鉄筋コンクリート造などの共同住宅等は2年以内)です
- 費用は6万円程度から、時間は1〜3時間程度が国土交通省の示す目安です
- 調べた結果を伝えて売ることが、引き渡し後のトラブルを減らす近道です




