賃貸の敷地に違法駐車されたら?自力救済が禁じられる理由と正しい対応の順番

アパートの駐車場や敷地に、知らない車が停められていると、すぐにどかしたくなります。しかし自分で動かしたり壊したりすると、オーナーが責任を問われることがあります。正しい対応の順番と予防を整理します。
結論
- 賃貸の敷地に無断で停められた車でも、オーナーが自分で動かす、タイヤを固定する、傷つけるなどの「自力救済」は原則として許されず、裁判所の手続きで解決するのが基本です。
- 他人の物を壊すと、刑法第261条の器物損壊で3年以下の拘禁刑か30万円以下の罰金などの対象になり、損害賠償を求められることもあります。
- まずは記録をとり、入居者の関係者でないかを確かめ、警告の掲示をし、警察や管理会社に相談します。長く放置される車は、運輸支局で登録事項等証明書を請求して持ち主を調べる方法があります。
- 損害は民法第709条にもとづき請求できます。60万円以下の金銭の請求なら、簡易裁判所の少額訴訟も使えます(民事訴訟法第368条)。
「アパートの駐車場の空き区画に、知らない車が何日も停まっている」。「入居者から、自分の区画に他の車が停められて困ると連絡が来た」。駐車場付きの賃貸物件を持つオーナーには、よくある相談です。
腹が立って、レッカーで運び出したくなるかもしれません。しかし、自分の土地でも、他人の車に手を出すとオーナーの側が責任を問われることがあります。
この記事では、敷地内の無断駐車にオーナーがどう動けばよいか、してはいけないことと、手続きの順番を説明します。
敷地内の無断駐車とは
無断駐車の意味
敷地内の無断駐車とは、オーナーや入居者の承諾なく、他人がアパートの駐車場や通路、空き地などに車を停めることです。一般に「違法駐車」と呼ばれますが、警察が取り締まる道路上の駐車違反とは、扱いが違うことがあります。
道路での駐車違反との違い
道路交通法の駐車の決まりは、同法の「道路」が対象です。同法第2条第1項第1号は、道路を、道路法の道路、道路運送法の自動車道、一般交通の用に供するその他の場所と定めています。
| 場所 | 主な扱い | 相談先 |
|---|---|---|
| 公道(物件の前の道路など) | 道路交通法の取り締まりの対象 | 警察 |
| 賃貸の敷地内の駐車場・通路 | 所有者と車の持ち主の間の問題になることが多い | 管理会社・警察・専門家 |
敷地内でも、使われ方によっては扱いが変わることがあります。困ったときは、まず最寄りの警察署に相談しましょう。
自力救済が禁じられる理由
自力救済の意味
自力救済とは、裁判所などの手続きを通さず、自分の力で権利を実現しようとすることです。日本の法律のもとでは、自力救済は原則として許されず、権利の実現は裁判所の手続きによるのが基本とされています。手続きを待てないほど緊急で、やむを得ない特別な事情があるときに限り、ごく狭い範囲で例外が認められることがあります。
してはいけない行為
- 業者を呼んで、無断でレッカー移動する
- タイヤに鍵や器具を付けて、動けないようにする
- 車体に、はがすと跡が残る張り紙を貼る
- 車を傷つけたり、空気を抜いたりする
- 車の前後に物を置いて、出られないようにする
オーナーが問われうる責任
刑法第261条は、他人の物を壊したり傷つけたりした者を、3年以下の拘禁刑か30万円以下の罰金・科料に処すると定めています。また、民法第709条により、故意や過失で他人の権利を侵害した者は、生じた損害を賠償する責任を負います。無断で停めた側に非があっても、オーナーが車に手を出せば、逆に責任を問われるおそれがあります。
「自分の土地だから何をしてもよい」とは限りません。腹が立っても、車には手を触れず、記録と相談から始めましょう。
ポイント
- 無断駐車でも、動かす・固定する・傷つけるなどの自力救済はしない
- 車を傷つけると、刑法の器物損壊の対象になりうる
- 損害は民法第709条にもとづき、手続きを通して請求する
- 公道の駐車違反は警察、敷地内はまず管理会社と警察に相談
無断駐車への対応の順番
見つけたときの手順
- 車のナンバー、車種、色、停めている位置を写真で記録する
- 見つけた日時と、何日続いているかを記録する
- 入居者やその来客、工事業者など、関係者の車でないかを管理会社と確かめる
- フロントガラスのワイパーに挟むなど、車を傷つけない方法で、移動を求める紙を置く
- 敷地の入り口や区画に、無断駐車をしないよう求める掲示をする
- 続くときは、最寄りの警察署に相談する
- 長く放置される場合は、持ち主を調べ、書面で移動を求める
- 応じないときは、弁護士などの専門家に相談し、裁判所の手続きを検討する
入居者の区画に停められたとき
入居者が自分の区画を使えないと、駐車場の契約を守れていないことになります。空いている区画を一時的に案内するなど、入居者の困りごとを先に解決します。苦情の受け方は「入居者のクレーム対応」も参考にしてください。
持ち主を調べる方法
登録事項等証明書とは
登録事項等証明書とは、自動車の登録の内容を証明する書面です。国土交通省の自動車検査登録総合ポータルサイトによると、運輸支局等で請求でき、現在の登録事項が分かる現在登録証明書は400円、新規登録からの履歴も分かる詳細登録証明書は1,200円です(ページが増えるごとに400円が加わる場合があります)。
請求のときの注意
- 原則として、ナンバープレートの文字・数字の全部と、車台番号の下7桁が必要
- 私有地に放置されている車で、車台番号が分からない場合は、別の書類が必要になるため運輸支局等に問い合わせる
- 何のために必要かを具体的に書く必要がある。不当な目的のおそれがあれば交付を断られることがある
- 請求する人の本人確認の書面(運転免許証など)が必要
持ち主に連絡するときの書き方
持ち主が分かったら、日時と場所、写真を添えて、移動の期限を書いた書面を送ります。強い言葉や、根拠のない金額の請求は書かず、事実と求めることだけを書きます。
車に置く紙と掲示に書くこと
車に置く紙や敷地の掲示は、相手を責めるより、早く動かしてもらうことを目的に書きます。
- ここが賃貸物件の駐車場(契約者専用)であること
- 停められていた日時と区画
- いつまでに移動してほしいか
- 連絡先(管理会社の電話番号など)
紙は、ワイパーに挟むなど、車を汚したり傷つけたりしない方法で置きます。車体に直接貼るのは避けます。
入居者や来客の車が原因のとき
まず関係者かを確かめる
無断駐車に見えても、入居者の家族や来客、引っ越しや工事の業者の車であることがあります。この場合は、外部の人の無断駐車とは分けて考えます。入居者には、来客の車を停めてよい場所と時間を伝え、守られないときは契約にもとづいて注意します。
区画を超えた使い方への注意
入居者が契約していない区画や通路に停めている場合は、駐車場の契約や使用細則の決まりに沿って、書面で直してもらいます。民法第616条が準用する第594条第1項は、借主は契約で定まった用法に従って使わなければならないと定めています。
管理委託の契約で確かめること
- 駐車場の見回りと、無断駐車の対応が委託の範囲に入っているか
- 警告の紙や掲示を、だれの名前で出すか
- 警察や専門家への相談を、だれがいつ行うか
範囲に入っていない作業は、別に費用がかかることがあります。料金は会社によって違うため、事前に確かめましょう。
損害を請求するとき
何を請求できるか
民法第709条にもとづき、無断駐車で生じた損害を請求できます。例えば、入居者に代わりの駐車場を用意した費用や、貸せたはずの区画の賃料などが考えられます。どこまでが損害になるかは事情によるため、専門家に相談しましょう。
掲示に書いた金額について
「無断駐車は罰金○万円」と掲示している駐車場があります。しかし、掲示した金額を、そのまま相手に払わせられるとは限りません。請求の基本は、実際に生じた損害です。
少額訴訟
民事訴訟法第368条により、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えは、簡易裁判所で少額訴訟による審理を求めることができます。ただし、同じ簡易裁判所で同じ年に利用できる回数には上限があります。
無断駐車を防ぐ工夫
予防の方法
- 区画ごとに番号を付け、契約者の区画をはっきりさせる
- 入り口に、関係者以外の駐車をしないよう求める掲示をする
- 空き区画を放置せず、募集するか、ポールなどで入れないようにする
- 入居者に、来客の車を停めてよい場所とルールを伝える
- 防犯カメラを付ける場合は、撮影していることを掲示する
空き区画の貸し方は「駐車場経営の始め方」も参考になります。
場面の例
Dさんのアパートでは、空き区画に同じ車が週に何回も停まっていました。Dさんは日時と写真を記録し、管理会社と確かめたところ、入居者の関係者ではありませんでした。ワイパーに移動を求める紙を挟み、入り口に掲示を出し、警察にも相談しました。その後、空き区画をポールで区切って募集に出したところ、無断駐車は止まりました。
よくある失敗
- 腹を立てて、タイヤに器具を付けて動けなくする
- 持ち主を確かめずに、入居者の来客の車を責めてしまう
- 記録をとらずに相談し、何日続いたか説明できない
- 空き区画をそのまま放置し、同じことが続く
- 警告の紙に強い言葉や根拠のない金額を書き、相手との話し合いがこじれる
判断の分かれ道
| 状況 | まずすること |
|---|---|
| 一度だけ短い時間停まっていた | 記録をとり、掲示で注意を促す |
| 同じ車が何度も停まる | 関係者か確かめ、警察に相談する |
| 何週間も動かない | 持ち主を調べ、書面で移動を求める |
| 入居者の来客の車 | 入居者に停めてよい場所を伝える |
言葉の言い換え
- 自力救済:裁判所の手続きを通さず、自分の力で権利を実現すること
- 器物損壊:他人の物を壊したり傷つけたりする罪
- 運輸支局:自動車の登録や検査を扱う国土交通省の窓口
- 少額訴訟:60万円以下のお金の請求を、原則1回の審理で行う簡易裁判所の手続き
よくある質問
- 敷地に無断で停められた車をレッカーで動かしてもいいですか?
- 自分で動かすことは自力救済にあたり、原則として許されません。記録をとり、警察や管理会社に相談したうえで、手続きを通して解決しましょう。
- 警察は私有地の無断駐車を取り締まってくれますか?
- 道路交通法の駐車の決まりは「道路」が対象です。敷地内は所有者と車の持ち主の間の問題になることが多いですが、まずは最寄りの警察署に相談しましょう。
- 車の持ち主を調べることはできますか?
- 運輸支局等で登録事項等証明書を請求する方法があります。原則としてナンバーの全部と車台番号の下7桁が必要で、私有地の放置車両で車台番号が分からない場合は運輸支局等に問い合わせます。
- 掲示に書いた「罰金」を請求できますか?
- 掲示の金額をそのまま払わせられるとは限りません。請求の基本は実際に生じた損害です。
- 無断駐車の損害はどうやって請求しますか?
- まず書面で請求し、応じないときは裁判所の手続きを使います。60万円以下の金銭の請求なら、簡易裁判所の少額訴訟も選べます。
管理を任せるか迷ったら
駐車場の見回りや持ち主への連絡を自分で続けるのが難しいときは、管理会社に任せる方法もあります。違いは「管理会社と自主管理の違い」、会社の選び方は「管理会社の選び方」で説明しています。地域の会社は会社の一覧から探せます。まとめて相談もご利用ください。
まとめ
- 敷地内の無断駐車でも、動かす・固定する・傷つけるなどの自力救済はしない
- 車を傷つけると刑法の器物損壊、損害を与えれば民法の損害賠償を問われうる
- 記録 → 関係者の確認 → 警告の掲示 → 警察・管理会社への相談の順で進める
- 持ち主は運輸支局等で登録事項等証明書を請求して調べる方法がある
- 損害は手続きを通して請求する。60万円以下なら少額訴訟も使える




