相続人に認知症の人がいる不動産はどうする?成年後見と遺産分割の進め方

相続人のなかに認知症で判断が難しい人がいると、不動産の分け方を話し合う遺産分割が進められないことがあります。成年後見制度の使い方、家庭裁判所への申立ての費用と書類、売る場合の注意点を整理します。
結論
- 遺産分割は相続人全員で行うため、認知症で判断ができない相続人がいると、そのままでは話し合いがまとまりません。
- この場合は、家庭裁判所に成年後見の申立てをし、選ばれた成年後見人が本人に代わって遺産分割に加わります。
- 申立ての費用は、申立手数料の収入印紙800円分と、登記手数料の収入印紙2,600円分に、郵便切手代などが加わります。
- 後見は、遺産分割が終わっても、本人が判断する力を取り戻すか亡くなるまで続きます。
「父が亡くなり、実家を売りたい。でも母は認知症で、書類の意味が分からない」。「兄弟だけで話し合って、母の分も決めてしまってよいのだろうか」。親の相続で、こうした相談は珍しくありません。
相続人に認知症の人がいると、遺産分割の話し合いや、不動産の名義変更・売却が止まってしまうことがあります。家族が代わりに署名すればよい、というものでもありません。
この記事では、相続人に認知症の人がいるときの不動産の扱いを、成年後見制度と遺産分割の関係を中心に整理します。申立ての手順や費用、後見人が付いたあとの注意点もまとめます。
相続人が認知症だと何が困るのか
遺産分割は全員で行う
遺産分割とは、亡くなった人の財産をだれがどう引き継ぐかを、相続人で決めることです。民法の第907条では、共同相続人はその協議で遺産を分けられるとされており、協議は相続人全員で行います。1人でも欠けた話し合いは、成り立ちません。
判断ができない人の署名は無効になる
民法の第3条の2では、意思表示をした時に意思能力がなかったときは、その法律行為は無効とされています。認知症で内容が分からない人に署名だけしてもらっても、あとで無効になるおそれがあります。家族が本人の名前で署名するのも、認められません。
止まってしまう手続き
- 遺産分割協議書を作れず、不動産の名義を分け方どおりに変えられない
- 実家を売りたくても、売る人を決められない
- 預貯金の分け方も決まらない
- 相続人が多いと、話し合いが長引く
成年後見制度とは
制度の意味
成年後見制度とは、認知症などで判断する力が十分でない人のために、家庭裁判所が支える人を選ぶ制度です。民法の第7条では、判断する力を欠くのが通常の状態にある人について、家庭裁判所が後見開始の審判をできるとされています。
3つの種類
| 種類 | 本人の状態 | 根拠 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断する力を欠くのが通常の状態 | 民法第7条 |
| 保佐 | 判断する力が著しく不十分 | 民法第11条 |
| 補助 | 判断する力が不十分 | 民法第15条 |
どれに当たるかは、医師の診断書や鑑定をもとに家庭裁判所が判断します。保佐の場合も、遺産分割には保佐人の同意が要ります(民法第13条)。
後見人ができること
裁判所によると、成年後見人は、本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行えます。遺産分割の話し合いにも、本人に代わって加わります。後見人は本人の財産を守る立場なので、本人の取り分を考えた分け方が求められます。
ポイント
- 遺産分割は相続人全員で行い、1人でも欠けると成り立たない
- 判断できない人の署名は、あとで無効になるおそれがある
- 家庭裁判所が選んだ成年後見人が、本人に代わって加わる
- 後見人は、本人の財産を守る立場で話し合う
家庭裁判所への申立ての流れ
手順
- 本人の住所地を受け持つ家庭裁判所の案内を確かめる
- 医師に診断書を書いてもらい、必要な書類を集める
- 申立書を作り、家庭裁判所に申し立てる
- 家庭裁判所の調査や面談を受ける(鑑定が行われることもある)
- 審判で後見が始まり、成年後見人が選ばれる
- 成年後見人が加わって、遺産分割の話し合いをする
申し立てられる人
民法第7条では、本人、配偶者、四親等内の親族などが申し立てられるとされています。子や兄弟姉妹、甥や姪なども申し立てられます。
費用
| 費用 | 金額 |
|---|---|
| 申立手数料 | 収入印紙800円分 |
| 登記手数料 | 収入印紙2,600円分 |
| 連絡用の郵便切手 | 家庭裁判所ごとに違う |
| 鑑定費用 | 鑑定が必要なときにかかる |
裁判所によると、本人の精神の状況を鑑定する場合は、申立人が鑑定費用を負担することがあります。
主な書類
- 申立書
- 本人の戸籍謄本(全部事項証明書)と住民票または戸籍附票
- 成年後見人の候補者の住民票または戸籍附票
- 本人の診断書と、本人情報シートの写し
- 本人が成年被後見人などとして登記されていないことの証明書
- 不動産や預貯金、借金など、財産が分かる資料と、収入・支出が分かる資料
裁判所は、戸籍謄本や診断書などは発行から3か月以内のものを求めています。マイナンバーが書かれた書類は出さないよう注意します。
後見人が付いたあとの注意点
家族が後見人になるとは限らない
裁判所のよくある質問では、後見人には親族が選ばれることも、弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職や法人が選ばれることもあるとしています。希望どおりの人が選ばれないことを理由に、申立てを取り下げることは原則として認められません。取り下げにも家庭裁判所の許可が要ります。
遺産分割が終わっても続く
後見は、本人が判断する力を取り戻すか、亡くなるまで続きます。裁判所は、遺産分割など申立てのきっかけになった目的を果たしても終わらないとしています。専門職が後見人になれば、家庭裁判所が決めた報酬を本人の財産から払うことになります。
親族と専門職の違い
| 比べる点 | 親族が後見人 | 専門職が後見人 |
|---|---|---|
| 選び方 | 家庭裁判所が選ぶ | 家庭裁判所が選ぶ |
| 遺産分割との関係 | 自分も相続人なら特別代理人などが要る | 相続人でなければ、そのまま本人を代理する |
| 報酬 | 申し立てれば、家庭裁判所が決めた額を受け取れる | 家庭裁判所が決めた額を本人の財産から受け取る |
| 続く期間 | 本人が回復するか亡くなるまで | 本人が回復するか亡くなるまで |
裁判所は、後見人の報酬は、後見人が家庭裁判所に申し立て、事務の内容や本人の財産の状況などから裁判官が決めるとしています。
家族が後見人のときの利益相反
後見人になった子が、自分も相続人として遺産分割に加わる場合、本人と利害がぶつかります。民法第860条により、この場合は家庭裁判所が選ぶ特別代理人が本人を代理します。後見監督人が付いていれば、監督人が代理します。
本人の住まいを売るとき
民法の第859条の3では、成年後見人が本人の住む建物や敷地を売る・貸すなどするには、家庭裁判所の許可が要るとされています。裁判所は、許可を得ない処分は無効になるとしています。相続で本人が引き継いだ自宅を売る場合も、この点に気をつけます。
申立てから後見が始まるまでには、調査や鑑定で時間がかかることがあります。相続放棄を考える場合の期限(民法第915条で、相続を知った時から3か月以内)とも重なるため、早めに家庭裁判所や専門家に相談しましょう。
判断の分かれ道と場面の例
判断の分かれ道
- 不動産を急いで売る必要はない:後見の負担と、話し合いを急ぐ理由を比べる
- 実家を売って分けたい:後見人を付けて遺産分割し、売る手続きに進む
- 遺言書がある:遺言の内容で手続きが進められないかを先に確かめる
- 本人がまだ判断できる:任意後見や家族信託などの備えを考える
場面の例
Cさんは父を亡くし、相続人は母と兄弟2人でした。母は認知症で施設に入っており、実家は空き家になっていました。兄弟で話し合い、母の住所地の家庭裁判所に後見を申し立てました。弁護士が後見人に選ばれ、母の取り分を確保する形で遺産分割をまとめ、実家を売る準備に入りました。
よくある失敗
- 認知症の相続人を外して、遺産分割協議書を作ってしまう
- 家族が本人の代わりに署名や押印をしてしまう
- 遺産分割が終われば後見も終わると思い込む
- 本人が住む家を、家庭裁判所の許可なく売ろうとする
申立ての前に家族で決めておくこと
- だれが申立人になるか
- 後見人の候補者を立てるか(選ぶのは家庭裁判所)
- 申立ての費用をだれが立て替えるか
- 遺産分割で、本人の取り分をどう確保するか
- 実家を売るか、残すか
家族の間で意見が分かれたまま申し立てると、手続きのあとも話し合いが進みにくくなります。後見人が付くと、本人の取り分を減らす分け方には応じにくくなることも、先に家族で共有しておきましょう。
後見人が付いたあとの不動産の手順
- 後見人が、本人の財産と相続財産の一覧を確かめる
- 相続人と後見人(必要なら特別代理人)で、遺産分割の話し合いをする
- 遺産分割協議書を作り、相続登記を申請する
- 本人が引き継いだ家を売るなら、本人の住まいに当たるかを確かめる
- 住まいに当たるなら、家庭裁判所の許可を得てから売買の契約をする
売る相手や値段を決める前に、許可が要るかを後見人と確かめておくと、手続きのやり直しを防げます。
遺言書があるかを先に確かめる
亡くなった人が遺言書を残していれば、その内容で不動産の名義を変えられることがあります。遺産分割をしなくて済む場合もあるため、後見を申し立てる前に、遺言書の有無を確かめます。法務局に預けた遺言書や、公証役場で作った遺言がないかも調べましょう。
元気なうちにできる備え
任意後見契約に関する法律では、任意後見契約は公正証書で結ぶとされています(第3条)。家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから効力が生じます。親が元気なうちに、遺言や家族信託と合わせて考えておくと、相続の手続きが止まりにくくなります。
むずかしい言葉の言い換え
- 遺産分割:相続人で財産の分け方を決めること
- 成年後見人:家庭裁判所が選ぶ、本人の財産を守り代わりに手続きする人
- 特別代理人:後見人と本人の利害がぶつかるときに、本人を代理する人
- 鑑定:医師が本人の判断する力を医学的に調べること
よくある質問
- 相続人が認知症だと遺産分割はできませんか?
- 判断できない状態なら、本人だけでは加われません。成年後見人を選んでもらい、後見人が本人に代わって加わります。
- 成年後見の申立ての費用はいくらですか?
- 申立手数料の収入印紙800円分と登記手数料の収入印紙2,600円分に、郵便切手代がかかります。鑑定費用がかかることもあります。
- 家族が成年後見人になれますか?
- なれる場合もありますが、選ぶのは家庭裁判所です。専門職や法人が選ばれることもあります。
- 遺産分割が終われば成年後見はやめられますか?
- やめられません。本人が判断する力を取り戻すか、亡くなるまで続きます。
- 認知症の親が相続した家を売れますか?
- 成年後見人が売ることができます。本人の住まいに当たる場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
- 保佐や補助の場合も、遺産分割に影響はありますか?
- あります。保佐では、遺産分割に保佐人の同意が必要です(民法第13条)。補助では、家庭裁判所が決めた範囲で同意などが要ります。
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まとめ
- 遺産分割は相続人全員で行い、認知症の人を外すことはできません
- 判断できない相続人には、家庭裁判所が成年後見人を選びます
- 申立ての費用は、収入印紙800円分と2,600円分に郵便切手代などです
- 後見は遺産分割のあとも、本人が回復するか亡くなるまで続きます
- 家族が後見人で自分も相続人なら、特別代理人が必要になります
- 本人の住まいを売るには、家庭裁判所の許可が要ります




