不動産所得の赤字は損益通算できる?給与と相殺できる範囲と、土地の利子の制限

賃貸の不動産所得が赤字になったとき、給与などほかの所得と差し引きできるかを整理した記事です。損益通算の仕組み、通算できない土地の借入金の利子の計算、土地と建物をまとめて買った場合の特例、繰越しを順に説明します。
結論
- 不動産所得の赤字は、給与所得などほかの所得の黒字から差し引けます。これを損益通算といいます。
- ただし、土地を買うための借入金の利子に当たる部分の赤字は、損益通算できません。別荘など趣味・保養のための不動産の貸付けによる赤字も同じです。
- 青色申告なら、差し引いても残った赤字を翌年以後3年間繰り越せます。
アパートを買った1年目、家賃より経費の方が多くなった。会社員のオーナーなら、「この赤字で給与の税金が戻るのでは」と考えると思います。
実際、不動産所得の赤字は給与と差し引きできます。ただ、赤字の全部が差し引けるとは限りません。土地のために借りたお金の利子は、特別な扱いになります。
この記事では、国税庁のタックスアンサー No.2250・No.1391 と、租税特別措置法の条文をもとに、不動産所得の赤字の扱いに絞って説明します。確定申告全体は「不動産所得の確定申告」で整理しています。
不動産所得の損益通算とは
意味を一言で
損益通算とは、ある所得で出た赤字を、ほかの所得の黒字から差し引くことです。所得税法第69条で、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字が対象になると定められています。
不動産所得は、総収入金額から必要経費を引いて計算します(No.1370)。経費の方が多ければ、その差が赤字です。
差し引ける所得・差し引けない所得
| 所得 | 赤字をほかと差し引けるか |
|---|---|
| 不動産所得 | 差し引ける(一部に制限あり) |
| 事業所得 | 差し引ける |
| 譲渡所得 | 差し引ける(土地建物の譲渡などは制限あり) |
| 山林所得 | 差し引ける |
| 給与所得・雑所得・配当所得・一時所得 | 赤字が出ても差し引けない |
給与所得は赤字を出しても差し引けませんが、不動産所得の赤字を受け止める側にはなれます。会社員のオーナーが還付を受けられるのは、この仕組みのためです。
言葉の言い換え
- 必要経費:家賃収入を得るために直接かかった費用
- 負債の利子:借入金の利息
- 純損失:損益通算しても引ききれずに残った赤字
損益通算できない不動産所得の赤字
土地を取得するための借入金の利子
租税特別措置法第41条の4では、不動産所得が赤字の年に、土地や借地権などを取得するための借入金の利子を経費に入れているとき、その利子に当たる部分の赤字はなかったものとみなすと定めています。
利子そのものは経費にできます。差し引けなくなるのは、赤字のうち土地の利子に当たる部分だけです。
別荘などの貸付け
No.1391 では、主として趣味・娯楽・保養・鑑賞の目的で持つ不動産(別荘など)の貸付けによる赤字も、損益通算の対象外とされています。
赤字の多くは減価償却費から
建物の代金は、買った年に一度に経費にするのではなく、減価償却費として何年かに分けて経費にします。お金は出ていかないのに経費になるため、手元のお金は残っていても、帳簿の上では赤字になることがあります。
この赤字も、土地の利子に当たる部分を除けば、損益通算できます。ただし、減価償却費は年数がたつと減っていくため、赤字はいつまでも続くわけではありません。
別荘を貸している場合の例
普段は自分で使う別荘を、使わない時期だけ貸していると、その貸付けの赤字は損益通算できません。賃貸用に持つ住まいと、趣味や保養のための不動産は、扱いが分かれる点に注意します。
そのほかの例外
No.1391 では、民法上の組合などの特定組合員の赤字や、令和3年分以後の国外の中古建物の減価償却費に当たる部分なども対象外に挙げられています。当てはまりそうな場合は、税務署や税理士に確かめます。
土地の利子の制限の計算
計算のしかた
租税特別措置法施行令第26条の6では、差し引けなくなる額を次のように決めています。
| 場合 | 損益通算できない額 |
|---|---|
| 土地の利子が赤字より大きい | 赤字の全額 |
| 土地の利子が赤字以下 | 赤字のうち土地の利子と同じ額 |
数字の例
説明のための例です。不動産所得の赤字が150万円で、そのうち土地を買うための借入金の利子が60万円だったとします。土地の利子は赤字以下なので、60万円分が差し引けず、給与と差し引けるのは90万円です。
赤字が40万円で、土地の利子が60万円なら、土地の利子の方が大きいため、40万円の全額が差し引けません。
ポイント
- 不動産所得の赤字は、給与などの黒字と差し引ける
- 土地を買うための借入金の利子に当たる赤字は差し引けない
- 利子が赤字より大きければ、赤字の全額が差し引けない
- 利子そのものは、経費に入れることができる
土地と建物をまとめて買ったときの特例
借入金の区分が難しい場合
アパートを土地ごと1本のローンで買うと、どこまでが土地の分か分けにくくなります。施行令第26条の6第2項では、一定の場合に、借入金はまず建物の代金に充て、残りを土地の代金に充てたものとして計算できるとしています。
使える条件
この特例は、土地と建物を1つの契約で同じ相手から買い、借入金を資産ごとに分けるのが難しい場合に限られます。建物の代金を借入金で賄えた部分が大きいほど、土地の利子とされる部分は小さくなります。
場面の例:中古アパートを土地ごと買った
Kさんは、中古アパートを土地ごと1つの契約で買い、代金の大半をローンで払いました。売買契約書で土地と建物の代金が分かれていたため、借入金をまず建物の代金に充てたとして計算できるかを、税理士に確かめることにしました。
場面で考える不動産所得の赤字
例1:会社員が新築アパートを土地ごと買った
Aさんは会社員で、土地付きの新築アパートをローンで買いました。1年目は、借入金の利子や減価償却費がかさみ、不動産所得が赤字になりました。
Aさんは、経費に入れた利子のうち、土地の代金に充てた借入金の分を分けて計算しました。赤字のうち、その利子に当たる額は給与と差し引けないため、残りの額だけを損益通算して確定申告をしました。
例2:自己資金で土地を持ち、建物だけ借りて建てた
Bさんは、親から相続した土地に、借入金でアパートを建てました。借入金は建物の代金だけに使ったため、土地を取得するための借入金の利子はありません。
この場合、利子による損益通算の制限は原則としてかからず、赤字は給与と差し引けます。ただし、建物の代金かどうかを示せるよう、契約書や借入の書類を残しておきます。
例3:古い物件の大きな修繕で赤字になった
Cさんは、築年数のたった貸家の屋根と外壁を直し、その年の不動産所得が赤字になりました。直した費用が修繕費として一度に経費になるか、資本的支出として何年かに分けて経費にするかで、赤字の額は変わります。
Cさんは、赤字の額だけを見るのではなく、修繕の中身が経費のどちらに当たるかを、先に税理士に確かめることにしました。
判断の分かれ道
- 土地も建物も借入金で買った:土地の利子の分を分けて計算する
- 土地は自己資金や相続で持っている:利子の制限は原則としてかからない
- 土地と建物を1つの契約でまとめて買った:建物から先に充てる特例を検討する
- 赤字が数年続きそう:青色申告の繰越しを使えるようにしておく
引ききれない赤字の繰越し
青色申告なら3年間繰り越せる
所得税法第70条では、青色申告の年に出た純損失を、翌年以後3年間の所得から差し引けると定めています。この繰越しは、赤字の年に確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出している場合に限られます。
前年も青色申告をしていれば、繰越しの代わりに前年の所得から差し引いて、前年の税金の還付を受ける方法もあります(No.2070)。
白色申告の場合
白色申告では、純損失の繰越しは変動所得や災害の損失による部分などに限られます。赤字が続きそうなら、青色申告にしておく意味があります。青色申告の始め方は「不動産所得の青色申告」で説明しています。
損益通算して申告するまでの流れ
手順
- 物件ごとに、その年の家賃などの収入と経費をまとめる
- 経費に入れた借入金の利子を、土地の分と建物の分に分ける
- 不動産所得の赤字のうち、土地の利子に当たる額を計算する
- 残りの赤字を、給与所得などほかの所得の黒字から差し引く
- 確定申告書を出し、差し引いても残った赤字があれば繰越しの記載をする
会社員のオーナーの場合
給与から所得税が引かれている会社員でも、損益通算は年末調整では行えません。確定申告をして、はじめて給与と差し引けます。
残しておく書類
- ローンの契約書と、毎年の返済の明細
- 売買契約書や請負契約書など、土地と建物の代金が分かる書類
- 物件ごとの収入と経費の帳簿
土地の利子の分を説明できるよう、借入金の使い道が分かる書類は捨てずに取っておきます。
赤字の年に確かめること
申告の前のチェックリスト
- 経費に入れた利子のうち、土地を買うための借入金の分はいくらか
- 土地と建物を1つの契約で買い、借入金を分けにくい状況か
- 別荘などの貸付けが含まれていないか
- 赤字の大きな理由が減価償却費か、修繕費か
- 青色申告の承認を受けているか
減価償却の考え方は「賃貸の減価償却」が参考になります。
よくある失敗
- 土地の利子の分まで給与と差し引いて申告してしまう
- 会社員だからと確定申告をせず、還付を受けそびれる
- 赤字の年に申告せず、翌年以後に繰り越せなくなる
- 赤字を出すこと自体を目的に、収支の合わない買い方をする
赤字で税金が戻っても、手元のお金が減っていることに変わりはありません。損益通算は、収支の計画を立てたうえで使う仕組みです。
よくある質問
- 不動産所得の赤字は給与と相殺できますか?
- できます。確定申告で損益通算すると、給与から引かれた所得税の一部が戻る場合があります。ただし土地の利子に当たる赤字は差し引けません。
- 建物の借入金の利子も損益通算できませんか?
- 制限の対象は、土地や借地権などを取得するための借入金の利子です。建物の分の利子は制限の対象ではありません。
- 事業的規模でないと損益通算できませんか?
- 損益通算は、事業的規模かどうかにかかわらず使えます。規模で変わるのは、青色申告特別控除の額などです。
- 引ききれない赤字はどうなりますか?
- 青色申告なら、翌年以後3年間繰り越せます。連続して確定申告書を出すことが条件です。
- 赤字の物件と黒字の物件を持っている場合は?
- 不動産所得は、持っている物件の収入と経費をまとめて計算します。物件ごとの赤字と黒字を合わせても赤字が残る場合に、その赤字を給与などと差し引きます。
- 土地の利子はどう分ければよいですか?
- 借入金を土地と建物のどちらの代金に充てたかで分けます。1つの契約でまとめて買い、分けにくい場合は、建物の代金から先に充てたとして計算できる特例があります。
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まとめ
- 不動産所得の赤字は、給与などの黒字と損益通算できる
- 土地を買うための借入金の利子に当たる赤字は差し引けない
- 土地の利子が赤字より大きければ、赤字の全額が差し引けない
- 土地と建物をまとめて買った場合は、借入金を建物から充てる特例がある
- 青色申告なら、引ききれない赤字を翌年以後3年間繰り越せる




