DIY賃貸とは?オーナーが決めておく原状回復・費用・所有権と国交省の書式例

古い部屋を直す費用がかけられず、貸すのをためらっていませんか。国土交通省が示すDIY型賃貸借の考え方をもとに、向く物件、進め方、契約で決めておくことを整理します。
結論
- DIY賃貸とは、借りる人の希望に合わせて部屋を改修できる賃貸のことです。国土交通省は「DIY型賃貸借」と呼び、契約書式例とガイドブックを公表しています。
- オーナーにとっては、今の状態のまま貸せて、直す費用や手間を抑えられるのが主なよい点です。
- そのかわり、工事の内容、費用の精算、所有権、退去のときに残すか戻すかを、契約の前に書面で決めておくことが欠かせません。
実家や古い戸建てを貸したいけれど、水回りや内装を直すお金がかけられない。このままでは借り手がつかないのでは、と悩むオーナーは少なくありません。
一方で、自分好みに手を入れられる部屋を探している人もいます。その二つを結びつける方法がDIY賃貸です。ただし、他人が自分の物件に手を加えることになるので、取り決めがあいまいだと退去のときにもめる原因になります。
この記事では、国土交通省のDIY型賃貸借の資料をもとに、仕組み、向く物件、進め方、契約で決めておくことを順に説明します。
DIY賃貸とは
意味を一言で
DIY賃貸とは、借主(入居者)の意向を反映して住宅の改修ができる賃貸借契約や、その物件のことです。国土交通省は、工事費用をだれが負担するかにかかわらず、このような賃貸を「DIY型賃貸借」と定めています。
ここでいうDIYは、借主が自分の手で行う工事だけでなく、借主が専門業者に頼む工事も含みます。
言葉の言い換え
DIY賃貸の話には、ふだん聞きなれない言葉が出てきます。先に言い換えておきます。
- 原状回復:借りた部屋を、借りたときの状態に戻すこと
- 有益費:物の価値を高めるために借主が払った費用
- 造作:畳や建具など、貸主の同意を得て建物に付け加えた物
- 残置:退去のときに、工事した部分を外さずに残すこと
国土交通省が示している資料
国土交通省は、平成28年4月に「DIY型賃貸借に関する契約書式例」とガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」を作成しました。平成30年3月には契約書式例を改定し、「家主向けDIY型賃貸借実務の手引き」も作成しています。
| 資料 | 主な中身 |
|---|---|
| 契約書式例 | 事前に合意すべき内容を、賃貸借契約書の特約として作ったもの |
| ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」 | 仕組み、できること、手順、取り決めのポイント |
| 家主向け実務の手引き | 契約書の作り方、大きな工事やサブリースの留意点、Q&A |
普通の賃貸との違い
| 比べる点 | 普通の賃貸 | DIY賃貸(借主が費用を負担する場合) |
|---|---|---|
| 貸す前の改修 | 貸主が貸せる状態に直す | 今の状態のまま貸せる |
| 入居中の改修 | 原則として貸主の承諾なくできない | 合意した範囲で借主が行う |
| 工事部分の管理・修繕 | 貸主 | 工事をした借主とする例が示されている |
| 退去のとき | 借主の付けた傷などは原状回復 | 工事部分は原状回復をなしとすることもできる |
ガイドブックでは、借主が工事費用を負担する分、家賃を相場より安めにする例が示されています。
オーナーにとってのよい点と気をつける点
よい点
国土交通省のガイドブックでは、貸主のよい点として次のことが挙げられています。
- 今の状態のまま貸せて、修繕の費用や手間がかからない
- 借主が自分で手を入れるので愛着が生まれ、長く住んでもらえることが見込まれる
- 明け渡しのときに、設備や内装がよくなっている可能性もある
借主にとっても、自分好みの改修ができ、持ち家のような感覚で住めるという利点があります。
気をつける点
よい点の裏返しとして、工事の出来が思ったものと違う、退去のときに使えない状態で残される、といった心配もあります。
- 工事の仕上がりが悪く、次の入居者に貸しにくくなる
- 工事で建物本体や近所に損害が出る
- 費用を返してほしいと、退去のときに求められる
- 工事部分と、もとの部分の修繕の分担があいまいになる
こうした心配は、契約の前に取り決めを書面にしておくことで減らせます。次の章からその中身を見ていきます。
DIY賃貸が向く物件・向かない物件
向きやすい物件
- 築年数がたち、全面的に直すと費用がかさむ戸建てや部屋
- 相続した実家など、しばらくは大きな費用をかけたくない物件
- 古民家など、手を入れて住むこと自体に魅力がある物件
- 長く住んでくれる人に貸したい物件
相続した家を売るか貸すかで迷っている場合は「実家は売るか貸すか」、古民家なら「古民家の活用」もあわせて読んでみてください。
慎重に考えたい物件
- 建物の構造や雨漏りなど、まず貸主が直すべき不具合がある物件
- マンションの部屋で、管理規約で工事の範囲が決まっている物件
- 近い将来に売る予定があり、手が加わると困る物件
民法では、貸主は貸した物の使用に必要な修繕をする義務を負います。DIY賃貸でも、工事部分以外の修繕は普通の賃貸と同じく貸主が行うことが前提です。雨漏りなど建物の基本の不具合は、貸す前に確かめておきます。
契約で決めておく5つのこと
国土交通省のガイドブックでは、借主が改修を行う場合に、次のことをあらかじめ決めておくことがトラブルを避けるうえで必要だとしています。
所有権
工事部分の所有権が、借主と貸主のどちらにあるのかを合意で決めます。ただし、壁にペンキを塗った場合のように、住宅と一体になって分けられない部分は、所有権は貸主が持つことになります。
費用の精算
費用を退去のときに精算するかどうかを、先に決めておくことが大切です。 民法では、借主が有益費(物の価値を高める費用)を払った場合、貸主が賃貸借の終わりに償還する定めがあります。借地借家法には、貸主の同意を得て付けた畳や建具などの造作を、時価で買い取るよう求められる定めもあります。
ガイドブックでは、原状回復を免除したり家賃を安くしたりする代わりに、費用を請求する権利を放棄する例も見られるとしています。精算する場合は、残っている価値の算定方法も合意しておくことが望ましいとされています。
退去のときに残すか、外すか
工事部分を退去のときに残すのか、外すのかを決めます。残す場合は原状回復の義務はなくなりますが、ふつうに使って傷んだ分や年数による劣化以外の理由で機能が失われているときに、補修を求めるかも決めておきます。
| 退去のときの扱い | 原状回復 | 工事部分の補修 |
|---|---|---|
| 残す | なし | あり・なしを決めておく |
| 外す | あり・なしを決めておく | ― |
工事中の責任
工事で建物本体や第三者に損害を与えたときの責任をはっきりさせます。国土交通省の契約書式例では、工事をした借主、または工事を頼んだ借主が責任を負う形になっています。工事の前後の立ち会いや、図面の確認も定めています。
入居中の管理・修繕
入居している間、工事部分の管理と修繕をだれが行うかを決めます。契約書式例では、工事をした借主が工事部分の管理・修繕を行う形です。
ポイント
- 所有権、費用の精算、退去のときの扱い、工事中の責任、管理・修繕の5つを決める
- 住宅と一体になって分けられない部分は貸主の所有になる
- 費用の精算をしない場合も、その合意をはっきり書面に残す
- 退去のときに残す場合は、補修を求めるかまで決めておく
DIY賃貸の進め方
書類の組み立て
国土交通省の契約書式例は、ふつうの賃貸借契約書に、DIYの取り決めを足す形です。主な書類は次のとおりです。
- 賃貸借契約書:物件の概要、契約期間、家賃など一般的な事項
- 申請書兼承諾書:借主が工事の承諾を求め、貸主が承諾する書面
- 別表:工事の内容、方法、所有権、退去のときに残すか外すか、補修の要否など
- 合意書:工事の内容と退去のときの扱いを双方で確かめて取り交わす書面
貸主が進める手順
ガイドブックでは、小さな工事を例に、貸主の手順が次のように示されています。
- 図面や修繕の記録など、必要な情報をそろえ、DIY可能として入居者を募集する
- 工事の内容や原状回復などの取り決めについて、借主と話し合う
- 賃貸借契約書を取り交わし、借主の申請書に承諾書を出し、合意書を取り交わす
- 工事の前に立ち会い、工事の予定箇所を写真に撮るなどして残す
- 工事が申請書どおりかを確かめる
- 入居中は、工事部分以外の管理・修繕を普通の賃貸と同じく行う
- 退去のときに立ち会い、決めておいたとおりに精算する
入居中に借主が新しく工事を希望したときは、もう一度話し合いと申請・承諾からやり直します。
場面の例
たとえば、相続した築年数の古い戸建てを、和室の壁や棚を自分で直したい人に貸す場面を考えます。壁の塗り替えと棚の設置を認め、退去のときは残してよい、費用の精算はしない、と決めておけば、退去のときの話し合いが短くすみます。
一方、キッチンの入れ替えのような大きな工事を認める場合は、施工業者への依頼や、ガスや水回りの安全の確かめ方まで決めておく必要があります。
よくある失敗とチェックリスト
よくある失敗
- 口頭で「好きに直していい」と伝え、範囲が分からなくなる
- 工事前の写真がなく、どこが変わったのかを確かめられない
- 費用の精算をどうするか決めておらず、退去のときに請求される
- 工事部分の水漏れなどを、だれが直すのか決めていなかった
- 管理規約で禁止されている工事を認めてしまう
貸す前のチェックリスト
- 雨漏りや構造など、貸主が直すべき不具合を確かめた
- 認める工事の範囲と、認めない工事を決めた
- 所有権、精算、退去のときの扱い、工事中の責任、管理・修繕を書面にした
- 工事前の状態を写真で残す段取りがある
- マンションなら管理規約を確かめた
退去のときの原状回復の考え方は、DIYの部分とそれ以外で分けて考えます。DIY以外の部分は「原状回復のガイドライン」を確かめてください。
よくある質問
- DIY賃貸にすると、家賃は下げないといけませんか?
- 決まりはありません。国土交通省のガイドブックでは、借主が工事費用を負担する分、相場より安めにする例が示されています。
- 退去のときに元に戻してもらうことはできますか?
- できます。工事部分を外して原状回復するのか、残してよいのかを、契約の前に別表や合意書で決めておきます。
- 借主が払った工事費用を、退去のときに請求されることはありますか?
- 民法の有益費や、借地借家法の造作買取の定めにより、求められる場合があります。精算するかどうかを先に合意しておくことが大切です。
- 契約書はどこで手に入りますか?
- 国土交通省のホームページで、DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックが公表されています。実際の契約は管理会社などと内容を確かめて作ります。
- 空き家のまま置くより、DIY賃貸のほうがよいですか?
- 物件の状態や、将来どう使いたいかで違います。売る、貸す、手放すなど、ほかの方法と並べて比べることをおすすめします。
相談先を探すとき
DIY賃貸は、募集のしかたと契約書の作り方に慣れた会社と進めると安心です。空き家の活かし方をほかの方法と比べたい場合は「空き家の活用方法の比較」や「空き家の管理方法」も参考にしてください。掲載している会社の一覧から相談先を探せます。まとめて相談する方法はこちらで説明しています。
まとめ
- DIY賃貸は、借りる人の希望に合わせて改修できる賃貸。国土交通省は「DIY型賃貸借」として書式例とガイドブックを公表している
- オーナーは今の状態のまま貸せて、直す費用や手間を抑えられる
- 所有権、費用の精算、退去のときの扱い、工事中の責任、管理・修繕の5つを書面で決める
- 工事前の写真と、申請書兼承諾書・別表・合意書で、変えた範囲を残す
- 建物の基本の不具合は、貸す前に貸主が確かめて直す




