退去立ち会いの進め方|オーナーが確かめることとチェックリスト・注意点

退去の立ち会いは、原状回復と敷金の精算を決める大切な場です。国土交通省のガイドラインにそって、立ち会いの前の準備、当日の進め方、部屋ごとのチェックリスト、サインの意味と注意点をオーナーの立場から整理します。
結論
- 退去の立ち会いは、オーナー(または管理会社)と入居者が一緒に部屋を見て、傷みの場所と程度、原状回復の要否を確かめる場です。
- 国土交通省のガイドラインは、入居時と退去時の両方で立ち会い、チェックリストと写真で部屋の状態を記録しておくことが、トラブルを防ぐのに大変有効だとしています。
- 立ち会いで確かめるのは「傷があるかどうか」です。だれがいくら負担するかは、ガイドラインと特約にそって、そのあとの精算で決めます。
- 入居者が損傷の確認にサインしても、入居者に責任のない傷みまで負担する理由にはならないと、ガイドラインのQ&Aは説明しています。
「退去の立ち会いで、どこを見ればよいのか分からない」。「その場で修理代を伝えたら、入居者ともめてしまった」。退去の立ち会いは、年に何度もあるものではないため、慣れないオーナーも多い手続きです。
立ち会いでの確認があいまいだと、あとで「その傷は入居前からあった」「その費用は払えない」と話がこじれます。逆に、手順と記録をそろえておけば、精算は落ち着いて進みます。
この記事では、退去の立ち会いの意味と、準備、当日の進め方、チェックリスト、言ってはいけないことを順に整理します。
退去の立ち会いとは
退去立ち会いの意味
退去の立ち会いとは、入居者が部屋を明け渡すときに、オーナーや管理会社と入居者が一緒に部屋を見て回り、傷みや汚れの場所と程度を確かめ、記録に残すことです。原状回復の工事の範囲と、敷金の精算のもとになります。
なぜ立ち会いが大切なのか
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、原状回復をめぐるトラブルの大きな原因として、入居時と退去時の部屋の確認が不十分であることを挙げています。住んでいる期間が長いほど、当事者の記憶はあいまいになるからです。
そこでガイドラインは、入居時と退去時にチェックリストを作り、部位ごとの傷みの状態について、当事者が立ち会って十分に確かめることが必要だとしています。こうした記録は、後日訴訟などになった場合にも証拠になりうると説明しています。
立ち会いは「入口」から始まっている
ガイドラインは、原状回復の問題を退去時、つまり「出口」の問題ととらえるのではなく、入居時、つまり「入口」の問題としてとらえることをすすめています。退去の立ち会いがうまくいくかどうかは、入居時の記録でほぼ決まります。
| 時期 | すること | 残すもの |
|---|---|---|
| 入居時 | 入居者と一緒に部屋を見て、傷みの有無と設備の交換時期を記録する | チェックリスト、写真、平面図への書き込み |
| 入居中 | 修理や交換をしたら、日付と内容を記録する | 修理の記録 |
| 退去時 | 入居時の記録と見比べながら、傷みの場所と程度を確かめる | チェックリスト、写真 |
| 退去後 | 負担の考え方にそって費用を出し、明細で説明する | 精算の明細書 |
立ち会いの前に準備すること
書類とものをそろえる
- 賃貸借契約書と、原状回復に関する特約の内容を確かめる
- 入居時のチェックリストと写真を用意する
- 入居中に行った修理や設備の交換の記録を集める
- 退去時のチェックリストの用紙、カメラ、メジャー、筆記用具を用意する
- 入居者と日時を決め、鍵の返却と立ち会いを同じ日にする
入居者に伝えておくこと
立ち会いの日時のほか、荷物をすべて運び出した状態で立ち会うこと、鍵をすべて返してもらうことを、前もって伝えておきます。荷物が残っていると、床や壁の傷を確かめられません。
あわせて、敷金の精算の明細をいつごろ送るかの見通しも伝えておくと、退去後の問い合わせが減ります。
管理会社に任せている場合
管理会社に立ち会いを任せているときも、特約の内容と、オーナーとして気になる場所は事前に伝えておきましょう。立ち会いの記録と写真は、あとで共有してもらうよう頼んでおくと安心です。
退去立ち会い当日の進め方
当日の流れ
- 入居者にあいさつし、確かめる順番と、かかる時間の目安を伝える
- 入居時のチェックリストを見せながら、部屋ごと・部位ごとに見て回る
- 傷みや汚れを見つけたら、その場で入居者と一緒に確かめ、写真を撮る
- 見つけた場所と状態を、退去時のチェックリストに書き込む
- 設備が動くかどうか(給湯器、換気扇、エアコンなど)を確かめる
- 鍵の本数を確かめて受け取る
- 確かめた内容に入居者の確認をもらい、写しを渡す
- 精算の明細を送る時期と、連絡先を伝える
写真の撮り方
ガイドラインは、傷みの場所や程度を分かりやすくし、当事者の認識の差を減らすために、平面図への書き込みや写真を活用することも重要だとしています。部屋全体と、傷のアップの両方を撮り、メジャーを当てて大きさが分かるようにしておきます。
場面の例
Dさんの部屋で、4年住んだ入居者の退去の立ち会いをしました。管理会社は入居時の写真を見せながら、部屋を順に見て回りました。
洋室の床に、入居時の写真にはない深い傷が二か所ありました。入居者も引っ越しのときにつけたと認めたため、写真を撮ってチェックリストに書きました。台所の壁の黒ずみは、冷蔵庫の裏の電気焼けで、ふつうに使って生じたものとして記録だけにしました。費用はその場では伝えず、後日の明細で説明しました。
ポイント
- 退去の立ち会いは、入居時の記録と見比べながら進めます
- 傷みを見つけたら、入居者と一緒に確かめ、写真とチェックリストに残します
- 立ち会いで決めるのは「傷みの有無」まで。費用はあとの精算で示します
- 確かめた内容の写しを入居者に渡します
退去立ち会いのチェックリスト
部屋ごとに見るところ
ガイドラインの「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)」を参考に、部屋と部位ごとに確かめます。
- 玄関:ドア、鍵、床、下駄箱、照明
- 居間・洋室:床(フローリング、カーペット)、壁・天井(クロス)、窓ガラス、網戸、収納の扉、照明
- 和室:畳、襖、障子、柱、押し入れ
- 台所:流し台、コンロ、換気扇、壁の油汚れ、給排水
- 浴室・洗面所・トイレ:浴槽、鏡、水まわりのカビ、便器、換気扇、排水
- 設備:エアコン、給湯器、インターホン
- その他:バルコニー、残された荷物、鍵の本数
設備と鍵の確かめ方
- 給湯器:お湯が出るか、異音がないか
- 換気扇・エアコン:動くか、ひどい汚れやにおいがないか
- 水まわり:水漏れ、排水のつまり、パッキンの傷み
- 鍵:入居時に渡した本数と同じか、合鍵を作っていないか
設備の故障は、ふつうに使っていて壊れたものか、使い方の誤りで壊れたものかで負担が分かれます。その場で原因を決めつけず、状態を記録しておきます。
負担の考え方を知っておく
ガイドラインでは、入居者の不注意などで生じた傷みは入居者の負担、ふつうに住んで生じた傷みと古くなった分はオーナーの負担としています。費用の範囲には、次のような目安が示されています。
| 部位 | 入居者が負担する単位の考え方 | 経過年数 |
|---|---|---|
| 壁(クロス) | ㎡単位が望ましいが、傷つけた箇所を含む一面分まではやむをえない | 6年で残りの価値1円となるよう考える |
| 畳 | 原則1枚単位 | 畳表は考えない |
| フローリング | 原則㎡単位 | 部分補修は考えない |
| 鍵 | 紛失した場合は交換費用相当分 | 考えない |
タバコのヤニや臭いで居室全体のクロスが変色した場合に限り、居室全体のクリーニングや張り替えの費用を入居者の負担とするのが妥当とされています。
よくある失敗
- 入居時の写真がなく、傷が入居前からあったのか説明できない
- 荷物が残ったまま立ち会いをして、床や壁の傷を見落とした
- 鍵の本数を確かめずに受け取り、あとで足りないと分かった
- 立ち会いの記録を入居者に渡さず、言った言わないの話になった
- 管理会社に任せきりで、特約の内容が立ち会いに伝わっていなかった
立ち会いで言ってはいけないこと・注意点
その場で金額を決めつけない
立ち会いの場で「この傷は○万円です」と伝えると、入居者は根拠が分からないまま身構えてしまいます。経過年数や施工の単位を考えると、金額は見積もりのあとでないと出せません。その場では、傷みの有無の確認にとどめます。
サインの意味をはっきりさせる
国土交通省のガイドラインのQ&Aでは、立ち会いで確認のサインをした場合でも、単に損傷があることの確認であれば、費用の負担を了承したものではないと考えられるとしています。
さらに、特約がない場合、入居者に責任のない傷みについては、サインしていても負担する理由はないと説明しています。サインは「傷みがあることを一緒に確かめた」という記録だと考えましょう。
入居者の不安を言葉にして受け止める
入居者は「高い修理代を請求されるのでは」と不安な気持ちで立ち会いに来ます。最初に、確かめる順番と、費用は後日の明細で説明することを伝えるだけで、話し合いはずっと落ち着きます。
入居者が自分で直すと言ったら
ガイドラインのQ&Aでは、オーナーが原状回復の工事を行い、敷金で精算する方法が一般的だとしています。入居者が自分で直したいと申し出たときは、仕上がりや工事の範囲で、あとでもめないよう慎重に話し合います。
入居者に責任のない傷みまで、立ち会いの場で負担を約束させるのは避けましょう。後日、取り消しを求められ、かえって精算が長引くおそれがあります。
よくある質問
- 退去の立ち会いは必ずしなければいけませんか?
- 国土交通省のガイドラインは、入居時と退去時の立ち会いと記録がトラブルを防ぐのに大変有効だとしています。行う時期や方法は、契約書の定めも確かめましょう。
- 退去の立ち会いにはどれくらい時間がかかりますか?
- 部屋の広さや傷みの数で違います。入居者には、確かめる順番と時間の目安を前もって伝えておきましょう。
- 立ち会いで入居者がサインすれば、費用はすべて請求できますか?
- できません。ガイドラインのQ&Aは、入居者に責任のない傷みは、サインしていても負担する理由はないとしています。
- 入居者が立ち会いに来られないときはどうしますか?
- 日時を改めるか、代理の人に来てもらうよう頼みます。立ち会えなかったときは、写真を多めに撮り、確かめた内容を入居者に送って確認してもらいます。
- 入居時の記録がない場合はどうなりますか?
- 傷がいつできたのかを説明しにくくなり、入居者の負担として示すのが難しくなります。次の入居者からは、入居時の立ち会いと記録を必ず行いましょう。
退去の立ち会いと管理の相談先
立ち会いや精算を任せられる管理の会社は、会社一覧から地域の会社を比べてみてください。費用の負担の考え方は原状回復のガイドライン、管理を任せるかどうかは賃貸管理の自主管理と委託の違い、管理会社に不満があるときは管理会社の変更で紹介しています。ペットを受け入れている部屋はペット可賃貸のメリット・デメリット、次の入居者の募集は空室対策も参考になります。複数の会社にまとめて聞きたい方は、一括相談をご利用いただけます。
まとめ
- 退去の立ち会いは、傷みの場所と程度を入居者と一緒に確かめ、記録する場です
- うまくいくかどうかは、入居時の立ち会いと記録でほぼ決まります
- 当日は、入居時の記録と見比べ、写真とチェックリストに残します
- 費用はその場で決めつけず、経過年数や施工の単位を考えて、あとの明細で示します
- サインは傷みの確認であり、入居者に責任のない傷みまで負担させる根拠にはなりません




